
1/2/3/4/5/6/Atogaki
3
「飛沫ちゃん。」
小さくて柔らかい手を握った。
立さんの遺影を見つめていた飛沫ちゃん。葬儀の準備で大人たちは忙しかった。
「大丈夫。私。へーキだよ。」
立さんによく似た笑顔を見せた。
強がりでもなく、まして悲しくないわけでもない。
前向きに、そう。ひたむきな前向きさが、この小さな体から溢れてた。
医者として、自分の息子を助けることのできなかった、自分を憎むかのような、怒りをぶつけるかの
ようなお父さんと、気力失せて疲れきったお母さんの為にも、そして、お兄さんの為にも、前向きに
頑張ろう。
そんな飛沫ちゃんの強さを、俺は感じた。
この温かい手から。
この、小さな手から。
大きな……強さを。
その夜、再びやるせない木魚の乾いた音が響いて、通夜よりも倍か、それ以上の人々が参列した。
立さんの学校の友人。
サッカークラブのチームの友人。
“THE ROAD”の連中。
四輪の族“SPEED”の連中。
まだまだたくさん。
立さんの情の厚さを証明するかのように、連なった。
「知ってる、知ってる。彼女なんだって?」
お焼香を済ませて夜風を受けた俺に――、
「通夜も泣かなかったっていうじゃん。」
オトコ
「へぇ―。悲しくないのかねぇ、彼氏が死んだってのに。」
俺は、拳を握る間もなく、本能でそいつらに飛びついてた。
「泣いたら悲しいっていうのか!?泣かなかったら…、悲しくないっていうのかよっ!!気持ちもわ
かんね―くせにっ!!俚束さんの気持ちなんて!!てめ―らわかんねぇくせにっっ!!」
無意識に近い。
俺は殴り続けた。
「ぐっ……。」
「箜騎!!やめろっ!!何やってんだっ!!」
「箜騎!!」
両腕を矜さんと造につかまれて、俺は我に返った。
その騒ぎに周りがどよめいた。
「何んな熱くなってんだよ。」
俺が殴った奴らが地面に沈んだ、その背後から、冷たい言葉が発せられた。
かみじょう オンナ
「あー、なるほどね。お前、龍条の彼女のこと好きなんだ。」
俺の握られた拳が、力なく重力に従った……。
「じゃあ、これからは龍条に義理だてするこたねーな。」
「てっめぇーっ!!」
俺の後ろから、修と保角、斗尋が疾風の如く、その青の制服に殴りかかった。
「ぐはっ……。ばっ、ジョークだよっ……ぐっ、やめっ……」
「やめろ。修、保角、斗尋。」
淡と、矜さんが言葉を発して、
「消えろ。二度と俺らの……立の前にそのふざけた面、見せんじゃねー!!」
徐ろに声をあげた。
そんな光景を、俺は傍受するように、ただ、ぼっ、とみてた。
――お前、龍条の女のこと好きなんだ。
相手にとっては、ただのジョークでしかなかったのかもしれない。
……じゃあ、俺にとっては?
――義理だてするこたねぇな。
「箜騎、気にすることねーよ。」
「そーだよ。何あいつら、こんな席で。失礼極まりねー!」
「……俺……」
暗い地面を見た。
「義理だなんて、そんなこと……」
「箜騎……?」
……あいつらに否定意を示せなかった。
俺が、俚束さんを好きなのは、事実だったから……。
「本当に俺。あの2人が好きでっ……だから……義理だてなんて……違う。……違う……」
「箜騎……わかってる。わかってるよ、箜騎。俺達ちゃんとわかってるから。」
造の肩に顔がうまった――……。
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