TOMORROW
Stage 1 ―X'mas Present―
1/////6/あとがき
                          6


  「じゃ、シメってことで。今日は本当にお疲れ様!皆よく頑張った!!」
えだち
徭さんが、お開きの合図。

  「明日からはまた気持ちを引き締めて行こうな。これからが本当の戦いだ!」

全国の舞台。
皆の顔が、徭さんの言葉同様に引き締まった。

  「では、お疲れ様!」

  「お疲れ様でした――!!」

皆散り散りに鳴る中――、

  「マネージャー、暗いから同じ方向の奴に送ってもらえよ。」

  「あーすかくん。家どこだっけ。」
しらき
白木がまだ赤い頬をして、俺に質問。

  「稲村ガ崎……だけど。」

その言葉に痩せすぎない頬を膨らまして、おもむろに残念そうに、なーんだ。と、呟いた。
   いなみ
  「伊波ちゃん、藤沢でしょ。俺おくっちゃる。」
                           ちがや
  「いーですぅ。駅からすぐですから。それに茅せんぱい、逗子でしょ。」

  「覚えててくれたんて、感激。」

まだまだ、酔いは冷めてないらしい。
俺は空を仰いだ。
肺に潮風を吸い込んで、深呼吸。
大丈夫、酔っ払ってない。

  「あすかせんぱーい、送ってください!!」

  「え、あ。うん。」

  「私もー!!」
かささぎ                     いなはら
鵲の強引な言葉に、稲原も同調する。

  「お。ツイスターゲームカップルできるか〜?」
               あすか
  「送り狼になんなよ、飛鳥!」

できません。
なりません。
全く、いわれ放題だよ、俺って。
いおる
尉折だって、同じ方向なのに既に駅に向かってる。
      いぶき
もっとも、檜のご機嫌伺いに忙しいみたいだけど。
結局、俺は鵲と稲原を送り、帰ることになった。

  「2人とも逗子駅でいいの?」
      
  「はい。」

2人の声が重なった。
俺は、江ノ島電鉄の江ノ島駅で運賃表見上げた。
逗子駅って……。
小田急で藤沢でたほうが早いんじゃないか?

じゃあ、茅さんが白木を送ってくのって、本当に帰り道。
……。

2人を垣間見る。
家まで送ってくれるのかな。ラッキー。と、囁いてる。
ま、いっか。

  「先輩、先輩。海きれー。」

  「夜の海いいですよね〜。」

無邪気に笑う後輩たちの笑顔の向こう。
淡い光たちに囲まれた、江ノ島。
綺麗だ。

  「あ、先輩。ここまでで大丈夫です。」

  「こんなトコまで、すみません。」

逗子駅につくと、2人はしおらしく頭を下げた。

  「暗いからさ、家まで送るよ。」

俺の言葉に、ありがとうございます。と、お礼。
酔いが冷めてきたのか、さきほどよりはテンションが落ち着いた2人。
でも。
マネージャーも戦ってくれたんだ。
気持ちは俺たちと一緒に違いない。
全国大会にいけて、とても喜んでくれてる。

  「本当にお疲れ様。ありがとうね。」

2人は俺を見て、一瞬口元をゆがめ、そして笑顔になった。

  「嬉しいです。……先輩こそ、お疲れ様でした。」

稲原の言葉に鵲が大きく頷く。
           まあほ
  「そーいえば。茉亜歩せんぱい。なんでこなかったんですかね。」

稲原が目頭を一瞬ぬぐって、話題を変えた。
そういえば、そうだった。
3年のマネージャー茉亜歩さんの姿は、なかった。

  「彼氏とデートですかね。クリスマスだし。あ、家もうすぐそこなんです。本当にありがとうございました!お疲れ様です!!」

鵲はそういって、俺に頭を下げて小走りにかけていった。
駅から少し路地に入って、歩く。
街灯もすくなく、薄暗い。
ここは女の子一人じゃ、危ないな。

  「こうして先輩と2人きりで歩けるなんて、幸せです。しかも今日はクリスマス!」

稲原が振り返ってたち止まる。

  「……。」

じっと、見つめる大きな瞳。
こういうとき、何ていったらいいのだろう。
俺は……。

数秒の沈黙の後――、
              そうみ
  「先輩は、やっぱり蒼海先輩のコト、好きなんですか。」

ストレートな言葉。
目をそらさず、稲原は俺を見つめ続けた。
俺は赤面。
周りの音は何もない。
静寂。

――蒼海先輩のコト、好きなんですか。

そのとき、檜の言葉が俺の脳裏に蘇った。

――優しいのはいいけど、時には突き放したりしなきゃ、期待もっちゃうよ。

  「う、うん。」

数秒遅れて、俺は頷いた。

  「……、そう、素直にいわれちゃうと、私立場ないなぁ……。」

  「ご、ごめん。」

謝った俺に――、

  「何で謝るんですか。よけい立場なくなりますよ。」

  「ごっ……」

また、ごめん、と言いかけて、言葉を呑む。
少し、呆れたような稲原の表情。

  「先輩ってば、優しいんだから。私ぃ――……」

突然の出来事に、言葉すらでなかった。
柔らかく、少し冷たいモノが、俺の頬に触れた。

  「私、あきらめられませんよ。」

  「……。」

稲原は、ありがとうございました、お疲れ様でした。と、早口で言い残して駆け出した。
一瞬の間をおいて、体温が上昇するのを感じた。
手で右頬を触れる。
熱い。
余韻を感じながらも、複雑な気分で俺は家へと帰った。


  「ただいまー。」

ドアを開けた瞬間。
目の前に小さな花火が舞った。
色とりどりの紙テープが頭や肩に落ちてくる。
クラッカー。

  「おめでとー!おかえりなさい。」
し な ほ      みたか
紫南帆と紊駕、そして両親たちが出迎えてくれた。
その雰囲気に、一気に安堵。
疲労感もふっとぶ。

  「さ、さ、入って入って!」

異様に嬉しそうな紫南帆の言葉に、リビングまでいくと――、

  「……すっげ。」

思わずあんぐりと口を開けてしまう。
吹き抜けのリビングに、どでかいクリスマスツリーが堂々とそびえていた。
装飾もただならない。
そして、テーブルには多種多様の料理も。

  「おめでと。」

紊駕が最後のクラッカーをひぱった。
礼をいう。

嬉しい。
やっぱここが、俺の一番心の和む居場所。
紫南帆と紊駕がいる。

  「夕飯食べてない?着替えてきな。」

  「うん。ありがとう。」

紫南帆を見つめる。
クリスマスツリーのかざりや、料理を頑張って準備してくれた姿が容易に浮かぶ。
ありがとう。

私服に着替えて、リビングに再び下りると――、

  「はい、クリスマス・プレゼント。」

柔らかく温かいモノが首筋にかかった。
マフラー。
綺麗な蒼色。
紊駕には、灰色。
しかも、手編みだ。

  「心こもってるでしょ。」

はにかんだ紫南帆の顔。
いつの間に……。

一番嬉しい、クリスマス・プレゼントだ。

  「ありがとう、でも俺――……」

  「2人からはもうもらっちゃったもん。最高のプレゼント。」

俺の言葉を遮って笑った。
全国の切符。
そして、紊駕の言葉。

俺たちは顔を見合わせて、笑った。
紫南帆に向き直る。

  「ありがとう。」

最高のクリスマス。
ありがとう、紫南帆。
ありがとう、紊駕。

全国大会は、12月31日、キック・オフ。
頑張るぞ――!!!


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