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1月3日、第3回戦。
埼玉川越競技場。
愛知県代表H高校との試合。
晴れ渡った青空、輝く太陽。
「今日勝ったら、ベスト8だ、気合入れていくぞ!!」
「おー!!」
この試合に勝ったら、ベスト8。
全国ベスト8。
正念場だ。
<ここまで無失点で勝ち進んできた、愛知。対する、神奈川は初戦、フィールドプレイヤー9人という困難な状況にもかかわらず、エース、飛鳥のハットトリックで徳島を翻弄。両チームとも全国初出場です。>
あすか
「飛鳥、いくぞ。」
「はい。」
<今、ホイッスルがなりました!試合開始です!>
一体どういう試合展開を見せるんだろう。
無失点の愛知。
!!!
な。
「何だ、このフォーメーション。」
これは、4-2-4システム。
今までみたことがない。
けおと
トップに4人、中央の右に華音さん、左にねいろさん。
そしてデフェンスに4人。
ほのか
ゴールキーパーは、もちろん仄さん。
見たままの攻撃型?
いや、中央の2人が気になる。
中盤、2人なんて……。
「まずは、様子見だ、飛鳥、ゆっくり行くぞ。」
もりあ
サイドの壮鴉さんの声に頷く。
ボールをキープした俺は、ゆっくりと前進。
3-0、4-0で勝ち進んできた愛知。
何かがあるはず。
いおる
俺のペースチェンジに尉折のフォロー。
……え。
思わず、俺は振り返ってしまった。
だって、相手のトップ4人ラインをなんなく通りすぎてしまったから。
・ ・ ・ ・ ・ ・
言い換えれば、相手のトップ4人は、動かなかったのだ。
尉折にパス。
尉折も不思議そうにその光景を眺めた。
「どーなってやがる?」
前には華音さん、ねいろさん。
中盤を本当に2人で守るってのか?
<神奈川、慎重なゲーム展開を見せます。>
何だ、この威圧感は。
スキがありそうで、ない。
前へ進めない。
周りが妙に静かで、歓声すらない。
「尉折!」
一瞬だった。
尉折が華音さんから目を離した瞬間、4人のトップが示し合わせたかのように動いた。
華音さん、華麗で無駄の無い動き。
おもね
阿さんのようにシャープなキレとは対象に、優雅で柔軟。
「ねいろ。」
ねいろさん、華音さんからショートパスを受ける。
俺は、後ろからねいろさんたちを追った。
……!?
変だ。
バックスが動かない。
デフェンスの4人が、今度は全く動じない。
前線の4人はラインを崩すことなく走る。
直線。
そう、上からみると、綺麗な直線攻撃をしているんだ。
ボールをキープする、ねいろさんの横に華音さん。
あれじゃ、パスが出せない。
ほせ
輔世さんのチェック。
……マンツー?
前線相手チームの4人が、うちのディフェンスを、バスケ流のマンツーマンでマーク。
「マジかよ。どーなってんだ。飛鳥、フォロー。」
「は、はい。」
そんなんじゃ、中盤ねいろさん、華音さんだけじゃないか。
バックスは下がってるし、トップはマンツーって。
中盤を2人で支配するってのか?
こっちは、4人マークされても6人残ってるんだぞ。
頭はそう思いながら、片隅で気圧される。
正直いってこのチームは未知すぎる。
「ナメてんのか。中盤2人で勝負なんて。」
尉折も舌打ちしながら、この状況に困惑していた。
るも や し き
尉折と俺、流雲と夜司輝。
よみす
嘉さん、壮鴉さんの6人でねいろさん、華音さんを攻める。
容赦はしない。
そんな中、ねいろさんが軽くボールを浮かした。
パスミス?
華音さんはすぐ隣にいるのに、ボールは俺たちの頭上を超して、俺たちのエリアから逃れようとしてる。
そのチャンスに、もちろんねいろさんたちから離れ、ボールを追う。
「飛鳥!」
俊足の嘉さんがいち早くボールをキープしてパス。
よし、トップが最前線にいる限り、守備は手薄……
「オフサイド。」
審判の声と短い笛の音。
え、だって。
ハーフラインを超えたばかりだってのに、オフサイド?
!!!
<神奈川、不運にもオフサイド。カウンター狙えるところ、運をつかんだのは愛知か?>
ちがう。
不運なんかじゃない。
これは――、
「オフサイド・トラップだ。」
嘉さんが、俺の言葉を代弁した。
「悪い、パスが容易すぎた。……あいつ、狙ってた11番。」
「パス・ミスなんかじゃない。」
壮鴉さん。
ねいろさんが蹴り上げた、浮き球にみえたボール。
狙っていたんだ、わざとオープンスペースに出して、そしてオフサイド。
証拠は、ディフェンスの浅さ。
少しずつ、俺たちが攻め込んでいる間に愛知のディフェンスは、つめよってきた。
あたかも自然に歩み寄ってきて、ラインを浅くした。
オフサイド・トラップ。
簡単にいってしまうと、相手のオフサイドをさそうこと。
故意にしかける、ワナってこと。
自分より前方に相手側が1人しかいないときに、後方にいる見方からパス受けてはいけない。
受けたらオフサイド。
その場から相手の間接フリーキックをとられるんだ。
俺たち、下がりすぎていた。
全員、元の位置に戻る。
奇妙な愛知のポジショニングに気圧されて、下がりすぎていた。
そこをまんまとつかれた。
でも、尋常じゃないコンビネーション。
オフサイド・トラップってのは、口で言うほど簡単じゃなくて、皆のプレーがしっかり合って、なおかつ司令塔がいなきゃ、浅く綺麗なラインを築けるはずがない。
へたして、スルーで前へぬけられたら、前にはゴールキーパーしかいなくなる。
命取りもいいとこなんだ。
それを、あんなに巧く、俺たちに気づかれずにやってみせるなんて……。
それに、あの状況下で一瞬できたオープンスペースを見極めたチップ・キック。
ねいろさんもすごい。
チップ・キックってのは、ボールのしたに親指を差し込んで蹴って浮き球を出すキックのこと。
冷静な判断力がないと、土壇場でできる技じゃない。
でも、負けられない!!!
<神奈川のオフサイドで愛知、チャンス。間接フリーキックです。>
「ディフェンス、要注意だな。」
「はい。」
相手はまたしても直線攻撃。
無駄のない動き。
華音さんのペースチェンジ。
は、速い。
得意なドリブルを駆使して、サイドステップを踏みながら柔軟に富む動きを見せる。
そして、華音さんが、視線をずらした。
……え。
ゆいま けおと
<おーっと!!でました、愛知、エースストライカー結真 華音のスーパーシュート!!>
<良くシュートコースを見ていました、結真。>
な、なに?
パスをするかのように見えた華音さん。
シュートコースを見定めていたなんて。
<一瞬場内も呆然。前半30分、一瞬のすきをついた先制点。>
視線に敏感になりすぎていたのか。
ディフェンスに気を取られて、視線にごまかされるなんて。
やることなすこと、裏目にでる。
いや、それよりももっと先を、この2人は見てるんだ。
華音さんとねいろさん。
スマートなプレーに隠されたすご技。
視野の広さ。
中盤を守るにはもってこいの逸材。
<1対0。均衡破れました。群がる神奈川をけちらしての一瞬のシュート。そして、ゴール。キーパーも反応不可能でした。>
「くっそ。」
「まじで、中盤を2人に支配されるなんて。あのコンビはさすがだな。」
コンビ……?
確か、華音さんは、以前徳島にいたっていってたっけ。
そのときはDFだったって話しだ。
今はMF.。
何でポジション変えをしたんだろう。
DFでかなり名を残していた人だ。
どうして、MF?
確かに、MFに必要な力は兼ね揃えていると思う。
といういより、柔軟に富む動き、中盤の支配力、鮮やかなドリブル力を考えると、DFのほうが、華音さんには、不釣合いなんじゃないのか。
でも、じゃあどうして前のチームでは、DFだったんだろう。
「飛鳥!」
「はい!」
あれこれ考えている暇は、今はない。
1対0。
これ以上はなされるわけにはいかない。
審判の旗があがった。
「オフサイド。」
また?
俺たちは不覚にもまたオフサイドをとられてしまう。
「くそ。4番、あいつが最終ラインだろ。何で。」
嘉さんが最終ラインを怠った?
あの冷静な人が……。
そんな、バカな。
でも、何でオフサイドなんだ?
<あーっと、ここで前半終了のホイッスルだ。1対0。愛知のリードでハーフタイムを迎えます。>
折り返し。
俺たちは控え室で一様に頭を悩ませていた。
「最終ラインを怠った覚えはない。」
嘉さんの自信に満ちた言葉に、お前の言うとおりだ。と、壮鴉さんは頷いた。
ディフェンスの4番が最終ライン。
間違いない。
「じゃあ何で抜けねーんだ。何で、オフサイドなんだよ。」
「……オフサイド・トラップの司令塔は一体誰なんですか?」
今まで黙っていた夜司輝が、ぽつりと呟いた。
拳を顎に持っていく。
「そりゃー4番だろ。最終ラインの。」
オフサイド・トラップの司令塔……。
もしかして。
「オフサイド・トラップの司令塔、もしかしたら、4番じゃないかもしれません。」
俺の言葉に、皆の目が俺に集中した――……。
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