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「オーッス。」
いおる
稲村ヶ崎駅で、待ち合わせしていた尉折を見つけ、背中を叩いた。
サッカー部で同じクラス。
てだか いおる
豊違 尉折。
「おっす。何?今日はいつもにも増してテンション高いじゃん。」
「まあね。」
自分でも驚くほど、体が軽い。
心も、何もかも。
清々しい気分。
「いいコトでもあった?」
口元をにやり、と緩めて――、
し な ほ
「紫南帆ちゃんと。」
「っばかゆうなよ。ちがう。」
俺は、あからさまに顔を赤くした。
だろう……。
あすか
「うっそ。まったく。飛鳥くんてば、ウブやね。」
いつものからかう口調。
何かってゆうとこれ。
俺ってそんなに顔にでるのかな。
うん。と、どこからか声がしたが、気のせいだろう……。
きさらぎ
「丸くおさまったんだ。如樹のコト。」
少しハスキーな声で言って、目を細める。
丁度来た、藤沢行きの江ノ島電鉄に乗り込んだ。
「うん。サンキュウな、尉折。」
「何もしてねーよ。俺は。」
ううん、すげー力になったよ。
元気づけてくれた。
心配してくれた。
本当に感謝してる。
友達って温かいよな。
俺は、もう一度、心の中で礼をいった。
そして間もなく藤沢駅に着く。
「あー、ついてねーよな。クリスマスだってのに。」
藤沢はクリスマス一色に染まっていた。
デパートは皆、どこもかしこも赤や緑の派手な装飾。
いぶき
「いーじゃんかよ、昨日楽しんだんだろ、檜と。」
「まあな。」
「え?」
少し、からかうつもりで言ったのに、あっさり返されたので、聞き返してしまう。
間髪いれずにうなづいた尉折。
いぶき じゅみ
檜とは、うちのマネージャーの檜 樹緑のことで、ある事件をきっかけに数ヶ月前から付き合っている。
ある事件とは、
Planet Love Event 第三章 Ego-Ist 恋愛感情、長いな……を参照してください。
「飛鳥くんてば、今いやらしいこと考えたでしょ。」
「か、考えるかよっ!」
何でいつもこうなんだ。
揚げ足ばっかとられてる、俺って……。
からからと乾いた笑いをして、尉折はJR線へ向かった。
ここから横浜駅まででて、もう一度乗り換えて三ツ沢上町駅。
三ツ沢グラウンド。
全国の切符を勝ち取るための舞台。
「まだ時間早いよな、横浜でプレゼントでも買う?」
皆とは現地集合になっている。
尉折は、俺の同意を得るように振り返った。
時計を見て――、
「うん、大丈夫じゃないかな。」
そうか。
俺も何か買おうかな。
「なぁ、尉折。彼女いるんだからプレゼントくらい前もって用意しろよ。」
俺の言葉に、
「は?何いってんの。俺が買うんじゃねーの。お前だよ、お前。」
当然の事のように言って、俺に指を突きつけた。
「俺?」
「そ。紫南帆ちゃんにさ。その様子じゃ何も買ってねーんだろ。」
図星。
そんな余裕すらなかった。
「……尉折はあげたのかよ。」
・ ・
「おう。まだ、だけどな。」
意味ありげな笑いを浮かべる。
「何あげんの?」
「お、れ。」
待ってました、とばかりに口を開く。
は?
一瞬、間をおいて俺は赤面した。
に違いない……。
だって、尉折ってば、自分を指差すんだぜ。
俺の顔を見て――、
「ジョークよ、ジョーク。」
そういって、さも面白そうに笑う。
ったく。
「これ。」
今度はマジメに自分の薬指を指す。
リング
指輪。
少し照れた尉折の顔。
天井を仰いだ。
へぇ。
「やるじゃん。」
「お前も、頑張れよ。」
肩を叩かれて、微笑。
気持ちは嬉しいけど、もちろん俺にはそんなことできない。
告白は、しないつもりだから。
横浜駅は藤沢駅よりもさらにクリスマスカラーが際立っていた。
プレゼント、か。
溜息を一つ。
「あーすか先輩!!」
突然の間延びした声に振り返る。
るも や し き
「流雲、夜司輝。おはよう。」
ふかざ るも ほしな や し き
後輩の吹風 流雲と星等 夜司輝。
流雲は愛嬌たっぷりの笑顔で挨拶をし、夜司輝は控えめな態度で軽く礼をした。
この二人。
1年生ながら、レギュラーを獲得。
将来有望な奴らだ。
「ぐーぜんですねぇ。やっぱり僕たちの絆ってすごい!」
半ば独り言をいうように流雲は俺の隣で笑顔。
あすか
「飛鳥がプレゼント買うってゆーからさぁ。」
尉折の言葉に、俺はゆってないだろ。と、思ったが黙っていた。
何言われるかわかったもんじゃ……
「そうみ先輩にですかぁ?」
え//////……。
流雲の間髪入れない言葉に、思わず隣を見る。
にんまり、不敵な笑みで――、
「いやだなぁ。僕が知らないと思ったんですかぁ。」
いやな後輩だっっ……。
「ゆーめーですよ、ゆーめー。」
そうみ
S高で飛鳥先輩と蒼海先輩、知らない人いませんよ。
声高々といって人差し指を挙げた。
「それじゃあ俺たちがまるで――……」
付き合ってるみたいじゃないか。と、言おうとしてやめた。
「何で?」
あすか きさし
「サッカー部のエース、飛鳥 葵矩。まじめで優しく女の子にも大人気。なのにまるで女の子に関心がない!!」
流雲は、まるで、演説を始めるかのように俺たちの前に立った。
そうみ し な ほ
「唯一、一人の女の子とは親しい!その名は蒼海 紫南帆。長く綺麗な漆黒の髪が印象的なチョー美人!!鋭敏な感覚をもつ彼女はS高に起こった数々の事件を解決したと風のたよりできいた。美男美女のカップル!その実情は――?」
早口で捲し立て、俺に手マイクを向ける。
……お前は何者だよ。
どーして詳しい。
「実情は?実情は?」
再び、間延びした声で俺の顔を覗きこんだ。
夜司輝は、流雲を目で軽く叱りながらも興味津々な表情だ。
「何もなし。」
俺は踵を返して、地下鉄の入り口に足早に向かう。
「何もなしぃ――?」
流雲のすっとんきょうな声。
尉折の押し込めた笑い。
はあ。
そんなに俺たちって目立つのか。
高校2年。
わかってる。
彼女の一人くらい……それ以上はいらないけど。
いてもおかしくないことくらい。
俺だって……。
自分の心の声を押し殺した。
「さ、早くグラウンドいって練習しよ!!」
今は、目の前のことを考えよう。
神奈川県大会、決勝。
実績の無い俺たちだけど、ここまでこれたのはマグレなんかじゃない。
ここで勝って、全国大会に行くんだ。
絶対――……。
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