TOMORROW
Stage 5 ―Tomorrow―
1//3///あとがき

                           3


  <後半、キック・オフ。1対0、北海道リードのまま開始です。>

北海道。
そのクールな顔を変えてやる。

  「来るぞ!」

長い縦パスがディフェンスから送られる。
とうみ
凍未さん、しっかりキープ。
サイドチェンジ。
   あすか
  「飛鳥先輩!」
        や し き
  「ナイス、夜司輝。」

夜司輝のインターセプト。
攻守の切り替え。
ワンフェイク。        ひらね
夜司輝が巧みなフェイクで片根さんを抜いた。
               ほしな    や し き
  <神奈川、1年生の星等 夜司輝、見事なフェイント!>
          くりま
上がって来い、栗馬。
1点守ろうなんて思うなよ。

  <神奈川猛攻撃!しかし、全てシャット・アウト!>

こい、栗馬。

  <おっと、神奈川全員攻撃!ディフェンスが浅い、殆ど皆、北海道陣にかけこむ態勢!>

とれるかもしれない。

  「夜司輝打て!」

フェーポストの夜司輝にセンタリング。
入れろ、夜司輝!
         ま あ ほ
  「夜司輝、茉亜歩さん見てるぞ!!決めろ!!!」
るも
流雲の声。

  <はいった――!!入りました。1年生星等のファーポスト、見定めたヘディングシュート!!1対1同点です――!!>

よし!!
その瞬間に短い笛が響いた。

  <タイムをとる様子、北海道ベンチ。>

俺たちはベンチに戻る。

  「よくやった、夜司輝!」

  「ありがとうございます。飛鳥先輩のアシストのお陰です!」

満面の笑み。
茉亜歩さん、見てますか。
                                                 ちたか
  「よーし、向こうは攻撃してくるに違いない。それこそ、手中にはまったも同然。知鷹、頼むぞ。」

  「まかせとけ。」

  <神奈川のってきたか。全員攻撃、攻めの攻撃にでています。後半残り、15分、さーいよいよ大詰めです。>

  <ここは両チーム慎重にいきたいところですね。>

タイム・アウト。
1対1。
栗馬はいやでも上がってくる。
栗馬、来い!
                   てだか    ふかざ
  <跳ね返った――!飛鳥、豊違、吹風。神奈川オフェンス陣、猛攻撃!!すごいすごい!シュート嵐。神奈川コート殆ど無人!>

こい、カウンター!
そんときは栗馬、お前たちの負けだ!

  <痺れをきらしたか、スイーパー栗馬。混戦を抜けて一人、前線へ飛び出した。でるか、縦パス、カウンター!!>

  「嘉さん!!」

ディフェンスから大きくタテパス。
頭上をこす。
一気に北海道、カウンター。
グラウンドいっぱいに広がる。

  「確かにいい足をもってるよ、お前。」

嘉さん、栗馬をしっかりシャット・アウト。

  「でも、スピードをとめられたら、どうかな。」

攻撃をしかける。
砂をける音。
もう、栗馬はリベロじゃない。
嘉さんの十八番、1対1。

  「くっ、戻れ!」

瀕死の凍未さんの声。
180センチ台の嘉さん、チーム一の俊足の嘉さんに敵うわけがない。
   いなはら
  「稲原!!」
                     いなはら  ちがや
  <今度は神奈川、ディフェンス稲原 茅のオーバーラップ。タウンター返しだ――!!>

北海道のディフェンスが高さで崩れた。
               もりあ
嘉さん、茅さん、そして、壮鴉さん。

  「ディフェンスだと思ってなめんなよ!!」

  <稲原、知鷹の高いセンタリングに長身をいかして、ジャンプヘッドだ――!!神奈川2対1。後半35分。逆転!!!残りは5分とロスタイムのみ。時間がない北海道!!>

勝てる。
栗馬を失った、北海道。
かなりの痛手のはず。
              つ ぎ ら     なつく                                                  えだち   みま
  <渾身のシュート、津吉良 懐。しかし、神奈川キャプテンキーパーの徭 神馬良く見ていました。しっかりキャッチ。ボールは、北海道陣内へ――!!>

  <いいですね、落ち着いています。>

そして、長く、高いホイッスルが俺たちの耳に轟いた。

  <ここで、試合終了――!!2対1。神奈川S高校、決勝初進出――!!>

  「やったあぁぁぁ――!!!」

  「勝ったぞ――!!」

皆、集結して抱き合った。
俺たち、やったんだ!
勝った。
決勝。

  <前半、1点リードされたものの、後半のすばらしい反撃。奇跡の逆転劇――!!全国高校サッカー選手権大会。あとは、明日の決勝を残すのみです――!>

ものすごい歓声。
耳をつんざいた。
拍手、拍手、拍手。
   あすか    きさし
  「飛鳥 葵矩。」

今度は、敵意は全くなかった。
栗馬は俺のところまで来て、少し、照れくさそうに、

  「悪かったよ。」

手を差し伸べた。
栗馬……。
       
  「また、闘ろう。」

  「ああっ。」

俺の言葉に笑って頷いてくれた。
俺たちは堅い握手を交わす。

  「おめでとう。あと、1つですね。」
           けおと                                     ほのか
そこには、愛知の華音さんをはじめ、ねいろさん、仄さん。
          にのみち       おもね
そして、徳島の二導さんに阿さん。

  「よう!やったじゃんか。ちょっとハラハラしたけどな。」
           わしは      のぶし
なんと、鹿児島の鷲派や延施さんまで。

――おめでとう。

皆、戦友たちが祝いの言葉を投げかけに、来てくれていた。
それは、すごく嬉しいことで。
俺は、感激のあまり、泣き出しそうだった。

  「完敗でした。悔いはありません。」

凍未さんは徭さんと握手を交わす。
決勝、頑張ってください。と、俺にも手を差し伸べてくれる。

 「飛鳥、もうお前たちだけの夢じゃないんだよ、優勝は。」

ねいろさん、そういって皆に目配せをした。

――俺たちの願いもこめられてるんだ。

皆、笑顔で俺たちを見た。

戦友たち全員の願い。
サッカーという絆で結ばれているのを感じた。
肌でぶつかりあって、一緒にプレーをして。
サッカーの喜びを分かち合って。
何よりも強い、俺たちの絆。
勝ち負けよりも大切な絆。

  「お前は不思議な奴だよ。」

軽く、二導さんに肩を叩かれた。

  「お前と一度闘ったら、誰でも思う。誰でもわかるんだ。サッカーをする喜び。ずっと、サッカーをしたいって思うんだよ。」

  「ああ。そしてもう一度闘いたいって。」

阿さんが言葉をつなぐ。

  「人を魅せるものがあるよ。飛鳥のプレーは。性格が表れてんだろうな。」

延施さん。
そして、皆も頷いてくれる。

……。
すごく、嬉しくて言葉にならなかった。

  「ありがとうございます。」

そんな陳腐な表現しかできない俺に、皆は笑顔を向けてくれる。
戦友の激励をうけて、俺たちは、最終戦に向けて練習に励んだ――……。


   てだか
  「豊違!!」

グラウンドに徭さんの叱責が響く。

  「グラウンド駆けて来い。」
              いおる
厳しい徭さんの声に、尉折は小さく返事をして、ランニングに向かった。
……尉折。

  「飛鳥。何かあったのか。」

徭さんが、心配そうな瞳で俺を見た。
尉折は今だバッドコンディションで、プレーにもキレがなく、迷いが生じていた。
そんな雰囲気を感じ取って、話しをきいてやってくれ。と、優しく徭さん。

  「……はい。」

力になりたい、けど……。

  「尉折。」

きっと、自分でもどうしたらいいのかわからないんだろうな。
背中がそういっている。

  「情けないな、俺。」

水のみ場で思いっきり頭から水をかぶった。
滴り落ちる水もそのままに、尉折は俺を見る。
                         じゅみ
  「俺、このまま、心にウソをついたまま樹緑とは付き合えない。」

嫌な予感がした。
尉折は目を反らさず、じっと俺を見た。

――樹緑と別れようと思う。

俺は目をつむった。
丁度、その時微かに人の気配を感じて、振りかぶる。

  「……樹緑。」

尉折の声。
数秒の重い沈黙。
いぶき
檜は俺たちを見て、固まって、そしてうつむいて……。

  「檜!」

その場から逃げるように駆け出した。
檜が投げつけた、リング。
尉折から贈られた、リングが転がってくる。

  「尉折!追えよ!!」

  「……ない。」

――追えない。

俺はただ呆然と立ち尽くす尉折を見て、そして檜の駆け出した方へ向かった。
大きな木の袂。
檜は声を押し殺して泣いていた。
声をかけられない。
何ていったらいいんだ。
慰めの言葉なんて……。
    みたか
なあ、紊駕。
教えろよ、お前ならこんなときどうするんだ?
立ち尽くすしかない俺。
情けない。

  「飛鳥くん……。」

優しい声と叩かれた手に振り返る。
   ま あ ほ
  「茉亜歩さん。」

  「樹緑ちゃんはまかせて。それより、豊違くんのほうにいってあげて。」

茉亜歩さんの好意に甘えて、俺は頭を下げ、尉折の下へ戻った。
尉折はまだその場にいて、疲れきったようにしゃがんでいた。

  「尉折。」

俺が声をかけても、固まったように動かない。

  「よく、考えろよ。いつも一緒にいたのは檜じゃないか。辛いときも、苦しいときも。側にいてくれたのは、檜だろ。」

俺は、そんな2人がすごくうらやましくて、大好きだったんだ。
だから。
別れるなんていうなよ。

尉折は無言。

わかってる、俺がこんなこという資格なんてないこと。
わかってる、2人の問題だってこと。
自分にウソをついてまで、檜と付き合い続けるのはよくないのかもしれない。
でも、でも。

俺は、檜が投げ捨てたリングを握り締めてた。
楽しそうに、笑っている2人の笑顔が、焼きついていた。
それが、ガラスのように脆く、壊れてしまうのか。

  「尉折。」

尉折が顔を上げた。
薄い唇をこれでもかってくらい、かみ締めた。
                           ひろた
  「ムシが良すぎるよ。樹緑も好きだけど、模淡のこともわすれられない。こんな気持ちのまま、樹緑と付き合うなんて……。」

初めて、尉折のこんな表情を見た。
自分を責めている。
俺は、そんな尉折にしてやれることは、何もなかった――……。


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