TOMORROW
Stage 2 ―In Tokyo―
1//3////あとがき

                          3


  「おらぁ、気合入れてけー―!!」
           えだち
近くのグラウンド、徭さんの声が響く。
明日の試合に向けて、朝から練習に励んでいる。

  「そこ!チェック遅い!!」

  「センタリング上げろ――!」
よみす                いおる
嘉さんの声に、尉折の足からボールが放れ、俺の頭上に舞う。
ワンバウンド待って、跳ね返ったボールを胸でトラップ。
ファーポストの右上隅をねらってシュート。

おし!

徭さんの左手先すれすれ、かすってネットにささった。
       あすか
  「ナイス飛鳥。好調だな。おーし、次は個人メニューに入るぞ。」

  「はいっ!!」

個人メニュー。
キャプテン、徭さんが一人ずつに作ってくれたメニューだ。
いつも俺たち一人一人を見てくれて、的確にアドバイスをくれる。
本当にすごい人だ。

ここでもう一度、S高スタメンの紹介をするね。

まず、俺の右腕の尉折。
FWで俺とのツートップ。
口の減らない奴で、お調子者で、彼女がいるくせに他の女の子に手だすし……。
でも、本当は良い奴。        いぶき
口で言うほど遊んでないし、彼女、檜のことをちゃんと考えてる……と思う。
さりげなく気を遣ってくれるとことか、なんていうか、上手く言えないけど、俺にはもったいないくらいの友人。

尉折は、2人の後輩の力を借りて、フェイントの練習をしてる。
フェイントといってもボールをもたないフェイントの練習。
フェイントっていうのは、通常ボールコントロールを重視をするはずなんだ。

でも。
昨日、徳島の試合を見ていて、徭さんが気がついたのは、T高は一人一殺、どこまでもついてくる最強のマーカーチームってこと。
サッカーではボールをもたないプレーヤーがフェイントをかけることは殆どない。
当然、尉折がボールをもってないとき、マークが甘くなる。
そこが狙い。
目で相手を誘い、相手のパスを受けるためにフェイントをかける。
最強のマーカーを振り切るための奇策。
           のりと
  「だー、悪い!祝。」

尉折が祝の足を蹴ったらしい。

  「大丈夫です。もっかい行きます!」

口で言うほど簡単じゃないんだ。
バスケ流のトレーニングを応用するわけで、俺たちにはボールのあるフェイントのほうが簡単なんだ。

次に、中盤の要、左サイドの嘉さん。
       もりあ
右サイドの壮鴉さん。
日常でも中のよいコンビで、何事にも冷静な判断ができる先輩たち。
壮鴉さんのほうが、どっちかというと無口かな。
でも、とても気さくな先輩たちだ。
2人とも100メートル11秒フラットという俊足の持ち主。
テクニックは鋭敏で、嘉さん、180センチ台の長身を活かして空中戦を得意とする。
壮鴉さん、相手の動きとポジションを瞬時に見極めるテクニックとパスセンスを有するサイドチェンジを得意とする。

そして、流雲と夜司輝。
2人は幼い頃から仲がいいらしい。
今までの行いでわかると思うけど、流雲は陽気でどこか憎めない後輩。
尉折とつるんで、よく俺をからかう。
夜司輝は、少し控えめで礼儀正しい後輩。
幼い顔立ちだが、考え方はしっかりしていて大人っぽい。
ボールコントロールに長けるテクニシャンだ。
2人とも小柄で、空中戦は苦手とするが、瞬発力にとんだコントロールの良く効くパスボールを受けだしできる。
中盤での激しい攻防を抜け出すにはもってこいの逸材だ。

そして、ディフェンス陣。   ほせ
チーム一大柄で体格のよい輔世さん。
         ちがや
長身で細身の茅さんは、見た目にはそぐわないパワーをもっている。
プレーそのものはスマートだが、接近戦には強い。
                 ねや                                         ぬえと
チーム一のカット力を持つ、閨さんに相手のチェックに厳しい鵺渡さん。
2人とも、巧みなボールコントロールにシュートコースを開けさせないテクニックに富む。

最後の砦、徭さん。
セービングはもちろん、一対一にも強い。
信頼できる先輩。

……ってとこ、かな。

  「飛鳥ぁー、次、左下ねらってこい!」

  「はい、行きます!」

俺の個人メニュー。
後輩と先輩の力を借りて、3対1。
3人を振り切って、徭さんの構えるゴールへシュート。

さすがに、3人を抜き去るのは厳しいけど、本番はもっとチェックが厳しいはず。

  「ほら、飛鳥。囲まれたぞ!」

  「はいっ。」

フェイント、ドリブル。
ボールをとられたら終わりだ。
土のグラウンドには、、スパイクでできた無数の跡。
埃が舞う。

くっそ。思うように前に進めない。
ショルダーチャージ。
負けるか。

よし、見えた。
俺はゴールルートを見つけて、全力疾走。

  「よし、こい!」

徭さんががっちり構えるゴールへ――、

約束どおりの左下。
徭さんはしっかりキャッチ。

でも、俺は飛び込んだ。
キーパーがボールを握ってもあきらめるな、と徭さんはいつも言う。
キーパーの取ったボールをクリアさせて、ゴールに入れるのは反則ではない。

  「くっ、飛鳥。ナイスガッツだ。」

徭さんは手を差し出した。

  「コントロールはOK。そのガッツで行け!」

  「はい。ありがとうございます。」

この練習方法で、苦手だったコーナーをしっかり狙い打ちできるようになった。
あとは実践で活かすのみ。

  「さっすが、先輩!」
               いつく
相手をしてくれた後輩の慈が、満面の笑み。

  「さんきゅ。慈、上手くなったな。」

  「本当ですかぁ。お世辞でも嬉しいです。飛鳥先輩にいわれると!」

  「お世辞じゃないよ。」

本当に。
1年も皆、ぐんぐん伸びてる。
負けてられない。


それぞれのメニューをこなして――、

  「明日休みですよね!お参りいってもいいですかぁ?」

流雲の甲高い声が響いた。
俺たちの初試合はシードのために、明後日からだけど、大会の第1回戦は今日からだった。
そして、明日の元旦は大会の休養日に当たる。
今大会から、選手の体力や健康を考慮して休養日を3日設定することになったんだ。

なので、大会のスケジュールは、年明けの2日が第2回戦。
3日に第3回戦。
4日が休養日で5日に準々決勝。
6日が休養日で7日に準決勝。
そして、8日が決勝だ。

  「そうだな。元旦くらいな。」

徭さんの言葉に、流雲が歓声を上げ、他の皆も一様に喜んだ。
でも、午後からは練習だからな。と、いう後の言葉は半ば聞いてない。
皆、既に散り散りになってる。
 
  「ったく。修学旅行じゃねんだからよ。」

徭さんは、呆れた顔を隠さず、頭を抱えて見せた。

そっか。
元旦か。
なんか、そんな気がしないっていうか、実感ないなぁ。

  「あ、ニュースやってる。愛知と滋賀が勝ったって。」

誰かの声に、TVに注目した。
今日行われた第1回戦の模様が映し出されていた。

  「俺たちが2回戦進めたらそのどっちかと当たるって事だな。」

嘉さんの言葉に皆が更に注視した。
スコアは、3-0。
愛知が三重を破っていた。

  「三重って常連のY高だろ。すげーな、愛知。」

その三重が初戦敗退。
愛知県代表、H高の圧勝。
TVでは、三重が殆ど主導権を握ることなく、敗退した様子が映っていた。
愛知のH高は、初出場だ……。

  「俺たちも頑張らないとな。」

  「ですね。初出場でも気後れしないようにしないと。」

  「そうそう、初出場だって、常連だって。試合が始まれば関係ない。」

前回ベスト4のチームが初戦敗退することだって、初出場がベスト4になることだって。
試合が始まってみなきゃ、わからない。
俺たちだって、十分チャンスがある。
気合入れなきゃ。

まずは、初戦を勝たなきゃ。
そんな、俺たちに、除夜の鐘が鳴り響いた――……。


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