TOMORROW
Stage 2 ―In Tokyo―
1////5//あとがき

                          5

    りき
  「何力んでんですかぁ?あすかせんぱい。」
        るも
あどけない、流雲の顔に覗かれた。
行列から抜け出して、何でもない。と、俺は首を振る。
                      きさし
  「フラストレーションなんだなぁ、葵矩くんは。」

  「そーなんですかぁ?」

  「ちっがーう!」
いおる
尉折のやつぅ。
隣で乾いた笑いをする尉折を睨む。
     あすか
  「あ、飛鳥先輩。」
や し き
夜司輝が俺のジャージをひっぱるので、目線を同じくする。
あ。
さっきの女の子。
桃色と白のジャージの男の人と親しげに話している。

  「尉折。見てみろよ。あのコ、彼氏持ちだったんじゃないの?」

俺の言葉に、尉折も視線を移して――、

  「え?男いないつーからさそったんだぜ。」

先ほどの女の子だと確認して、男いる女、いくらなんでも誘わねーよ。と尉折。
でも、随分親しそうだけど。
マネージャー?
ま、いっか。
俺は振りかぶった。

  「いんですか尉折先輩。」

取り返しにいかないのか、との流雲の言葉に、尉折は首を振る。

  「去るものは追わない主義なの。」

はい、はい。

  「でも。あの人が彼氏なら、何で尉折先輩の誘い断らなかったんですかね。」

と、夜司輝。

  「彼女がいてもナンパする先輩もいるからね!」

流雲が嬉しそうに尉折を見た。
最もだ!!

  「うるせ。……でもよ、あのコ、かなり遊んでね?」

女の子を見る。
さっき、尉折たちが自分を取り合いをしてる時も笑ってた。
今も満面の笑みで男の人と話している。
そして、片手を振って――、

  「やっぱ、彼氏じゃないのかな。僕きいてこよー!」

  「流雲?」

すばやく流雲は男の人の下へ走った。
いくらなんでも……。
俺たちもしかたなく後を追う。

  「え?」

  「だからですね。さっきの女のコ。かのじょですかぁ?」

愛嬌たっぷりの流雲の声に、男の人は少し、困った顔をして――、

  「声、かけられたんだ。」

  「ねいろー!!」

遠くからの声に男の人は振り返る。
向こうから、同じ桃色と白のジャージの男の人が現れて、
   けおと
  「華音。遅いぞ。」

  「悪い悪い。」

俺たちに気づく。
2人ともすらっと背が高くて、なかなかの男前だ。

  「神奈川の人たちみたい。さっき、声かけられてさ。」
                             ゆいま   けおと
  「へえ、よろしく。俺、愛知県代表のH高3年。結真 華音っていいます。」

あ。
昨日のTVがフラッシュバックした。
どこかで見たことがあると思ったら――、
                                               あすか    きさし
  「あの、三重を無失点で抑えて3得点ですよね。僕、神奈川代表S高の2年、飛鳥 葵矩です。」
       さなか
  「俺は、嗄河 ねいろ。」

またまた、自己紹介をする俺たち。

  「で、さっきのコ。君らの彼女だったの?」

  「まっさか。違いますよ。」

人懐こい流雲がねいろさんに答えた。
華音さんが、何の話?というような顔をしたので、ねいろさんが説明して――、

  「そうだ、お参り終わった?」

もしよかったら、お昼でも一緒しないか?
すぐさま流雲が反応した。

  「おごってくれんですか?」

すかざず、夜司輝が流雲をしかる。
華音さんは、失笑して、

  「ファーストフードならいいよ。ちょっと待っててね。」

さわやかにそういって――、

  「お待ち同様。」

華音さんが一人の男の人を連れて、戻ってきた。
   めぶき   ほのか
  「芽吹 仄。」

華音さんの言葉に、本人が頭を下げた。
愛知のゴールキーパーだ。

なんか、この3人が並ぶとすごいものがある。
オーラというか。
3人とも背が高く、容姿もいい。
周りの目を引く。

俺たちは、明治神宮をでて、近くのファーストフード店でお腹を満たした。

  「今年は、群雄割拠っていわれてた全国高校サッカーが変りそうだよね。」

ねいろさんが、腕を組んだ。

  「なに?ぐんゆうかっきょって。」

間の抜けた尉折の言葉に早口に説明。
群雄割拠――たくさんの英雄と呼ばれてた人が戦うこと。

  「そう、ですね。毎年ベスト8、ベスト4の出場校に変化はなかったですよね。」

ここのところ、ずっと静岡県が優勝。
そして、東京代表や三重、長崎。
だいだい常連と呼ばれていた学校が占めていた。
が。
今年はまず、三重が破れた。
この、ねいろさんたちに。

  「明日の試合は最悪のカード。静岡VS東京。ま、俺たちにはラッキーだけど。」

  「鹿児島だって例外じゃないよ。常連高やぶって全国にきたんだろ、K高は。」
    わしは
あの、鷲派の顔がうかんだ。
そして、君たちも。
と華音さんが付け加える。
頭を下げて、

  「レベルが上がってきたってことですか、ね。」

俺は言った。

  「でも、サッカー王国静岡の神話は今だ崩れていない。」

先ほどまで無言だった仄さんが、うなづいて、厳しい目つきをした。
皆も倣う。
         はくあ   きずつ                       するが     すみなり                            かつおぎ  えにし
  「指令塔の穿和 創。オフェンスの要、駿牙 速晴。ゴール前の巨人、喝荻 縁。」

淡々とねいろさん。

  「この3人の力が原動力になってるのはいうまでもない。」

穿和さんの優しく、紳士的な笑みが脳裏に蘇る。
自信に満ち溢れた堂々たる姿。

  「よう。誰かと思ったら、華音じゃねーか。」

突然の声に皆で振り返って主を探した。
   にのみち  おもね
  「二導、阿。」

なんと、徳島代表の二導さんと阿さんだった。
で、でかい。
TVでみるよりもはるかに。
二導さんは大きかった。
俺を始め、尉折も流雲も夜司輝も、驚きの色を隠せなかった。
阿さんの胸の高さくらいに、二導さんの腰があった。
190はあるかも。

  「俺。徳島にいたんだ。」

華音さんが俺たちにわかるようにいってくれた。
そんな華音さんに、口元を跳ね上げ、二導さんが――、

  「お前がいなくなって、一時はどうなるかと思ったけど、全国まできたぜ。皮肉だな。神奈川を倒したら、お前と当たるなんて。」

  「二導、神奈川の人たちだよ。」

華音さんが俺たちのことをいったが、二導さんは一笑に付してから、

  「へー、よろしく。」

自信たっぷりの表情でいった。
そして、
            ・  ・ ・  ・
  「じゃあ、華音。あさってな。」

……。
俺たち、見くびられてんのか。
二導さんの後ろ姿を見送る。
尉折たちも口には出さなかったが、その背中を睨んだ。

――明後日な。

  「ごめんな、あいつ悪気はないんだよ。」

華音さんのフォローに、俺たち首を振る。
それから、雑多な話をして、俺たちは華音さんたちと別れた。

  「ぜってー明日勝とうな。」

尉折が空を睨む。

  「本当ですよね。あさって、だなんて。僕たちのこと何だとおもってんすかね。」

流雲も拳に力を入れた。
夜司輝だけが、神妙な顔つきをして――、

  「でも、あの華音さんたちも。俺たちのこと、補欠か何かかと思ったんですかね。」

  「え。」

  「だってですよ。順当にいけば3回戦で当たる相手かもしれないんですよ。」

……確かに。

  「目じゃないって思ってるか、作戦とかを聞き出そうとしたかだな。」

尉折の自信満々の言葉。
後者は違うだろ。

徳島に愛知か……。
皆、俺たちより堂々としてる気がする。
だめだめ、気分で負けちゃ。
俺たちは国立を目指してんだから――……!!


>>次へ
                            <物語のTOPへ>