
ナ ホ カ
N A H O K A
※この物語はR18です。対象の方はご注意下さい。
歌舞伎町には、女が必要不可欠。
女の匂いを求めて、男がやってくる。
金が落ちる。
クスリが飛び交う。
金が落ちる。
性欲、暴力、金。
そして、命。
歌舞伎町は、何でも呑み込み、吐き出す。
巨大なサツ入れ。
き ら れいき
綺羅 零己は真新しい校舎を見上げる。
新宿区立N中学校。
Y中学校とY第二中学校が統合されて、今年6年。
4年前に校舎落成移転。
背後には、新宿の高層ビル群。そびえ立つ。
零己は、口元を緩めた。嘲笑い。
校舎の中。日本語のみが飛び交う。喧しい。
「待てよ!!」
「逃げんなよっ!!」
乱雑で汚い言葉。ものすごい勢いで通り過ぎる。
女、3人。逃げる女を追う。
トイレに追い込む。
トイレの中。声にならない叫び。面白がる叫び。
数分で女たちが出てきた。手にはハサミ。
トイレの中。隅にうずくまる女。嗚咽を漏らす。
「キレイだったのにね。」
女、顔を上げる。涙で濡れた頬。
肩まで伸びたストレートの黒髪。ザン切り。
差し出された零己の手を見る。白く長い。
身体、華奢で白い肌。
思春期の男臭さなど、全く持ち合わせていない。中性的。
「髪、ムカツクね。」
女と視線を合わせる。
「ねぇ、どうして欲しい?」
女は口を開く。――同じ目に合わせて。
零己は笑った。狡賢い笑い。
「ナマエは?」
な ほ か
「……菜仄香。」
零己は菜仄香の腕をとった。
1年1組の教室の前。
「ちょっとまっててね。」
菜仄香の頭をなでる。優しく。
「どこいってたの。探したわ。」
担任の女。安堵のため息。喧騒が止む。
促されて雛壇に立った。
見まわす教室。日本人だらけ。
菜仄香の席、空席。
机のいたずら書き。教科書が引き裂かれ、散乱している。
皆、無関心。担任の女、見て見ぬフリ。
自分さえよければいい。
「綺羅 零己くん。ついこの間まで、カナダのバンクーバーというところに住んでいたのよ。」
自分のことのように紹介。
教室、尊敬のまなざし。外国人を見る、畏敬。
女、零己の全身を眺め見る。男、視線を合わせない。
身長、160センチOVER。華奢。イケメン。
「よろしくお願いします。」
笑顔。誰もが気に入られたいと思う。
銀色がかった髪が揺れる。さらりとしていて清潔。
零己は、担任の女に耳打ち。
――少し、気分が悪いので、保健室に行ってもいいですか。
担任の女、心底心配した顔。頭を縦に振る。
零己は一礼をして教室を出た。
「ナホカ。おいで。」
廊下の隅。うずくまる菜仄香に手招いた。
保健室、素通り。颯爽と繰り出した。
昼間の歌舞伎町。
夜の準備に忙しい。色褪せた看板たち。
まだ、深い眠りから覚めない。
「……あの……れ、零己……くん?」
名前を確かめながら口開く。
「零己でいいよ。」
笑う。優しい笑み。錯覚させられる。
手をとられたまま、うつむく。頬が桃色に染まる。
さくら通りを入った右手、Hビル2F。
有名雑誌読者モデル、ショップ店員から絶大な支持。
歌舞伎町の人気サロン。
「いらっしゃいませ。」
快い接客。零
零己は素早く店長を見つける。耳打ち。
店長の女、零己を見る。笑顔。
菜仄香を丁寧に席に案内する。
菜仄香、緊張している。白い頬が赤く染まる。
零己は菜仄香の肩を叩く。店長を裏へ。
数分で戻ってきた。
店長が菜仄香の後に立つ。
手にはハサミ。リズムよく鳴く。
綺麗に切り揃えられた黒髪。トリートメントも念入り。
長く伸びた前髪は、眉ギリギリで整えられた。
「かわいいよ。」
鏡の中。零己が笑いかけた。菜仄香の頬が染まる。
暗い表情が一気に明るんだ。目鼻立ちが強調される。
「おいで。」
店の奥促される。
目の前には、小花柄のピンク&白のワンピ。今年流行のアシメ。
菜仄香はおそるおそる手にした。
「着替えて待っててね。」
足取り軽く店の外へ出た。ケータイを取り出す。
「……零己?」
「えらいジャン。仕事中にでるなんて。」
小バカにする。相手、父親。――血の繋がりはない。
「そろそろカードが欲しいナ。」
子供が飴を強請る言い方。
「……今朝だって5万も……もういいかげ…」
「そんなコト言える立場かよ。」
父親の言葉を遮った。尖る言葉。氷のように冷たい。
「あん時、俺、何歳だったと思ってんだよ。」
「……。」
父親、口を閉ざす。何も言えない。
「それにさぁ。」
わ か っ
――あんた、何でまだ生きてるか、理解できてる?
零己の冷淡な視線。電波に乗る。
父親、硬直。
・ ・ ・
「ねぇ。知ってるでしょ。俺の本当の父さん。」
――同じメに合いたいの?
父親、生ツバを呑み込んだ。
「ね。じゃあ。いつもんとこ置いといてよ。」
口元を緩めた。勝利。
素早くケータイをしまう。店に戻る。
「……どう、カナ?」
目の前には、恥じらいを見せる菜仄香。
「うん。イイヨ。すごくカワイイ。」
零己に気に入ってもらえた。満悦。
菜仄香。
白いナマ足が露出。――出すぎではない。
胸元が開いている。――見えすぎではない。
子供っぽくないコ―ディ。――大人すぎではない。
再び歩き出した。風林会館を右。区役所通り。
菜仄香、黙ってついてくる。
ためらいひとつ見せずに敷居を跨ぐ。
グラビア、雑誌撮影のエキスパートが揃う、歌舞伎町のスタジオ。
シャッターを切る音。フラッシュ。
着飾った女たち。有名モデルばかり。
菜仄香のテンションが上がる。
「次は、ナホカの番だよ。」
「え?」
理解できぬまま。なすがまま。従う。
「すっごい楽しかったぁ。ありがとう、零己。」
腕を絡める。容姿が変わると性格も変わる。
零己は頷いた。女を手名付ける手段を知り尽くした顔。
「ねぇ、ナホカ。明日、楽しみにしててよ。」
「うん?」
無邪気な顔。後ろ手を振って別れた。
家、西新宿。一軒家。
「おかえり。」
「ただいま、母さん。――学コ、気分悪かったから帰ってきちゃった。」
母親、心底心配する顔。
「電話、入れといてよ。少し、部屋で休むね。」
母親、一つ返事で頷く。
自分の部屋。6畳洋室。整理整頓されている。
内鍵をかける。窓のカギを開ける。
私服に着替えて繰り出した。歌舞伎町。
帰国後、この街を知るのに一ヵ月かからなかった。
誰もが顔見知りになる。気に入られたいと思う。
女、男。そして、ヤクザ。マフィアさえも。
「ねぇ、ちょっとイイ話があるんだけど。」
零己、ケータイに耳を傾ける。
相手の返答を待ってケータイをしまう。
鼻歌を歌いたくなる。上機嫌。
駅のコインロッカー。茶封筒。薄っぺらく固い。
零己は笑った。さらに機嫌が良くなる。
銀行で確認。100万と少し。
少なすぎではない。――多くはない。
夜の歌舞伎町。
誰もが自分に従う。
女、男。そして、売人。
「初めまして、シュウさんでしょ。」
路地裏。湿ったナマ温かい空気。生ゴミの臭い。
男、驚きを表わさず微かに頷いた。色のない瞳。
零己は口元を緩める。
ズィー
「俺、零己。“Z”っていえば解かる?」。
シュウは目を見張る。周りを気にする眼光。鋭くはない。
痩せぎすな身体。薄汚れた白のTシャツが顕す。
「大丈夫だよ。誰も見てない。」
零己は手を出した。白く長い指。
シュウ、一瞬ためらって、そして渡す。クスリ。
「ありがとう。今後もヨロシクね。」
金を見て、笑った。覗く八重歯。黄色い。
着々と進んでいる。追い風が零己の背中を押す。
日本の生活も、楽しくなりそうな予感。
零己は笑った。
「零己くん、もう大丈夫なの?」
朝の教室。一瞬にして人だかりができる。
零己は優しい笑みを返す。紳士的。女たちが見惚れる。
菜仄香、まだ来ていない。
次の瞬間、周りが騒がしくなる。
零己は笑う。得意気。
クラスの大半が教室を出て行く。
廊下の掲示板。貼り出された写真。
一つは菜仄香。モデルさながらの可愛らしさ。
一つは女たち。辱められた醜悪さ。
対象的。一瞬で立場が変わる。
「菜仄香ちゃん来た〜!!カワイイ〜!!」
アイドルの登場。容姿が変わると周りも変わる。
菜仄香、一瞬戸惑い、零己を見た。恍惚の表情。
零己は笑う。見方だと示す笑い方。
「零己!」
菜仄香の瞳。崇拝する目つき。
「本当にカワイイヨ。ナホカ。ねぇ、もっとカワイクしてあげるよ。」
菜仄香、頷く。零己の言葉。全て信じられる。魔法。
「きゃあ。何、ここ?」
菜仄香の歓喜の声。290uに響き渡る。
新宿3丁目。小規模最高級ホテル。
慣れた手つきでカードキーをカウンターに置いた。
リビング、ダイニング、キッチン、書斎、ベッドルーム。
欧米の高級個人邸宅を思わせる。
最高峰のスイート。プレジデンシャルスイートルーム。
「気に入った?」
「すっごい。すっごーい!」
菜仄香のテンション、MAX。頬が紅潮する。
零己に抱きつく。柑橘系の匂い。
零己は菜仄香の肩を抱く。
菜仄香、一瞬硬直する。しかし、従った。
唇が重なる。優しいベーゼ。
「恐がらなくてイイヨ。」
甘い声。嫌な気など全くしない。むしろ、光栄。
「ちょっと痛いかもしれないけど、大丈夫だからね。」
菜仄香は頷く。身を任す。ベッドに横たわる。
身体が重なる。唇を吸った。菜仄香の瞳が潤んできた。
スカートの中に手を入れる。優しく下着を剥いだ。
菜仄香の眉、シワが寄る。漏れる吐息。
零己がベルトを緩める。慣れた手つきで菜仄香の中へ。
菜仄香が唇をかむ。両手、大の字でシーツをつかむ。
優しくゆっくり腰を動かす。数十分。
コトが済んだ後。微かな痺れ。
菜仄香をバスルームへ案内する。
最高級の深緑大理石。
ジャグジー、サウナ、。360℃シャワー完備。
「キレイだよ。」
零己の言葉。菜仄香の心に浸透する。
促されるまま跪く。口に含む。ナマ温かく柔らかい。
「上手だよ、ナホカ。」
菜仄香を後ろ向きにさせる。腰を折らせる。
「はぁっ……あっ……」
菜仄香の喘ぎ声。バスタブの端に爪を立てる。
一度目とは明らかに異なる。
零己の唇の端が上がる。思った通りだ。
コトを済ます。再びベッドに舞い戻る。
「……っれいき……」
菜仄香、今度は自分から求めてきた。
「ねぇ、ナホカ。俺のお願い、きいてくれるかな。」
潤んだ瞳。肯定。
零己は笑った。甘い笑い。
菜仄香も笑った。役に立てる喜び。
二人は何度も絶頂を迎えた。
「殺して。」
菜仄香からの電話。涙声。土曜の朝。
「零己。殺して。今スグ。殺して!」
憎悪、爆発する寸前。
「ナホカ。大丈夫だよ。落ち着いて。俺のゆうことよくきいて。」
冷静な言葉。諭す。
母親の彼氏からの凌辱。
菜仄香の親。父親消息不明。未婚の母親。
母親は水商売。
零己はPCを開く。下準備。
ポケットに忍ばせた。ペティーナイフ。
菜仄香の家へ向かう。足軽。日が傾いた。
「零己!」
セーラー
制服姿の菜仄香を抱きしめる。労わるように。
菜仄香の部屋。ピンク&白で統一されたお姫様部屋。
ぬいぐるみが顔をそろえる。
「大丈夫。ナホカならできるよ。」
「うん……」
ケータイを握り締める。震える手。
数十分。騒々しい足音。零己が身を隠すr。
な ほ
「菜仄ちゃん。」
母親の彼氏。真面目ヅラの30代後半。リーマン。
「今朝は……ごめんなさい。……ちょっと、驚いちゃって…」
菜仄香、恥じらいを見せてうつむく。巧い。
母親の彼氏、笑う。下卑た笑い。下心。
「菜仄ちゃんが会いたいなんていってくれるから、仕事抜け出してきちゃったよ。」
ジャケットを脱ぐ。ネクタイを緩める。Yシャツの背中、汗がにじむ。
母親と同伴後、家にあがりこむ。週末の日課。
母親、今夜も仕事。
菜仄香は笑った。見上げた女優顔。
跪く。スーツのズボンに手をかける。
「……菜仄ちゃん……」
戸惑うフリ。身体は正直。
菜仄香の小さな手が艶めかしく動く。仕込み甲斐がある。
「菜仄ちゃん、本当に可愛くなったよね……うっ、気持いいよ……」
快楽の表情。透明の雫が光る。
「菜仄ちゃん……俺、もう我慢できないよ……」
限界。菜仄香の表情が変わる。
「オジさん。ちょっと欲出しすぎじゃない?」
零己がケータイを向けた。映し出される映像。
菜仄香が離れる。
だらしない格好の母親の彼氏。驚愕。
「凄いね。情報化社会って。オジさん。今日から有名人だよ。」
零己は親指を決定ボタンに這わせた。
「やっ、やめろ!!」
ケータイを奪う手。するりとかわす。
菜仄香が笑う。小悪魔的。
「何だお前らっ!!…こんなことして…」
「どの口がゆうの?」
零己の言葉。冷たい。嘲笑。
「大きな声出して、恥ずかしいよ。」
ケータイをテーブルの上へ放る。慌てて握り締めた。確認。
「大丈夫。俺のPCに送っといたから。」
送信済みの画面。落胆。零己は笑う。興い。
「オジさん、役職もそこそこだし。頭、悪くないんでしょ。」
差し出された手。白い。
サイフを受け取る。カードを抜く。菜仄香に手渡す。
「ねぇ、ナホカ。用がなくなったら殺しちゃえばイイヨ。ほら、こうやって――」
無邪気な口調。突き刺したナイフ。手加減なし。
母親の彼氏、目をこれでもかと開く。口も開いた。
「これからは、ナホカのゆうことよくききなよ。」
子供を窘めるイイ方。悪びれる様子はない。
菜仄香はほくそ笑む。零己が全て。
「カード。停めたりしたら、どうなるかわかるよね。」
無垢の笑顔で容赦ない言葉。ポケットから取り出す。クスリ。
母親の彼氏。首を忙しなく振る。
「今日は、大サービスだよ。」
腕をつかむ。注射器から液体が押し出される。叫び声。
「俺、上手だから大丈夫だよ。」
カ ー ド
満悦。名刺を差し出す。数字の羅列。
「欲しくなったらいつでもゆってね。」
「零己!」
菜仄香の甲高い声。迎え入れた時と異なる。
「ナホカ、よく頑張ったね。エラかったよ。」
ご褒美の抱擁。菜仄香の笑顔。
「そうだ。」
上半身を離す。白い歯をこぼす。並びが良い。
「女の子たち、集まったよ。」
やはり、狂いはなかった。
「ありがとう。」
零己は笑った。気に入られたいと思わせる、最高級の笑み。
NAHOKA――ナホカ。
零己には絶対服従。従順な雌犬。純真無垢。
零己が全て。すべて、零己中心に動いている。
絶対的存在。カリスマ。
歌舞伎町には、女が必要だ。
可愛すぎない――ブスではない。
アタマが良すぎない――バカではない。
NAHOKA―― ナホカ。
かぶきちょう
>> 歌舞伎町へ
オモチャ
>> 玩具へ
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| あとがき こんにちは、湘です。 読んでくれてありがとうございました! 今回、ちょっと日数かかちゃいました。けど、20P超えしなくてよかった〜。と、相変わらず短編が苦手な湘です。 「NAHOKA」はZEROシリーズ初の過去ものです。 菜仄香が零己の信者?になったワケ。ってとこでしょうか。 零己が歌舞伎町を掌握していく手始めの物語。 そして、この2年後が「歌舞伎町」になります。 現在、そのまた過去もののプロトかいてます。 零己の原点の話。カナダでの話ですが、「歌舞伎町」への足がかりになる予定です。 また、「玩具」での最後にちらっとでてきた海昊の話とも関連があり、両方のプロトを並行作成中! 乞うご期待!!! 湘より |
