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「やー、やったなぁ。」
「なー、良くてP・Kかと思ってたよ。」
「逆転、なんてさぁ。」
宿舎に戻り、皆一様に嬉しさを隠せずにいた。
「べスト8だぜ。俺たち強いよな。」
「強ぇーよ!なんてったて、あと1つで国立だぜ。」
喜びをかみしめる。
「でもさ、あの土壇場でロングシュートなんて、こいつー!」
「やっ、やめてくださいよっ。」
ほせ ・ ・ ・ ・ ・
輔世さんが俺の頭をかき混ぜた。
でも、すごく嬉しい。
俺の脚じゃ、あのディフェンスを抜けないと思ったし。
ああするしかなかったんだ。
そんな俺に――、
「だからって30メートル特大ロングシュートなんて、人間じゃねー!」
よくやった!と皆が褒めてくれる。
よみす もりあ
「ありがとうございます。でも、嘉さんと壮鴉さんの絶妙なパスワーク本当にすごかったです!」
まさに、最強のコンビ。
ほのか
あのスピードで仄さんを翻弄して、ばっちりのアイコンタクト。
やっぱこの2人はすごい。
「いやー照れるな。」
・ ・ いおる
尉折の言葉に、嘉さんが、お前がゆうな。と、尉折の背中を叩いた。
「飛鳥のお陰だよ。」
「そうそう。」
え……。
2人は笑顔で、俺のお陰でやる気がでた、といってくれた。
嬉しいです。
「皆、本当良く頑張った!……お、6時だ。TVつけようぜ。」
えだち
徭さんが皆を激励して、そしてテレビをつけた。
6時のニュース。
皆でTVの前に集合する。
<Aブロック。もうこれは流石としかいいようがありません。>
丁度、高校サッカーの結果発表をしている。
トーナメントが表示してあって、勝ち進んでいるチームには赤ランプが点灯していた。
<今日、大宮で行われた静岡代表S高校、対大阪代表H高校。11対0で静岡圧勝です!全く主導権を握ることなく大阪、3回戦敗退。>
じゅっ、
「じゅういったいぜろ――??!!」
俺たちは一斉に叫んだ。
「まじかよ、7対0で驚いてたらとんでもねー、11対0って……。」
ベスト8なのに……。
11対0なんて……大阪が弱いんじゃない。
静岡が、強すぎるんだ。
そんな静岡が同じ宿舎にいるなんて……なんか信じられないよ。
<……続いてEブロック。神奈川代表S高校、対愛知代表H高校。両チームとも初出場。前半神奈川がリードを奪われますが、後半、劇的なエースストライカー飛鳥のロングシュートが決まり、同点。>
「おー、でっかく映ってんじゃん。」
尉折の言葉に思わず、恥ずかしさがこみ上げる。
何か、TVで自分を見るのって恥ずかしいよ。
<その後、追加点。2対1で神奈川が4回戦進出を果たしました。>
テレビでは、ハイライト。
<Fブロック。鹿児島県代表K高校、対岡山代表S高校の試合。5対2で鹿児島が快勝!>
あ。
のぶし わしは
テレビに映る鹿児島の延施さんと鷲派。
尉折がテレビにかじりついて、こいつ、ムカツク。と、いっている。
長い黒髪をバンダナで留めて、風を切る鷲派。
そして、シュート。
口だけじゃなく、巧い。
「次はこいつらとか。」
「だな。」
そうだ。
次の試合、1月5日三ツ沢のグラウンドで、俺たちはこのチームと当たる。
「全然、問題外!練習する必要なし。さーて、明日のオフどーやってすごそうかなぁ。」
尉折は声高々といって見せたが、俺はそうは思わないよ。
だてにベスト8まできてないだろうし。
かなり手ごわいはず。
「そーだ、飛鳥。」
「ん?」
「明日さ、呼べば?」
尉折は、満面の笑みを見せる。
明日は、2日目の体調考慮の休日。
尉折は、耳元でささやいた。
し な ほ
――紫南帆ちゃん、ここに呼べばいーじゃんか。
え……。
「ベスト8だぜ。そんくらいいーじゃんか。ずっと会ってねーんだろ。声もきいてねーんだろ。息抜き息抜き。」
俺の背中を叩く。
尉折……。
「それともあれかぁ。ここに呼んじゃうと、皆に紫南帆ちゃん物色されちゃうから、ヤダかぁ。」
語尾を伸ばし伸ばし行った。
――電話してこいよ。
その言葉に背中を押されるように、俺は、宿舎の電話機に向かった。
紫南帆……。
そうみ
「はい、蒼海です。」
「あ、……紫南帆?」
「飛鳥ちゃん?」
紫南帆の声質が変わった。
受話器の向こうで紫南帆の笑顔が見えるようだ。
「おめでとう!ベスト8。テレビ見たよ!すごいねーナイスシュートだったよ!」
「ありがとう。」
何か、4日も会ってなくて、声も聞いてなくて……。
「どうしたの?」
電話の向こうで、不思議そうな声。
「いや……ううん。本当ありがとう。」
何かよくわからないけど、すごく嬉しくて。
俺、緊張してら……変なの。
「実はさ、明日。休みなんだけど、えっと……来ない?」
「いいの?ジャマじゃない?」
エル オー ブイ イー
「ジャマじゃない、ジャマじゃない。もー超大歓迎!紫南帆ちゃんL・O・V・E!!」
「え?」
「こ、こら。尉折――!!」
尉折の奴、俺からいきなり受話器をひったくって、そんなことをいった。
俺は、焦りまくって、尉折から受話器を奪い返す。
「あ、紫南帆ごめん。うそだか……あ、本当だけど、――えっと、じゃなくて、ごめん。」
俺のしどろもどろした言葉に、紫南帆は軽く失笑して――、
「尉折くん?」
「え、……うん、そう。」
もう一度笑んだ。
みたか
そして、紊駕と一緒に来てくれると約束してくれた。
「じゃ、おやすみ。」
「うん。おやすみ。」
紫南帆の声の余韻に浸るように、静かに受話器を置いた。
ぎょっ。
「な、なんですか――。」
驚いたよ、さすがに。
だって、俺の周りに皆、勢ぞろい。
しかも座り込んで俺を見上げてる。
皆、一様ににやにやして――、
「いーよなぁー。」
「いーなー。」
「いいなぁー。」
輪唱しないでくれ。
「何だって?来れるって?」
俺の頷きに――、
「来るの?」
「やった!明日出かけるのやめようぜ!」
「そうだねー!」
って、何で……?
「ちょっと、待ってくださいよ!」
変なこと言わないで下さいよ、といった俺に皆、にっこり笑った。
「なーにいってんですか!あすかせんぱい。俺たちのこと信じてくださいよ〜!ねえ先輩方!」
流雲が、そう口火を切った後――、
「言うにきまってんじゃないですか――!!!」
だと思いました……。
ったく、皆して面白がってんだから。
そんな中、嘉さんが、俺も呼ぼうかな、と呟いた。
「いーよなあ、彼女いるやつわ!ついでに壮鴉の女も紹介しろ!」
ねや
輔世さんと閨さんが壮鴉さんをからかうように言った。
壮鴉さん、赤くなってる。
あ……。
夜司輝、浮かない顔をしてる。
そう、か。
まだ生殺しのままなんだよな。
「何、やってんの。こんなところで。」
いぶき
後ろから、檜が奇妙なものをみるような目つきをして現れた。
そりゃそうだ、1階ロビーで俺たち皆が集合している。
じゅみ てだか
「ねー、樹緑ちゃん。豊違なんかどこがいいの?別れて俺にしない?」
ぬえと
「何をいうんですか!鵺渡さん、冗談にもほどがある。こーんなにいい男じゃない豊違くんは!」
尉折……自分でゆったら本当でも信用なくすって。
鵺渡さんと尉折の言葉に、あからさまに溜息をついて、檜は――、
「もー、そんな冗談ばっかりいってないで、早く部屋に戻ってください。迷惑です。こんなとこにこんなに大勢で。」
檜の言葉に皆大人しく従った。
なーんか。
皆嬉しさを隠せずにハイテンションだよな。
お前が一番ハイだ。と、どこかからまたまた声。
……幻聴だろう。
それにしても、ベスト8か。
あと一つで国立。
……早く、紫南帆の顔が見たい――……。
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