3
「しっかし、一時はどうなるかと思ったよ。」
「ほんと、ほんと。」
「で、波に乗れたのかな、俺たちは?」
控え室。
皆、帰り支度をしながら――、
「少なくとも、乗れてなくはないだろ。勝ったんだし。」
「だな。」
一様に笑顔。
えだち
俺は、シャワー室からでてきた徭さんに、頭を下げた。
「試合中の勝手な言動、すみませんでした。」
あすか
「もちろん。飛鳥がいたから、勝てたんだけどな。」
徭さん、俺の頭を軽く叩いて、優しく微笑む。
……。
「良くやった。勝つのに必死で、お前みたいに頭がまわらなかったよ。」
「そうだよな、フェアじゃないといけないよな。大事なこと見落としそうになってた。」
「しかも、ハットトリックなんて、お前。全国初で、すげーぞ。」
礼をいう徭さんと、満面の笑みの皆。
「ありがとうございます。」
そっか。
今更ながら、ハットトリックだったんだ、なんて考えた。
ハットトリックってのは、1試合に同じ人が3点とることなんだ。
おもね
「ほーんと。バカがつくよな、お前の正直は。あのまま阿抑えてりゃ、10点台も夢じゃなかったのになぁ。」
ほせ
輔世さんが、冗談ぽくいって、俺の背中を叩く。
「こういうやつがいると困るんだよなぁ。」
ねや
閨さんは輔世さんを叩いた。
皆、失笑。
よかった。
「点じゃねーのよ、ようは。勝ち負けでもなし。」
飛鳥のしたことは正しい。向こうにとっても、さ。
向こう。
にのみち
ゴール前、15メートル、センターラインへボールを戻した二導さん。
信じてもいいですよね。
俺のしたことが、間違いじゃなかった、って。
軽いノックの後、控え室のドアが開いた。
細いシルエットの3人。
「3回戦進出、おめでとうございます。――余計なこと、してしまった様ですね、すみません。」
けおと
華音さんたちが、一斉に頭を下げた。
「フェアじゃなければいけない、なんて。俺たちが言えたことじゃなかった。」
俺たちがしたことが、フェアじゃなかったんだから。とねいろさん。
「頭、上げてくださいよ。えっとすごく、感謝してるんです。だって。それでなきゃ、白紙に戻せなかっただろうし……あの、だから……」
俺は上手く言葉にできなくて、少しうろたえて、口にした。
本当に、謝られることなんて……。
皆を見渡すと、一様に微笑んでいた。
皆もそう思ってます。
「ありがとう。……俺たちも、絶対勝って見せます。そしたら、3回戦――」
「はい。」
勝負しましょう。
俺はしっかりと華音さんと握手を交わした。
「それから――。」
華音さんが、顔を上げる。
ドアの向こうに視線を泳がせて、目配せをした。
「……二導さん。阿さん。」
華音が連れてきたんじゃないよ、とねいろさんが耳打ち。
……。
「……悪かった。」
ぶっきらぼうに2人が頭を下げた。
いおる
そして、俺と尉折にもう一度謝る。
「退場なんて、初めての体験、どーも。」
嫌味っぽくではなく、冗談ぽく、尉折。
二導さんは、礼を言って、複雑な笑みを見せた。
「華音がいなくなって、うちのチームはガタガタだった。それこそ、伝統だけ守って。」
常連のT高校。
プレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
「華音がいなきゃ、勝てないなんて、そんな風に思われたくなくて。似つかわしくないプライドだけ捨てきれず……」
阿さんも顔を伏せた。
「やり直せます。まだ、やり直せます。」
高校卒業したって、やり直せるはずです。
絶対に。
二導さん、顔をあげて――、
「……飛鳥。お前に会えてよかった。最高の試合だった。悔いは無い、ありがとう。」
あすか きさし
また、試合がしたい、飛鳥 葵矩と.。
今度は、プロでさ。
俺たちは、力強い握手を交わした――……。
「おいおい、まじかよ。4-0だってよ。」
宿舎に戻った俺たち。
TVをみていた閨さんが声を上げた。
俺たちの後、行われた愛知対滋賀。
4対0で、華音さんのチームが圧勝。
「着実に点数稼いでるな。1回戦は、あの三重に3対0だろ。」
「次は5対0だったりして。」
輔世さんの言葉に、
「そーかもな……ってバカヤロ、俺たちとじゃねーか。」
閨さんが輔世さんを小突く。
――俺たちも絶対勝って見せます。
堂々と宣言した華音さん。
あの、三重Y高校に3対0。
そして、前回ベスト8の滋賀M高校相手に4対0。
ほのか
ずっと無失点の仄さん。
一体、どんな動きをするんだ。
何か、すごい奇策でもあるんだろうか。
「げ、7対0だってぇ??」
ぬえと
今度は鵺渡さんが奇声を上げた。
皆がTVに再び注視。
「静岡と東京の試合。7-0で静岡圧勝。」
す、すごすぎる。
7点って。
全国のスコアじゃないよ。
しかも、東京A代表っていったら、前回の準優勝チーム、T高校。
はくわ
穿和さん……すごい人だ、本当に。
TVでは、穿和さんがてきぱきフィールドで指示して走って、東京を動けなくしてる。
速いスピード。
巧みなテクニック。
あっというまの7点。
しかも、そのうち4点を、穿和さんがたたき出してる。
オールラウンドプレイヤー。
まさに、王者静岡の貫禄。
「ま。当たって砕けろってヤツですか、次の試合は。」
度肝を抜かれた様子の皆に、尉折が楽天的に言った。
本当に砕けたたらどーすんだ。
でも……負けたくない。
俺は、鞄の中身を整理しながら、綺麗な青のマフラーに触れた。
し な ほ
紫南帆……。
こんなとこで、負けるわけにはいかない。
――勝つの。ぜーったい。国立行くまで、帰ってきちゃダメ。
今日で、3日か。
なんか、一週間ちかく紫南帆の顔みてない気がする。
なんて、マフラーを握り締めてたら――、
「よおー。」
間延びした、尉折の後ろからの声に、思わず、マフラーを鞄に突っ込んだ。
しかし。
既に遅し。
「お?何隠した?飛鳥くーん。」
「べ、別に。何も隠してないっ。」
不気味な尉折の笑いに、首を振って鞄ごと後ずさり。
ぜーったい、見つかったら何か言われる。
「俺に隠し事なんて、つれないじゃんか!こら見せろ!」
げっ!
尉折が飛び掛ってきて、俺の鞄を引っ張った。
「っちょ、何でもないって!引っ張るな!!」
「なに、なに?僕も加勢しまーす!」
るも
流雲までいつのまにか来て、尉折に加わった。
加勢してくれなくていー!
流雲は強引に俺の鞄をひったくって、中身を豪快にぶちまけた。
……せっかく整理したのに。
無残に散らばった俺の荷物を見て――、
「なーんだ。別にたいしたもん入ってないじゃないですかぁー!」
悪かったな、たいしたもん入ってなくて。
てっきり面白い雑誌でも入ってるのかと思った。と、流雲。
面白いって……ねぇ。
流雲じゃないっての。
心底つまらなそうに、TVの方へ向かう姿を軽く睨んだ。
「飛鳥くーん。」
げげ。
さすがに、そういうことには目ざとい、尉折が――、
「皆さん!きーてください!!何と!手編みのマフラー!!!」
っちょ!!
俺の制止、全く無視。
マフラーを高々と掲げた。
尉折の奴ぅ……。
そんな尉折の声に、皆、一様に驚いてから、
「モテるやつはいーよなぁ。」
「本当、本当。」
口々に言って、納得ぎみに頷いてる。
「誰にもらったんだよ。」
ま、わかってっけど。と自問自答。
「紫南帆ちゃん以外いないもんなー!」
えっ。
紫南帆の名前を聞いたとたん、顔が熱くなるのがわかった。
耳も赤いかも。
「えー!紫南帆さんにもらったんですかぁ〜あすかせんぱい、やったじゃないですかぁ!」
すばやく流雲が戻ってきた。
そーゆうんじゃないってば。
「何だよ、お前らゴールインしたわけ〜!」
そーゆわれるのが、ヤなんだよ。
そーじゃなくて。
わいわい、がやがや。
まわりは俺たちが勝手に付き合ってること前提に話しをしだした。
「どこまでいったんだよ〜!え?」
どこまでって……。
「てれんなよ〜教えろよ〜!}
皆で俺をこずいた。
//////。
尉折の奴。
一生うらんでやる。
「本当にそんなんじゃないんです!!」
……きいてないし。
まいったな。
皆が紫南帆に会ったら何言うか想像ついちゃうよ。
どうしよう。
全く、そんなんじゃないのに。
「付き合うとしたら、年齢ってやっぱ気にします?年上の彼女とか……。」
突然、流雲が平素よりなんとなく、元気なく言う。
「人それぞれだからいんじゃん。女が年上でもね。本当に好きならさ。」
「よ、嘉が恋愛語ってる。」
よみす もりあ
嘉さんの言葉に、壮鴉さんが茶々をいれたが、
「お前にいってんの。」
その言葉に、壮鴉さんの顔が見る見る赤くなっていった。
背中を叩く嘉さん。
……初めてみた、壮鴉さんのこんな、顔。
「なに、壮鴉って年上のオンナすきなの?」
すかさず輔世さんが突っ込む。
「ばっ!そんなんじゃねー。嘉だって4つも年下と付き合ってるくせに!」
壮鴉さんの暴露。
4つ下っていうと……。
「中2じゃないですかぁ!!」
「嘉さんってばぁ。」
尉折と流雲の奇声にも、
「恋愛は自由だろ。何歳年下だろうと年上だろうとさ。」
クールにいう嘉さん。
何か、嘉さんがいうと納得してしまう。
「俺は相手のこと愛してるし、互いに必要としてる。それでいんじゃないの。」
たんたんと語る。
俺とは大違いだ。
皆も、色々な恋愛をしていて、いつの間にか、恋愛についてみたいな話しになった――、
「俺さ。マジで好きなコいるんだよね。」
ちがや
茅さんが少し、頬を染めて口を開いた。
それに後押しされたように、
「俺も。」
徭さん。
「でも、望みなしなんだ。」
「同じく。」
ゆっくり、視線を動かした。
……え?
俺の顔を見て、2人はうなづきあった。
「あすか、せんぱい。ちょっと、いいですか。」
袖を引っ張る流雲。
珍しく、しおらしい雰囲気。
外にでないか、と誘われたので、俺たちは部屋を後にした――……。
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