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「お前ら、レギュラーだったんだな。」
ホイッスルがなってすぐに、
「補欠かと思ってたぜ。」
にのみち
二導さんの毒舌。
蔑むように笑って、その長い足でボールをキープし、俺の前に立った。
「2年だっけか。部員少ないわけ?」
な、何だこいつ。
試合中だってのに。
「何がいいたいんですか。」
にらめっこ状態のまま、語尾に強かにアクセントをつけて、二導さんにいった。
「あのチビの2人は1年なんだろ。」
何考えてんの。と言葉に含んで嘲笑。
でも、さすがというか、悪態つきながらも足元のボールはキープ。
あすか
「何してんだよ、飛鳥!」
いおる
尉折がフォローにきた。
「そっちのチームにボールがわたることあんのかね。」
全国ナメんなよ。吐き捨てた。
別に、ナメてるわけじゃないさ。
そんな簡単に勝ち進もうなんて、安易な考え。
もっちゃいねーよ。
「おっと。」
俺の急な攻撃に、少し驚いて、バランスを崩す、二導さん。
「フェアな戦いしましょうよ。二導さん。」
罵詈雑言、いわれて挑発に乗ったら負けだ。
二導さん、鼻で笑って、ボールをディフェンスに戻す。
大事な一戦だ。
落ち着いていこう。
「飛鳥!」
よみす もりあ
嘉さんのインターセプトから、壮鴉さんの声とともにボールが冬天に舞う。
俺の身体は無条件に空へ飛んだ。
空きコース、コーナー左隅。
ファーポスト見定めてシュート。
<入った――!!前半10分。均衡破れました!神奈川、エース飛鳥が決めてきました。先制点。>
「ナイスシュート!」
尉折と手を合わす。
正直、こんなあっさりと入るとは思わなかった。
絶妙な壮鴉さんの
※センタリングだったけど。
※2005年以降クロスと呼ぶ
何だ。
この違和感。
「へ、口ほどもねー、あの二導とかゆう奴。」
全国大会で初ゴールを決めたら、すごい感動ものだろうと思ったけど。
何かが違う。
「このままバンバンいこうぜ!」
「あ、ああ。」
「何しけたツラしてんだよ!初ゴールだぜ、もっと喜べよ!」
うん。
でも……。
二導さんは、先ほどと変らない侮蔑する目で俺たちを見てる。
「何、笑ってんだよ。1-0だぞ。わかってんのか!」
尉折の言葉に――、
・ ・ ・ ・ ・ ・
「くれてやっただけだよ。」
高飛車な態度。
「んだと!!」
「尉折!試合中だぞ!」
牙をむくように言った尉折を俺は止めた。
「いやだねぇ短気ですぐ行動にでる奴ぁ。」
相手のバックからもサイドからもひそひそ、わざとこちらを睨む。
「スポーツやる性格じゃないわな。」
どっちがだよ。
わかってんのか、試合中なんだぞ。
「何だと、もう一度言ってみやがれ!!」
尉折は憤怒して、相手の胸座をつかみにかかった。
「いっ尉折!!」
俺もすっごいムカついてたけど、尉折のやつ、試合中だってこと忘れてんじゃないのか!
俺が尉折の側へ寄るのとほぼ同時。
短い笛の音。
審判が黄色いカードを尉折に指し示した。
なっ……イエローカード?
<どうやら、神奈川にイエローカードがでた模様。>
「くっそ、何でだよ!審判!あっちが先に悪態づいてきたんだろ!」
「やめろ、尉折!」
「飛鳥だってわかってんだろ。先にケンカ売ってきたの、こいつらじゃねーかよ!!」
審判に抗議する尉折。
にたにた、いやらしい笑い浮かべる二導さんたち。
確かに、尉折の言い分は正しいけど、審判の判決は絶対なんだ。
それに、二導さんたちはこれを狙ってたんだよ。
わざと挑発するようなことを言って、しかもこそこそ、審判に聞こえないように。
俺たちにわかるように。
くっそ。
こんなの、フェアじゃないよ。
お前ら、サッカーやる資格ないぞ!!
戦いはフェアじゃないといけないんだ。
こんな姑息なマネして、勝ち進めると思うなよ!
おもね
「阿!」
フリースローボール。
大きく弧を描いて阿さんに渡った。
!!!
早い。
TVでみるよりもずっと。
あっという間にハーフラインを越えた。
阿さん一人、中央突破。
誰も、追いつけない。
るも や し き
クライフターン、鮮やかにすばやく、シャープに流雲、夜司輝を抜き去る。
風と一体化しているかのように、疾風雷神の進撃。
そして――、
<は、はやい!何という速さでしょう。信じられません!!フリースローからあっという間の攻撃。中央突破。そして、ゴール!!!徳島、阿の目の覚めるような攻撃で、同点ゴール!!>
嵐が通り過ぎたようだった。
俺たちは、手も足も出せなかった。
……これだったんだ。
二導さんのあの笑い。
すぐに同点にできる、そんな自信を内に秘めた嘲笑。
同点。
どっしりと、何かがのしかかってきたかのようだった。
観客席も一瞬遅れての歓声。
「なんてこったい。俊足だとはきいてたが、これほどとは。」
「ボールコントロールも鋭敏で正確だ。」
いつものクールな表情を曇らせた、嘉さんと溜息をついて壮鴉さん。
チーム一の俊足がいうんだから、どれほどすごいことか。
俺たちはしばし呆然とした。
「な、何だよ。同点じゃねーかよ。リードされたわけじゃねーんだぞ!」
尉折も動揺を隠せずに、浮ついた声をだす。
俺も、もちろん。
にやり、二導さんは俺らに笑いかけた。
どうだ。という蔑み。
「ぼっとしてるな!攻撃!!」
えだち
徭さんの叱責、ゴールキック。
でも、俺たちは度肝を抜かれて――、
「チェック!!何してる!!」
チェックはことごとく交わされ、ギクシャクしだした。
FWの俺や尉折まで、バックスラインギリギリまで下がり、守りの態勢を取らざるを得なくなった。
ゴール前混戦。
芝を蹴る音が絶え間なく耳に響く。
歓声は全く聞き取れない。
ボールは今だ相手チーム。
くそっ。
相手の少し小柄な選手がボールを空に浮かした。
今だ!!
頭一個分、俺のほうが空へ先にでた。
とれる。
そう、確信したとき――、
「くっ!!」
腹に強い打撃を受けた。
俺はそのまま崩れ落ちた。
「悪いな、大丈夫か?」
上から二導さんが手を差し伸べる。
鳩尾……狙いやだったな。
俺は胸の下を押さえながら、二導さんを睨み上げた。
・ ・
「肘が偶然当っちまってよぅ。」
ぐ、偶然だと。
ふざ……
「ざけんな!!てめー!!」
「い、尉折。」
「今、狙いやがったな!俺らにボールが渡ると思って、わざと飛鳥にエルボー食らわしやがっただろう!てめー!!」
尉折、やめ……
そして、再び短い甲高い笛音。
嫌な予感。
てだか
<どうしたことでしょう。審判、神奈川、豊違に2度目のイエローカード。ということは――……>
<2枚のイエローカード。レッドカード、退場ですねぇ。>
退場……。
うそ、だろ。
尉折が、フィールドをでる……?
<ええ。続いて主審がレッドカードを高々と掲げました。>
掲げられたレッドカード。
「いいお友達だなぁ。」
二導さんが、俺を見下した。
思いっきり、嫌味を吐く。
くっそ。
そして、尉折は審判の指示にフィールドを去った。
観客のざわめきはおさまらなかった。
しばらくの余韻の後――、
「ペナルティー?」
誰かが叫んだ。
冗談だろ。
俺たちは、ペナルティーを取られた。
フィールドプレイヤー9人で、尚且つ、ペナルティーなんて。
まんまと相手の策にはまった。
二導さんの侮蔑。
この人。
ここまで計算してたんだ。
俺に、審判の死角からエルボーをくらわせて、尉折の怒るのも計算して。
しかも、ペナルティー内。
ペナルティーキックを獲得して。
蹴るのはもちろん。
阿さん。
颯爽とペナルティー内に足を踏み入れた。
――入らないほうが、おかしい。
ゴール前、11メートル。
2対1。
見事に逆転された。
<前半終了――!!2対1。徳島の見事な逆転で、ハーフタイムに入ります。>
俺たちは、まんまと相手の作戦にはまり、そして逆転。
重たい。
この1点は、重すぎる――……。
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