

2 「っ痛ぇーな!!」 久々に朝から学コ。 後ろからの衝撃に振り返る。 「へへーんだ。不良〜!」 あの、滄 時雨って女がカバンを振り回しながら追い抜いて行った。 「こっの。てめぇーだって髪染めてんじゃねーか!」 「髪染めたら不良なんだ。知らなかったな〜!」 この女ぁ。 ムシ、ムシ。 いちいち腹立つ。 「こらぁ、滄!」 滄 時雨は目の前で生徒指導のセンコーに捕まって、髪のことを言われた。 へ、ざまぁみろ。 しおらしく染めてないことを告げる。 見え透いた嘘。 「時雨……本当に自分の髪の毛なの。それなのにいつも先生にいわれちゃって……」 うしろからか細い声の女。 俺の知ったことか。 時計を見上げる。 8時10分。 俺は、学コを出た。 「その財布、こっちによこせよ。」 校門のすぐそばの団地の裏。 男たちが群がってる。 「おとなしく渡せっつってんだよ。」 「……だ。……誰が渡すかっ。」 その中央に地面を舐めた痩せた男の姿。 きつく握った手の中の財布。 「んだと。てめぇ、なめてんのか!」 カツアゲ。 3人がかりでバッカじゃねーの。 ぼこぼこに殴られてるその男も。 死ぬぞ。 「お前らに……やる金なんて……ないっ…」 意識もうろうとしてる中。 握った手だけは開こうとしない。 「……。」 必死で守ってる。 ボロ雑巾みたいな顔。 「だっせーカツアゲかましてんなよ。」 「誰だてめぇ!」 一斉に3人の男が俺に振り向いた。 ちょうどいい。 俺は向かってくるそいつらをめったくそにしてやった。 気晴らし。 殴る、蹴る。 蹴る、殴る。 手ごたえなしの男たち。 一瞬で地面に落ちる。 俺にかなうわけがねーだろが。 てめーらとは違うんだよ。 金がほしいなら万引きでもしてこい。 できねーくせにいきがってんじゃねー。 「お、覚えとけよ!」 3人は逃げ腰になって消えた。 いちいち覚えてられるか。 「……あ、ありがとうございました。あの……」 下に這いつくばってる男。 まだ財布を握り締めてる。 俺は見下した。 「何でテメーはそんなに弱ぇーんだよ!男だったらやり返すことぐらいしろよ!弱ぇーなら弱ぇーなりに素直に金渡しゃいーんだよ!ぼこぼこにやられてバカじゃねーの、信じらんねー!!」 何意地張ってんだよ。 死ぬぞ。 テメーもあの女と同じ。 礼をゆうくれーなら自分で何とかしろよ。 ポケットにあったハンカチ、投げ捨てて、俺は悪態づいた。 ああゆうやつ、何考えてんだか、ほんと、わかんねー。 テメーが殴られて死にそうになってまで、大事なのかよ。 そんなの、意味あんのかよ。 「こら、学生じゃないのか。こんな所で何してるんだ。」 目の前には湘南海岸。 道路を渡る直前で声をかけられた。 おまわり。 ちっ、ついてねー。 「るせーな。見りゃわかんだろ。サボりだよ、サボり。」 「……ちょっと来なさい。」 めんどくせー。 おまわりは俺の腕をつかんだまま、歩いた。 交番。 「ほら、泣かないで。何処で落としたかわかるかな?」 交番の前、別のおまわりが、ガキをなだめてた。 ぴーぴー泣くガキ。 うるせー。 「名前は?」 「流蓍 薪。」 おまわりが、俺の顔を見る。 またこいつか。 顔に書いてある。 「学校は?」 「D中。」 「何年何組?」 「1年7組。」 おまわりは事務的に質問し、記録した。 ったく。 いっぺんにききやがれ。 つーか知ってて聞いてんだろ。 おまわりを睨む。 「自分が悪いことしてるってわかってるのか?」 おまわりは眉間に皺をよせた。反省しているのか?と、問う。 してないだろ。顔に書いてある。 反省。 んなもんしてねーし、するつもりもねー。 「よかったねぇ〜!」 おまわりのゆがんだ顔が、外の声で和らいだ。 腰を少し浮かす。 「見つかったのか。」 椅子の背もたれに体重をかけて外を見る。 さっきまで泣きじゃくってたガキが笑顔を見せてた。 隣には、さっきの男。 殴られても、蹴られても、決して渡そうとしなかった財布。 男はガキに笑顔で手渡した。 「ちゃんとせんえん入ってる〜。」 ガキはさらに笑顔になった。 1000円。 ……。 バッカみてぇ。 「君、中学生だろう。どうしてこんな時間に?その傷は……」 「え、えっと……」 男は頭を掻い言葉を濁した。 言えばいーだろが。 この1000円のおかげで殴られたって。 何黙ってんだ、こいつ。 「さぼそうかな〜なんて……」 ……。 それ拾ったがために遅刻したんだろ。 「あ。」 男が俺に気がついた。 口がUの字になる。 「知り合いか?」 「しらねーよ。」 机を蹴飛ばした。 睨みつけたらおまわりはあからさまに不機嫌な顔をして、ななめった机を直す。 「流蓍くんだよね。僕、同じクラスの……・」 バカか、こいつ。 俺は、男の腕を取って交番を飛び出した。 おまわりの制止の声を振り切る。 ここまでくりゃ大丈夫だろ。 「バカか、何でめぇの名前、おまわりに言おうとしてんだよ!」 「流蓍くんだよね。」 「は?」 俺が怒鳴ったら、男は、でっかい口をUの字にして、笑った。 「流蓍 薪くん。僕、同じクラスの天漓 青紫だよ。」 ……。 一瞬あっけにとられた。 「んなこたぁ、聞ぃーてねーよ!」 俺はさらに怒鳴った。 だが、青紫は、ありがとう。と、笑顔で言った。 こいつ……。 「……てめぇな。何で言わねんだよ。あの財布。あれ拾って奴らに絡まれて、んで、遅れたんだろ。言えばいーじゃねーか。」 「今日、家でるの少し遅かったから。」 青紫はおっとりとした口調で言った。傷だらけの顔。 「……んな、たかが1000円ぐれーで殴られてんなよ。」 「たかがじゃないよ。1000円稼ぐのは大変なんだよ?だから、交番に届けようと思った。でもあの人たちに見つかっちゃって。運悪かったな。」 ……だからって。自分が傷ついてまであんなことできんのかよ。 拾った財布。1000円。誰が交番にもってくんだよ。 どこのどいつが、そんなのの為に身体張んだよ。 「……弱ぇくせに、かっこつけてんじゃねー!!」 「ほんと。かっこ悪いよね。流蓍くんはケンカ強くていいな。うらやましい。」 ……。 天漓 青紫。 ちょーバカヤローの正直者――……。 <<前へ >>次へ <物語のTOPへ> |