KとJの生き様


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無彩色で無機質。近未来的ともいえるこの空間で、二人の男はテーブルを挟んで向かい合っていた。
二人の手は、交互にテーブルの上の台紙へと迷いなく動く。
ぱちん、ぱちん。と、軽快なリズムが乱れることはない。

 「……俺は、承認できないな。」

その二人の行為を、得体のしれない物を見るような目で睨んで、むき出しのコンクリートに寄りかかった男は言った。金髪碧眼の細身だ。
葉巻を燻らせる。ガキだろ。と、煙と共には吐く。

 「僕たちもガキだったよ。」

真っ白な、カタカナの“キ”の形のピースを指と指の間にはさんで、そう答えた男は、猫口をさらに上げた。茶髪で鳶色の瞳。

一つ欠けた台紙の上の真っ白なパズルを見つめる、もう一人の男も口元を緩めた。艶冶でアンニュイな微笑。銀に透ける黒髪は、少しの癖もない。

 「この二人は、ねぇ。」

別格。と、葉巻の男の言葉を代弁するかのように口にした男は、やはりテーブルの上の真っ白なパズルを見る。
中東の匂いのする彫りの深い顔。大きな口を歪めた。苦笑。

宇宙飛行士の試験ですら、300ピースだというのに、テーブルの上のそれは、優に1000ピースはある。しかも、ものの数十分で、台紙が見えるのは、ひとピースのみになった。

 「潜在能力は、十分。GODが一目置く人の子だよ。」

それ以上理由が必要か。と、猫口の男はアーモンド形の目で言う。
ぱちん。最後のピースが有無を言わせない響きを奏でた。

それに。と、妖艶な笑みをしたまま、ゆらり。と、立ち上がった男は、白く細い指を伸ばした。数十台のモニターとPC、デバイスに囲われた、その一角。

 「彼女の意思だ。」

彼女は唯一有彩色を発しているかのように、微笑んでいる。
男がその頬に触れて、彼女の耳元で何かを囁いた。

 「はい。」

彼女はエクボをへこませた。黒く長いストレートな髪が揺れた。
男は満足そうにその髪を撫でて、葉巻の男に視線を移す。
やはり、有無を言わせない、それでいて、ぞくり。と、させられる瞳だ。
葉巻の男は両手を挙げて、首を縦に数回振った。諦観。
猫口の男は、一瞬何かを思案する様子を見せて、立ち上がると、彼女の隣にあるテーブルの上の本を手に取った。

―――“Alice in Wonderland”。

  「天才と無才は紙一重。いや、表裏一体。空想と現実も、また。彼は、アリスか白ウサギか。はてまた……。」

そういった猫口の男は、チェシャ猫の様だった。
葉巻の男と中東の匂いのする男は、目顔。肩をすくめ合う。
チェシャ猫の言っていることはわからない。だから、自分たちは凡才なのだ。と、言いたげな表情。二人同時に溜息をついた。
相変わらず彼女を愛でる男は、恍惚とした表情を浮かべている。

 「僕は、GODの為なら何でもするし、何でもさせるよ。文字通り、何でも・・・。だよ。だから、覚悟して。その代わり、報酬は約束する。」

ヒュー。と、葉巻の男は口笛を吹いた。
切れ長の一重の瞳が細くなり、薄い唇の端が上がっている。
僕は、報酬より師匠のためだね。と、口にした中東の匂いのする男も、報酬が金のみではない。と、聞いて、濃い眉を動かした。
チャシャ猫は、本の隣にあったトランプの束の中から、HeartのAceを抜き、笑った。



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イラスト公開

龍月&
K、氷風と J、未来空




氷風
年の割にはやんちゃで、自由人。だが、信念はしっかりもっている男。
B×Bの総長に就いて以降、大きな抗争を起こさず、まとめあげている。
勝手をやっているように見えるが、周りからの人望は厚く、人を引き付けるオーラがある。

未来空
秀才かつ合理的な、知識人。だが、氷風の意向で、B×Bの副総長に就いたり、なんだかんだ自由人の氷風を容認する情に厚い男。
常に冷静で熱くなることはほぼない。