5
<今日もすばらしい冬晴れ。連日天候恵まれている、全国高校サッカー選手権大会、準々決勝。ここ、神奈川県三ツ沢競技場では――……>
今日のスケジュールの案内が、空に響いた。
第1試合、12時15分からGブロック代表、北海道U高校、対Hブロック代表、兵庫T高校。
第2試合、14時15分からEブロック代表の俺たち、対Fブロック代表、鹿児島K高校。
俺たちは、練習の時間を惜しんで、第1試合を見学にきた。
順当に行けば、北海道、兵庫、このどちらかが第5回戦の相手。
もちろん、鹿児島に勝たなければ意味がない。
<なお、平塚グラウンドでは、同じプログラムで、第1試合Aブロック代表、静岡S高校、対Bブロック代表、山梨T高校。第2試合Cブロック代表、山形N高校、対Dブロック代表、高知K高校の2試合が行われる予定です。>
そして、ベスト4が決定。
あすか
「飛鳥、ここ空いてるぞ。」
「さんきゅう。」
北海道U高校、対兵庫T高校。
スタンドに俺たちは腰下ろした。
くりま う き や
――栗馬 羽喜夜。
あいつがでる。
るも
見た目、流雲より小柄で、身長も低い。
細い体つき。
どんな動きを見せるのか。
「飛鳥先輩、何飲みますか?」
そのう
弁が尋ねる。
のりと
祝と2人で飲み物の注文をとってるようだ。
「あ、俺も行くよ。全員分なんてもてないだろ。」
「え。悪いです。夜司輝もいるし、大丈夫ですよ。」
祝の言葉を押し切って――、
「すみません。先輩にこんなこと。ったく、流雲の奴。まったく、態度でかいんだから。」
夜司輝はスタンドに残っている流雲に言うように呟いて、俺に謝った。
俺は苦笑。
4人で自販機に向かう。
外の空気は冷たいのだが、競技場は熱気に包まれていた。
「飛鳥ちゃん。」
し な ほ
「……あ、紫南帆。」
向こうから、茶色のコートを腕にかけ、少しはにかむように笑んで小走りにかけてくる紫南帆の姿。
みたか
紊駕も後ろから、ゆっくり足を運ぶ。
「あ、……じゃあ先いってますね。」
夜司輝たちは気を利かせて、俺の腕から缶ジュースを半ば奪うようにとってスタンドへ向かった。
ありがとう。と、その背に呟いて――、
「来てくれたんだ。2人とも。」
みやつ
紊駕はそっけなく、第1試合の応援に造さんもくるだろうから。と、付け加える。
さんきゅう。
「よ、紊駕。」
うわさをしていたら(!?)造さんが、紊駕の姿を見つけて、声をかけた。
「おはようございます。」
紊駕が礼儀正しく挨拶をする。
何か、俺からすると変な光景だ。
でも、造さんって人を敬ってる気持ちが強く伝わる。
「なんか、お前がサッカー場なんて、違和感あるな。」
「心外っすね。」
苦笑した造さんに、紊駕のお返し。
「造さんも似合ってませんよ。」
「昔、だろ、昔。」
「変わってませんよ。」
この、かわいくねー。と、弟を愛おしむように、造さんは相好を崩して、乾いた笑いをした。
紊駕はスタンドに入ると、さりげなく造さんと席を共にして、俺たちから離れた。
……皆して、気を利かせてくれるんだから。
「どっちが勝つかな。」
適当なところに席を取って、紫南帆と観戦。
フレアスカートから覗いた膝に両腕を乗せて、拳を顎につけた。
「ん―、今までは、北海道がずっと快勝してきたんだ。兵庫はちょっとあぶないかもね。でもサッカーの試合は大どんでん返しがあるから、最後までわからないね。」
「飛鳥ちゃんが、ベスト8まで勝ち進めたみたいに?」
紫南帆のいたずらな瞳にぶつかる。
「あ、この。そーゆーこと、ゆーか!」
「うそ、うそ。ごめんてば。」
大げさに防御体勢を取る紫南帆を小突く。
もちろん、そんなこと想ってないことくらい解ってる。
「飛鳥ちゃんはどっちに勝ってもらいたい?」
「んー、どっちが勝っても――」
「全力で戦うのみ。」
紫南帆が俺の言葉を引き継いだ。
頷く。
「そういうと思った。」
俺たちは笑顔を交し合って、再びグラウンドに目を向けた。
丁度、ホイッスルが鳴った。
グラウンドいっぱいに選手が広がる。
「11日前までは、こういう形でここに戻ってくるなんて、考えてなかったな。」
三ツ沢グラウンド。
12月25日。
俺たちは、全国の切符をかけてインターハイ決勝試合を行った。
なんだか、ものすごく前のようにも感じる。
「私は、思ってたよ。」
紫南帆の大きすぎない二重の瞳が俺を見た。
「きっと、勝つって信じてたもん。」
「ありがとう。」
「なっかなか帰ってこないと思ったら――、こうゆーことかあ!」
「うわ!!」
後ろから思いっきり背中を押された。
いおる
振り向くと、にっこり笑った尉折の姿。
半ばからかうような口調で、俺の肩に腕をかけ、肘で頬をつついた。
じゅみ
「いーな、いーな。俺の樹緑なんか。宿舎で準備なんだかんなー。」
「俺の、なんていえるほうがうらやましいよ!」
と言おうとして、やめた。
悔しいから黙っておこう。
「わかったよ。今、戻りますよ。」
「べっつにーいんだけど。」
「はいはい、戻ればいんでしょ。」
紫南帆はそんな光景に、ゴメン。と、小さく呟く。
俺は紫南帆のせいじゃないよ。と、首を振って立った。
「あ――!!この間の――!!!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「あ――!お前、わしわ れつかぁ――!!!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「てめ、まちがえんな!わしは れつかだ――!!!」
あー、あ。
うるさいのが出揃った。
思わず、頭を抱える。
紫南帆も驚いた顔つき。
あすか きさし
「あー、てめぇ、飛鳥 葵矩――!オンナいやがったのかぁ――!!!」
げっっ//////……。
「ちっ……」
「そーだよ!うらやましいだろ。うちのエースはなぁ、もてんだよ!てめーはエースでも雲泥の差。月とすっぽん!ブタに真珠!猫に小判!逆立ちしてもかなわねーってもんだ!!!」
俺の言葉を遮って、早口で一気に尉折。
なんか、たとえの意味が違ってきてるんですけど。
「何わけわかんねーことゆってやがる!!」
って、どーでもいいけど、誤解だぁ!!
「俺様んとこはな、私服で外出できんだよ、うらやましーだろ!」
「じゃーなんで、この間、明治神宮でジャージだったんだよ!」
「うるせーカンケーねーだろ!!」
あの。
なんか、ワケがわからないぞ。
いちいち叫ばなくても……。
注目浴びてますから、俺たち。
そんなたわいもない言い争いが続いて――、
れつか
「烈火!!ったく、スタンド中響いてるぞ!!」
鈍く大きな音が聞こえた。
のぶし
「延施さぁーん。」
わしは
鷲派が頭をかかえこんで、その場にしゃがみこむ。
後ろには、拳を上げた延施さん。
「おこられてやんの。」
尉折が舌をだすと、牙をむく。
「のやろー!てめ、今のうちにせいぜい練習しとけ!!5戦の相手見に来る前に俺様に負けんだからよ。見たって無駄ってもんだぜ、ハーッ、八ッハッハッ!!!」
でた、この笑い。
腰に両腕をあてがって大またで高々と笑う。
「悪い、気にしないでくれ。」
延施さんが、申し訳なさそうに謝罪。
俺もつられて頭を下げる。
「んだとー!その言葉、そっくりそのままかえしてやんぜ――!!!」
「尉折!」
ったく、この2人はぁ。
突然のグランド中響く歓声。
皆、振り返る。
とうみ ろうと
<先制!早くも北海道先制点です。FWの凍未 浪冬の鮮やかに弧を描いたドライブシュート、決まりました――!!>
前半3分。
北海道U高、先制。
凍未 浪冬さん、11番、センターフォワード。
あの、夜の公園にいた一人だ。
さっぱりとしたスポーツがり、細い長身。
大きくガッツポーズをするでもなく、クールにさらりと守備に切り替えする。
ひらね このえ
<決まったー!!前半7分。片根 此衣のボレシュート!>
続いて、ウィングの8番。
<またまたゴール。前半、北海道怒涛の攻撃!!>
つぎら なつく
そして、ウィングの9番、津吉良 懐さんのシュート。
前半15分に3点。
<FW陣全員3年生。すばらしい攻撃で兵庫を翻弄!!>
3人とも、栗馬って人と一緒に公園にいた人だ。
栗馬はディフェンス。
でも、北海道のDF陣は殆ど動く様子がない。
余裕をかましている。
ゴールキーパーは軽くフットワーク。
栗馬にいたっては、何と、グラウンドに胡坐をかいている。
「余裕だな。」
「延施さん。」
延施さんはそういい残して、さっさと踵を返した。
「見るまでもない、烈火。」
「あ、はい。」
俺たちに軽く会釈をしてその場を去った。
――見るまでもない。
北海道の勝ち。
鷲派も俺たち、特に尉折にあっかんべー、と舌を出して、スタンドを出て行った。
「あんのやろ。」
尉折が2人の消えたあとをにらむ。
「すごいね、北海道。」
紫南帆も呆気に取られたように目を見張った。
俺は頷く。
その後も、北海道は攻撃の手を一切緩めない。
でも、勢いはあるのに、熱がない。
クールな戦いだ。
「北海道、息ぎれしてねーな。」
「紊駕。」
紊駕が俺の隣に来た。
「見てみ、兵庫。」
紊駕の示すほうに目線をやる。
スタンドから見ても一目瞭然。
兵庫のメンバーは肩で息をしていた。
足ももつれそうなくらい。
身体的にも精神的にも負けてる。
それに比べて、北海道。
まったく疲れていないようだ。
栗馬なんて、さっきから空あくびをしている。
結局、その後も追加点。
5対0。
実力の半分も出していないと思われる、北海道は、挨拶をおえるとさっさとグラウンドをさった。
「飛鳥。」
「おう。」
紫南帆と紊駕の声援にこたえて、スタンドを降りる。
今は、目の前のことを考えよう。
鹿児島との試合。
14時15分キック・オフ――……。
>>次へ <物語のTOPへ>