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1995年、1月1日。
新しい年が明けた。
「うっわーすげー人、人!」
いおる るも や し き
俺は、尉折と流雲と夜司輝の4人で、明治神宮に来てる。
予想はしてたけど、それ以上にものすごい人だった。
「前見えませんよ、僕。」
「肩車してやろか。」
尉折のいたずらな笑み。
「ナメてます?」
「こら、流雲。先輩にそういう口の利き方するな。」
流雲をしかる夜司輝。
でも確かに、俺でも厳しい。
背伸びしてやっと、見通しが利く。
足場を確保するのもやっと。
「お参りしたら、すぐ戻ろうな。」
俺が言うと――、
あすか
「せっかくの休みだぜぇ。有効につかおーぜ、飛鳥!」
お前の有効は、俺の有効じゃないの。
「俺は帰るぞ。」
「何で、俺はまだ何しようとかゆってないぜ。」
どーせ。
女の子ナンパしようってハラだろ。
「何するんですか。」
夜司輝の言葉に尉折の目が輝いた。
「何って、やるこたぁ、ひとつだよな、流雲!」
「あったりまえじゃないですかぁ。ね、尉折先輩!」
2人、顔を見合わせ、にっこり。
不気味な笑い。
「女の子をナンパしにいく!!」
やっぱり……。
それしかない。と、2人でうなづきあってる。
夜司輝も尋ねなければ良かったと顔に書いてある。
「よし!」
尉折が人差し指を挙げた。
嫌な予感。
「今から15分でナンパしてきたら、帰りの電車賃タダってのはどう?」
「いいっすねー!乗った!」
……あのね。
俺は帰るからな。
・ ・
「じゃ。4人で競争ってことで!」
っちょ!!
顔を上げたときには、既に2人ともいなかった。
冗談じゃないよ。
夜司輝と顔を見合わせ、眉根をひそめた。
「せめてお参りしてから、2人でやってくれよ……。」
2人で溜息。
お賽銭箱を目指して並ぶ行列を見て、もう一度溜息。
どーせ、尉折たちのことだ、戻ってきたらまた一緒に並ぶハメになる。
夜司輝も同じ考えだったようで、俺たちは列を抜け出した。
「まったく。15分って一体どこで落ち合うってんだよ。」
この人ごみの中。
「とりあえず、人の少なそうなトコいきますか。ジャージ着てるわけだし、見つかると思いますよ。」
溜息交じりの夜司輝。
そうだな。
俺たちのチームカラーは水色。
私服外出は禁止。
キャプテンの指示。
えだち
さすがです、徭さん。
私服じゃ手に負えません。
あの2人は文句いってたけどね。
「ざけんじゃねーぞ!」
突然、怒鳴り声が俺たちの耳に届いた。
まさか。
夜司輝と目を合わせる。
「尉折先輩の声。」
「だよな。」
すぐさま声のするほうへ走る。
明治神宮内の一角。
うちの、水色を白のジャージと、真っ赤なジャージ。
何やら言い争いをしてる様子。
遠目でもわかる。
「尉折!何やってんだよ。」
側に寄る。
「飛鳥!こいつらがよー!」
……。
はっきりいって、呆れた。
争いのネタが、何と。
女の子の取り合い。
まったく、何もいえません。
どうやら、あそこで立ってる女の子。
ストレートの長い髪。
遠目でもなかなかの美人のコ。
「俺様に勝とうなんざ100億光年早ぇーんだよ!ハッハッハ!」
何とも言えない笑い声。
れつか
「烈火。恥ずかしいからやめろ。」
烈火と呼ばれた人の隣にいる男の人が、額を手で覆った。
やはり、赤いジャージ。
「てめ、その態度がゆるせねー!」
「尉折!やめろって!」
「じゃあ、あのコに聞いてみようぜ。どっちについてくか。」
「おう、いいぜ。」
あのね……。
少女を見垣間見る。
そんな2人を少し遠くで見てた争いのネタの美少女は、笑ってた。
「そんなこといわないで、皆でいきましょうよ。」
何か。
楽しんでないか。
自分に好意をもってくれる男同士の争いを見て。
「あの、サッカー部ですか。」
夜司輝が、尋ねた。
先ほど、烈火をいう人を止めた男の人が――、
「ああ。君たちもだろ。神奈川県代表、S高校。」
わしは れつか
「おう。俺様は鹿児島県代表K高、2年の鷲派 烈火様だ!!」
そして、高々と笑った。
強烈な個性だ。
「わしわ れつか だとー!ふざけた名前しやがって!」
「んだと、このヤロウ。チビ!!}
「チビだと!!図体でかきゃいーってもんじゃねー!!」
口論。
もう、全く。
「やめろ、烈火。」
鷲派を止めて、
こまき のぶし
「悪いな。俺は、駒木 延施。K高の3年。」
俺たちに軽く、会釈して自己紹介。
俺たちも頭を下げて名前を名乗った。
「この落とし前は試合でつけてやる。」
「俺様に勝てるとおもってんのかぁ。」
まだにらみ合ってる2人。
そういえば、さっきの女の子。
いない。
呆れて帰ったのかな。
「ほーら、尉折。いくぞ。」
「ちっ、覚えてやがれ!熱血ヤロー!!」
「そっちこそ、よく覚えておけ!俺様は宇宙一天才の鷲派 烈火様だ!!!てめーなんざ、俺様の足元にも及ばないぜ!!!」
俺様って……。
鷲派は駒木さんに引きずられ、高飛車な態度でいいながら人ごみに消えた。
「ったく、試合前に問題おこすなよ!」
俺は、叱責を発したのに――、
「何だあの態度、まじムカツク。」
全然聞いてないし。
「お前とは違う意味で熱血ヤローだな。」
「何だよ、それ。」
「ったくよー、あいつのせいであのコに逃げられたじゃねーか。」
やっぱり聞いてない。
自業自得でしょ。
「そういえば、流雲は?」
夜司輝の言葉も――、
「ったく今度会ったらただじゃおかねー。」
「尉折!どこで流雲と落ち合うんだよ。」
知らね。
って、おい。
夜司輝も心底呆れて、深い溜息をついた。
当人は、アイツが女の子連れてきたらやべーな。なんてゆってる。
あのなぁ。
「あ、いたいた!」
そんな中、尉折の声をききつけてきたのか、流雲が現れた。
あっけらかんと、皆、女のコつかまえられなかったんですね。なんてゆってるし。
「もー、流雲。お参りして帰るよ!」
夜司輝の言葉に、
「えー、この行列に並ぶんですかぁ?」
唇を尖らせる、流雲。
誰のせーだ、誰の!
あのままならんでれば、今頃先頭だから!!
結局、俺たち、もう一度並びなおして――、
――国立!どうか優勝できますように!!
力を込めて祈った。
今年の願いはひとつ。
国立の芝を踏んで、優勝することだけ。
「飛鳥くーん。何お願い事したぁ?」
尉折の意味深な言葉とイタズラな笑みに、
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「こんな時にお前が考えてる願い事なんてするかよ!」
「なーんだよ、俺が考えてることって。」
不満気に尉折。
「とにかく。今は国立、優勝一本!」
きさし
「今は、ね。でも他にもあんだろ、な。葵矩くぅーん。」
……。
「帰るぞ!」
そりゃ。
し な ほ
願わくば、紫南帆との進展も――……。
いや、だめだめ。
そんなことじゃ明日の試合だって勝てない!
それに、このままでいいって決めたのは俺だろ。
だめだ、だめ。
気合入れなきゃ。
真っ直ぐ、国立を見よう――!!!
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