1/2/3/4/5/6/Atogaki


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   乾いた木魚の音と、奏でる日蓮宗の経が、再び俺を、深くて暗い谷底へと陥れた。
   昼間はあんなに青かったのに、神様は今度は黒の絵の具を零しやがった。
   こんなに、神様が憎いなんて思ったことない。
   返せ。
   立さんを返せ。
   返せよっ。
   拳を握り締め、俺はやり場のない怒りを神に向けた。
   祟りだって何だって受けてやる。
   ……もう一度、立さんの声を、笑顔を、俺に与えてくれるなら。
   俺は……何だってする。
   何だって……しますから……お願いです。
   立さんを、返して下さい……。
   そんな俺の願いなんて、きいてくれるはずもなく、夜は更けていった。
          りつか
    「……俚束。」

   経ももうじき終わるころ、矜さんが呟いた。
   礼服に身を包んで、いつもは長くたらしているソバージュの髪を一本に束ね、笑顔にならないひきつ
   った微笑を垣間見せた人。
   立さんの彼女、俚束さん。
   ……俚束、さん。
   言葉なんて、みつかるはずなかった。
   ただ、すぐさま翻した俚束さんの背中を見つめるのが、精一杯で……。

    「箜騎っ……。」
              ほずみ
   細い瞳に涙をためて、保角は俺の名を呼んだ。
   通夜が終わった今夜、俺達“THE ROAD”の夏最大のイベントの集会が予定されてた。
   横浜の山下埠頭。
      ながき みやつ とひろ
   修や造、斗尋、いつもの顔ぶれが揃っているのに。

   ……あの人は、もう。
   いない……。

    「どうしてこんなことにっ……」

   今夜に限って、いつもの港を照らす船のライトも、汽笛もなくて、静寂と暗闇が辺りを支配してた。

    「矜さんは知ってたんですかっ。」

   半ば責めるかの口調で、頬に涙を伝わらせて、修。

    「ああ。……2年になる。」

    「じゃあっ、どうしてっ!?」

   保角の大声に――、

    「言えばよかったっていうのかっ?お前らに。言ってどうなる?言って……聞いたお前らに何がで
   きる?何か、できたのかよっ!!」

   矜さんの瞳が、涙でうまった。

    「立を悲しませるだけじゃないか。立に、辛い思いをさせるだけじゃないかっ。俺はっ……俺はっ…
   …立はこの2年間、俺に病気のこと知られたことを、ずっと……俺に辛い思いをさせたって……そう
   後悔してた!!」

   涙をすすった。

    「たまたま立の発作にでくわして……俺だって知らなかった。立のこと、わかってやれなかった!!
   何もしてやれなかった!!」

   冷たいコンクリートに拳をぶつけた。

    「何で立なんだよっ!!何でっ何でっ、何で立が死ななきゃならないんだよっ――!!」

    「矜さんっ……。」

   その夜。          バラ         
   “THE ROAD”は解散された。
   立さんの最後の意志と共に、横浜一でかい族、“THE ROAD”は、一生抗争を起こさないことを誓い、
   新しきを迎えた。
   8月の朝日に照らされて――……。


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