TOMORROW
Stage 3 ―Older And Younger―
1/2////あとがき

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  「くっそ!!!」
      いおる
控え室、尉折はロッカーを思いっきり叩いた。
重低音が響く。

  「尉折……悪い。」

俺が耐えていれば……。

  「お前のせーじゃねーよ。あいつら許せねー!」

あと2点。
俺たちはフィールドプレイヤー9人であと2点とらなきゃ勝てない。
P.Kじゃなおさら不利だ。
       おもね
ただでさえ、阿さん一人に……。
きいてないよ、全国でフェアじゃない戦いなんか。

皆、口々につぶやいた。
重たい空気。

そんな空気が――、
      けおと
  「……華音さん!」
るも
流雲が声を上げた。              ほのか
そこには、華音さんをはじめ、ねいろさん、仄さん。

  「すみません。おせっかい、やきにきました。」

華音さんが、頭を下げるのに、俺たちは無造作に倣った。

  「昔は、あんな風じゃなかったんです。少なくとも、俺がいたころは。」

華音さんが話し始めた。

  「みな、わかってます。徳島のラフプレー。何か策は練ってきましたか?」

  「……一人一殺用に。でもそれは……」
えだち
徭さんはそういって、尉折を見た。
そう、厳しいマーク用に、一生懸命練習したのに。
尉折はうなだれた。
最高の屈辱、だよな。

  「それじゃあ、阿に2人、もしくは3人のマークをつけたらいい。」

華音さんはうなづいて、静かに口を開いた。
2人、もしくは3人のマーカー。
華音さん曰く、背の低い阿さんは、周りを囲まれたらフェイントがかけられないという。
間合いがあれば、いくらでも俊足で抜き去ることができるが、目の前をふさがれたら、身動きが取れなくなる。

  「至近距離で阿さんを射止める……ってことですね。」

そうすれば、パスももらえないし、だせない。
俺たちは顔を上げた。
華音さんたちの笑顔。

  「でも……どうしてですか。」

俺の言葉に、ねいろさんは、

  「試合はフェアでなきゃ。……俺たちは君たちと勝負がしたい。」

力強く、優しい笑み。
そして華音さん――、

  「二導はシュートは打てない。打てたとしても、徭さん、あなたなら止められます。」

3人は静かに控え室を後にした。
俺たちは、感謝を込めて頭を下げた――……。

                   てだか
  <後半40分、キック・オフ。豊違が退場した神奈川は、現在フィールドプレイヤー9人。2対1。おっと、……これは、阿にマーカー2人……ですか。神奈川、阿に2人マーカーをつける模様です。>

  <そうですね。阿の俊足を危惧しているんですね。>

嘉さんと壮鴉さん、長身のマーカー。
振り切れるもんなら、ふりきってみやがれ!
みてろよ!
尉折の分まで、戦ってみせる。
負けない。
あんな奴らに、絶対負けない!!

  「二導さん。俺たち、絶対負けません。何が何でも、あなたたちには、負けません!!」

思いっきり、二導さんを睨む。

  「俺たちに勝っても、華音たちには、及ばないだろ。」

  「それでも、あなたたちには、勝ちます。」

  「ナマイキいいやがって!」

ラフプレーなんて許さない。
フェアじゃない試合なんて、絶対許さない!!

  <おーっと、20センチ以上の身長差もなんのその。神奈川の飛鳥。徳島、二導を抜き去りました――!!>
       や し き
  「流雲、夜司輝、フォローたのむ!」

  「まっかせてください!」

尉折はいない。
嘉さんと壮鴉さんは、阿さんのマーク。
俺たち3人でゴールまで運ばなきゃ。
絶対入れてやる。

  「飛鳥先輩!!」

ゴール前、夜司輝がディフェンスを交わして――、

  <オフサイドなし!神奈川チャンスだ。エースストライカー飛鳥、シュート態勢にはいった――!!>

キーパーと1対1。
ここでいれなきゃ、尉折にあわせる顔なんて――……、
ない!!!

  <入った、入りました!!同点です!後半5分。飛鳥のすばらしいボレシュート!>

よし!!

  「ナイスシュート!あすかせんぱい!!」

  「飛鳥先輩!」

流雲と夜司輝の笑顔。
歓声。
やったぞ。

俺は大きくガッツポーズをした。
二導さん。
さっきとはうって変わって、その顔に笑みはなかった。

ゴールキックから、二導さん、阿さんを見る。
でも、嘉さんと壮鴉さんの高い壁に阻まれ身動きが取れない阿さんを一瞥してドリブル。
そのドリブルも、まもなくディフェンスに遮られた。
右往左往する、二導さん。

……。

  「嘉さん、壮鴉さん……元の位置にもどりましょう。」

俺の言葉に、皆が目を丸くした。
俺は、二導さんに近づいた。

  「阿さんにマークをつける奇策。華音さんから聞きました。」

  「飛鳥!!」

誰かの声。
かまわず続けた。

  「2対2。五分と五分です。これで、全て白紙にもどしましょう。」

二導さんの最後の大会。
くいのない試合をしましょうよ。

  「お前……。」

このまま華音さんに言われたとおり、阿さんにマークをつけてれば、点はいくらでも取れたかもしれない。
でも。
そんなのフェアじゃないと思うんだ。
これからも、サッカーを続けていく上で、二導さんたちが、ラフプレーをし続けるなんて。
そんなの、悲しいことです。
だから、フェアな勝負がしたい。

  「お前の正直はバカがつく。」

俺の思いを嘉さんと壮鴉さんが、理解してくれて、阿さんから離れた。
皆、俺の気持ちをわかってくれた。
さあ、今からがキック・オフだ!!!

二導さん、何かふっきれたように笑った。
そして――、

  <どうしたことでしょう。二導、ゴール前15メートル。ボールをセンターへ戻します。>

  <皆も再スタートという感じで、大きく広がりましたね。>

二導さん……。

  「味なことしてくれんじゃん。」

  「ほんと。」

確かに、響いた。
皆の脳裏に、キックオフのホイッスル。

そうだよ。
やっぱり、試合はこうでなきゃ。
風が気持ちよい。
歓声が心地良い。

今、最高の気分だ。
太陽の光を浴びながら、フィールドを汗まみれになって走り回る。
ひたすらボールを追いかけて――、

  「ナイスシュート!」

勝ち負けなんて二の次なんだ。
本当にサッカーが好きで、サッカーを愛してる人は。
ひとつひとつの試合で、自分はどれだけ納得のいくプレーができたか。
うん。
それなんだと思う。
うん。
それなんだよ。
                     あすか     きさし
  <3対2。逆転逆転に次ぐ試合。飛鳥 葵矩の見事なハットトリックで、神奈川県代表S高校、全国初勝利、3回戦進出決定――!!!>


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