2023年、春。
春。はる。
この響きだけで、なんだかほわほわする。
桜のピンクが助長して、爽やかな青空が絶妙な対比だ。
優しく浮かぶ白い月。まあるくて、かわいい。
僕、飛龍 空月は、この春から私立K学園の中等部に入学する。
今日は、始業式。
あれ。
僕の少し先。同じ制服に両手をズボンに突っ込んで、前かがみ、ガニ股で歩く姿。
「いっちゃん!」
僕はダッシュで追いついた。もう一度名前を呼ぶも、ガン無視。
「いっーっちゃん!!!」
耳元で叫ぶと、やっと反応してくれた。
振り向いた顔。眉間にたくさんシワ。
昨日までは、黒かった髪の毛。
真っ赤になっていたけど、やっぱりいっちゃん―――維薪くんだ。
「うっせぇ!!耳元でわめくな、聞こえてる。このアホ空!」
相変わらずのが鳴り声で怒鳴られた。
「おはよ、髪。パーカーとおそろいだねぇ。目立つ。」
いっちゃんは学ランの下に真っ赤なフード付きパーカーを着て、真っ赤なシューズを履いていた。
僕が隣に並ぶと、頭いっこ分くらい高い背。
隣に並ぶな。と、さらに早歩きをするいっちゃんを追う。
「ねぇねぇ、なんで赤にしたの?」
ねぇねぇ、と肩を叩いていっちゃんに払われ、また尋ねてうるさいと怒鳴られた。
いっちゃん。いつもたいだいおこってるんだよねぇ。
うるさい。うざい。とか。
疲れないのかな。カルシウムが足りないのかなぁ。
「まじうぜぇ。アホ空。」
「だって、同じ学校。一緒に行こうよ。」
いっちゃんはまた眉をひそめた。鋭い一重の瞳がさらに細くなる。
ちっ。と、いっちゃんは舌打ちした。
学校の門が見えてきて、僕は思い出した。
「わかった、スクールカラー。」
「ちげぇ!」
瞬殺。そっかぁ、じゃあなんで赤なんだろう。気になるなぁ。
僕は考えながら青空を仰いだ。
「勝利の赤。カナ。」
斜め後ろ上。ぼそり。降ってきた声。
視線をむける。
「天ちゃん。おはよう。」
今日もほんわり。それでいてクールな声。
地毛は銀色っぽくて、両目をかくすほど長い前髪からのぞくのは、青色の右瞳と茶色の左瞳。
「おはよう。空月、維薪。」
学ランの下。黒のネックウォーマーで口元まで覆っている天ちゃん―――天羽くん。
あたたかそうだ。
「ちっ、なんでてめーまで。ボケ天。」
いっちゃんは僕を、空(アホがつくことが多い)。天ちゃんを天(ボケがつくことが多い)。と呼ぶ。
僕らはほとんど生まれた時からの幼馴染だ。
3人とも親同士が知り合い。
その上、天ちゃんは僕のイトコだ。
「そっか、勝利の赤。いつも一番を目指すいっちゃんらしいね。」
いっちゃんは小さいころからいっつも一番を目指している。
その言葉通りいつもだいたい一番。
勉強も運動も。ほんとすごい人なんだ。
「おい!ちょっと待て。」
学校の門をくぐって、入学式の行われる体育館に向かう僕らの前。
5,6人の、おそらく先輩たち。の集団に呼び止められた。
「新入生がそんなナリ。ダメでしょう。」
「ダメだねぇ、ダメ。赤髪、パーカー。銀パツ。」
いつの間にかぐるり、囲まれた。
風委委員とかそういう人たちかな。入学式なのに。大変だな。
僕は、ぼうっ、と先輩たちを見回した。
いっちゃんと同じように赤っぽい髪の人。
白いけど、フード付きパーカーを学ランの下に着てる人。
新入生はだめなのかな。
「はぁ?」
いっちゃんは下から斜め上に睨み上げた。
こあいんだよねえ、いっちゃんの鋭い瞳。鷹のようだよ。……あっ!
「いっちゃ……!」
ん。と言い終える前に、後ろにいた先輩のひとりが振りかぶって殴りかかってきた。
けど、もちろん瞬時に察したいっちゃんは、左足を軸に右後ろ回し蹴りを放った。
先輩のおなかに入った。痛そう。
先に手を出したのは先輩だ。でも。
「……大丈夫、ですか。」
何だかかわいそうになって、うずくまってる先輩に右手を差し出した。
その先輩は手をのばし、次の瞬間。思いっきりひっぱってきたんだ。
前につんのめりそうになった僕は、咄嗟に身体を左反転させる。
僕の右手をつかんでいる先輩の腕が折れると困る。
僕は、手首に瞬時にひねりを加えて、素早く強制的に離させた。
あとは、おまけでターンした反動を利用して、右拳を先輩の顔の前に寸止めした。
「危ないじゃないですか。」
「ってめ!」
それを見ていた他の先輩たちが、一斉に突っ込んできた。
「天。」
突然の上からの声。何かが降ってきて、天ちゃんがキャッチした。
パンパンパン。と乾いた軽快な気持ちの良い音がたくさん響いた。
天ちゃんが僕ら2人の前で竹ぼうきを振り回す。
先輩たちの突撃を一瞬にしてすべて避けてくれた。
先輩たちは、手や足が痛い痛いと騒いでいる。
「……あ―――、たっちゃん。」
上を見上げる。校舎の窓から身を乗り出す、たっちゃん―――龍月くん。
手を振ってくれた。相変わらずお茶目で飄々としててかっこいい。
たっちゃんが天ちゃんに竹ぼうきを投げてくれたんだ。
すごいなぁ。あんな高いところから。
天ちゃんは、棒術が得意なんだよね。かっこいんだ。
普段は動きがゆっくりなんだけど、棒を持たせたら目にもとまらぬ速さで操れるんだよ。
「龍月、てめえ。見てんなら止めろよ。生徒会!」
いっちゃんは、高2のたっちゃんにも物おじしない。
僕らはたっちゃんとも幼馴染なんだ。
「あー、ごめん、ごめん。何か面白そうだったから。そこの中3の皆。
俺の連れなんだよね、3人。入学式遅れちゃうから、カンベンしてやってね――!」
両手をメガホン代わりにたっちゃんが声を張ってくれた。
「げっ、ヤベ。生徒会副会長の、如樹先輩だよ。」
「マジか、ヤベぇ。」
中3の先輩たちは一斉にざわついて、上に向かってすいません。と声をあげて逃げ去った。
え―、僕らには何もなし?
いっちゃんじゃなかったら、殴られて大変だったのに。
「天。すごいなぁ、竹ぼうき捌き。」
上からの称賛に、天ちゃんは顎を下げた。
これ、どうしたら良いの。というように、竹ぼうきを指さす。
そこに置いといて。あとで取りに行く。
と、たっちゃんは笑い、僕のこともほめてくれた。
「維薪。いーじゃん頭。目立つねー、今日。」
「ちっ、てめーもな。」
今日。あ、高等部も挨拶あるのかなぁ。たっちゃん、前にでてお話しするのかな。楽しみ。
たっちゃんは生徒会副会長なんだ。すごいなぁ。
「ありがとー、たっちゃん。」
「おぅ、入学おめでとうな。」
そんなわけでとりあえず入学式に間に合った僕ら。
中等部と高等部の一年生が体育館に集合した。
後ろのほうには親たちが陣取っていた。
父ちゃんと母ちゃん、どこにいるかなぁ。きっと目立たないように後ろのほうだな。
見えないや。
「続きまして―――。中等部、新入生代表、流蓍 維薪くん。」
「はい。」
うわぁ、新入生代表。そっか、入試。いっちゃん、一番だったんだ。すごいな。
いっちゃんが立ち上がって、みんなが一斉に注目した。
真っ赤な髪、真っ赤なパーカー。
いっちゃん。めっちゃ目立ってるよ!!やったね!!
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中書きw。
よんでくれてありがとうございます!湘です。
今回の新章、テンション↑↑↑で書き始めて1話目、即HPUP!僕としては異例です。
唐突にキャラが降ってきたw。旧章からつながる、現代の話。
そして、爆走!
書くのがめっちゃ楽しい!!
そして落ち着いて考えた。
この子らを書いている僕。親目線!!
これ以前の小説は、ほぼ等身大目線。
だから、空月の素直さがかわいいし、天羽のボケさ微笑ましい。
そして、意地っ張り維薪が愛おしい。
キュンです!
プロット・イラストらくがきですが、どーぞ。

Over The Top執筆中のらくがき♪
トリオだからこっちにものせちゃお!
2021.8.16 湘
