1/2/3/4/5/6/Atogaki


                                   4


   ――箜騎、ありがとう。

       お前はずっと、俺の側にいてくれた。
       俺がサッカー投げ出して、荒れたときも。
       いつも。
       お前の優しさ、俺は大好きだ。
       いつまでも優しさを失わずにいろよ!!

       P・S 俚束のこと、よろしくたのむ。


                          龍条 立 ――


   立さんはずっと前から、俺が俚束さんのこと好きなのを気づいてた。
   亡くなる前、“THE ROAD”の皆、一人一人に残してくれた手紙。

   ――P・S 俚束のこと、よろしくたのむ。

   その一行が……。
   その一行が、そう証明してる。

    「俚束は知ってたよ。立の病気。」

   矜さんが話してくれた。

    「立、何度も俚束と別れようと思ってた。でも、本当に愛してたから。愛し合ってたから、二人は立ち
   向かってった。最後まで諦めなかった。」

   ――本当に愛し合ってたから。

   今年の夏休みは、とても寒くて、本当に凍えてしまいそうだった。
   ろくに外にも出ず、俺は一週間を過ごした。
   ずっと、立さんのこと、考えてた。

   立さんは俺の憧れで、いつも追いつこうと、幼いころからガキなりに思ってた。
   小学校でサッカークラブチームに入った立さんを追って、一緒にサッカーを始めた。
   中学、高校とエスカレーターの横浜市立M中学にも、立さんの3年後、入学した。
   ずっと。
   ずっと、立さんを見て、俺は生きてきた。
   そんな人間が、突然目の前から姿を消してしまうなんて、信じれるはずがなかった。
   窓を開ければ、隣の窓から、あの優しい笑顔が見れる気がした。

   ――箜騎。

   立さん……。

   どうしようもなく悲しくて、涙が止まらなくて。
   俺は、ききわけのない子供のように、何度も、何度も、一人で泣いた。
   壁のコルクボードに飾ってある色褪せた写真。
   ユニフォーム姿の俺と、立さん。

   ――箜騎、全国制覇だぜ。絶対日本のユニフォームを着て、一緒にフィールドを走ろう!!

   口癖だった全国制覇。
   立さんは、見事中学1年生という最年少で、ジュニアユース大会の優勝カップを掲げた。
   センターフォワード、10番、エースストライカー。
   輝いてた。
   太陽の光を体一杯浴びて、全サッカーファンの歓喜を受けて。
   立さんは輝いてた。

   ――立っ!!

   立さんが家をでたのは、周囲が春の風に包まれた頃だった。
                               ヒト
   ――親父がサッカー諦めろっていうんだ。くそっ。俺の夢、なんだと思ってやがる!!

   本当に悔しそうに、何度も地面に怒りをぶつけてた。

   ――親父は、俺を医者にさせたいだけなんだ。

   立さんの思い痛いほど、伝わってきた。
   訳もいわず、突然サッカー業界から消えたスーパースターは、周りから格好の興味の対象となり、あ
   らぬ吹聴をされた。

   ――道楽だもんよ。お金持ちのお坊ちゃんは、やっぱ違うよなぁ。

   ――脚光浴びて、はいさよならって、皆の興味ひきたいだけじゃねーの。

   ――芸能人なみだね。

   今思えば、おじさんは本当に立さんの身体を心配してサッカーを諦めろと言ったことが、身にしみてわ
   かった。
   俺もあのときは、おじさんをひどく、憎んだ。
   でも……。
   おじさんの寂しそうな、白い背中が、俺は一生忘れられない。
   それから、立さんはあからさまに荒れた。
   何に怒りをぶつけていいか、迷ってた。
   そんな時、俚束さんに出会った。
   立さんより2つ年上の俚束さんは、立さんを優しく包んでくれた。

   ――立、立。

   柔らかい響きのアルトヴォイスで、ソバージュをかきあげる女らしい仕草は、立さんを和ませ……、
   和ませ……。
   俺は、ベッドに伏して、その後を続けることができなかった。
   ……俺は、その頃から既に。
   俺の心の中には既に、彼女がいた……。
   立さんにはもちろん言えなかった。
   でも、そんなころからきっと、立さんは気づいてた。

   ――P・S 俚束のこと、よろしくたのむ。

   立さん……。
   ……俚束さんは今、何してるんだろ。
        ヒト
   一番大切な人間…愛してる人が……。
   俺なんかより数倍、いやそんなんじゃあらわせないくらい辛いはずだ。
   俚束さん……。
   突然の甲高い音に肩をいからせて、俺は受話器を取った――……。


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