TOMORROW
Stage 4 ―Meet Again―
1//3////あとがき

                           3


1月4日。
俺は、皆の目(!?)を逃れて、東京駅まででた。
   し な ほ         みたか
  「紫南帆ー!紊駕!」

2人の姿を見つけて手を振る。
久しぶりの2人の顔。

  「ハズいやつだな。でけぇ声だしてんな。」

  「ベスト8おめでとう!」

3人、並んで町並みを歩いた。
何か、すごく久しぶり。
心地良いな。
                  いおる
  「紫南帆、昨日ごめんな、尉折が……。」

  「ううん。気にしてないよ。」

何処行く?といった俺に、紫南帆は手元のバッグを垣間見て――、

  「差し入れ、もってきたんだ。」

  「差し入れ、差し入れ?ラッキーさっすが、紫南帆ちゃん!」

え……。
振りかぶると、尉折の姿。

  「い、尉折!」

どっから湧いて出た!!
そして、

  「ちょっとちょっと!忘れちゃ困ります。この僕を!」
      るも
何故か、流雲まで。
ちゃっかり隣にいる。
な、なぜっ……。
          そうみ               きさらぎ                あすか
  「こんちは!蒼海せんぱい、如樹せんぱい。飛鳥せんぱいにはいつもお世話になってます。」

なんて、茶目っ気たっぷりに自己紹介なんかしてる。
紫南帆も微笑んで、挨拶を交わし――、

  「もー紫南帆ちゃんに会えて感激!こいつなんかねー紫南帆ちゃん紫南帆ちゃんってうるさくてぇー!」

  「尉折!」

そうやって、ばんばん人を叩くぅ。
いたいって。
何が感激だ、まったく。
尉折の言葉を軽く受け流して――、

  「宿舎いっても大丈夫なの、かな?」

  「大丈夫大丈夫。でも野獣、猛獣がたくさんいるから十分注意してね。」

  「え?」

  「もー、飢えてっから。特にDF獣とかぁ。」
   ほせ
……輔世さんたち、聞いてたらおこるぞ。

  「あー、言えてる言えてる。」

流雲までぇ。


そんなこんなで宿舎の前まで来た。
近くの公園で――、
               う き や
  「いいかげんにしとけ羽喜夜。皆、心配してたぞ。」

  「るせーな。兄貴まで、こごとかよ。もううんざり。」

ベンチで腰を下ろしている男とその前に2人の男が立ってる。
丁度、通り道なので、必然的に話し声が聞こえた。

  「あ、あすかせんぱい。この間の……。」

あ、本当だ。
ベンチに座ってる人は、この間流雲と公園に来たときにいた男。
今日は黒と白のジャージを着ている。

  「チームと女と。どっちを良く考えろってんだよ。俺は、まじめにやってんよ。ベスト8だって楽勝だったしよ。」

  「北海道……ですか。」

ジャージの刺繍を読み取って、流雲がいった。
あからさまに、うざったいと顔で表して、ベンチに浅く腰を滑らすように座る。
   みやつ
  「造さん。」

え。
隣から、紊駕が颯爽と長い足を前に運んだ。

  「え、紊駕?」

羽喜夜って人を何も言わず見ていた男の人が、こっちを向いて、駆け寄ってきた。

  「お久しぶりです。いつこっちへ?」

  「いや、ついこの間さ。すげ、久しぶりだな。3年か?」

造さんって人は、顔をほころばせて、言った。
どうやら知り合いらしい。
本当に顔が広いな、紊駕って。
   ひさめ
  「氷雨とか、元気か。会いにいこうと思ってたんだけどさ。まさか、こんなとこでお前と再会するなんて、な。」

造さんは饒舌になる。
さらさらなストレートな髪で、端整な顔立ち。
優しそうな大人びた表情。
紊駕もめずらしく(!?)下手に挨拶を交わす。

  「やー、まいったまいった。……何?知り合い?そういえば、造、神奈川にいたんだっけ。」

羽喜夜って人と話しをしていた男の人もこちらにやって来た。
面長のやはり、大人びた顔つき。
                      くりま      う き あ                                    きさらぎ   みたか
  「ああ。あ、こいつ、大学の友人、栗馬 羽喜朝。羽喜朝、前に話したろ、如樹 紊駕。」

羽喜朝さんって人にうなづいて、造さんは紊駕を紹介する。
紊駕は軽く会釈をした。
そして――、

  「あの、さっきの人って……サッカー部の人ですか?」

  「あ、俺の弟、羽喜夜。そ、北海道のU高。君たちも?」

羽喜朝さんは俺らの頷きを確認して、

  「ほんと、まいったよ。」

弟のことで頭を悩ませている様子を伺わせた。
栗馬 羽喜夜。
北海道代表U高校。
確か、Gブロックでベスト8入りしたチームだ。
レギュラーだろうか……。
                         かいう
  「後で顔出しにいこうと思ってたんだ。海昊とかも、元気なのか?」

そんな羽喜朝さんに、憂う表情を垣間見せて、紊駕に向き直った。
どうやら、造さんは、友達の羽喜朝さんの弟の応援にきたらしい。
海昊ってのは、紊駕の族仲間の名前。
ってことは、この人も族の仲間の一員なのかも。

紊駕はみかねて、先にいってろ、と紫南帆と俺たちを促した。
俺たちは、頭を下げて、宿舎に向かった。


  「紫南帆ちゃーん!ひさしぶり!」
   じゅみ
  「樹緑ちゃん。おめでとう!」
       いぶき
宿舎では、檜が出迎えてくれた。
どうやら他の先輩たちはいないようだ。
一息。
紫南帆はもってきてくれた差し入れを檜に渡して、話しに花を咲かせていた。

っていうか。

  「何で、あそこにいたんだよ!2人とも!」

尉折と流雲に振りかぶる。

  「やっだなーせんぱい。気づかなかったんですかぁ?ずっと後ろつけてたんですよぉ。ね、尉折先輩!」
            きさし
  「鈍感だからぁ。葵矩くん。」

悪かったな!

  「そうそう、2人でどっかいこうなんて甘ーい!」

げ。
俺の心を見透かすように、いつのまにか、先輩たち勢ぞろい。

  「蒼海さんだっけ。こんにちはー!うわさ以上に美人だね。飛鳥にはもったいない!」

  「こんにちはー!」

も、もったいないって……。
だから、誤解なんですけど。
俺たち付き合ってないですから。

先輩たち、さかんに紫南帆に話しかけている。
ごめん、紫南帆。


  「ほらほら!いい加減にしてください。紫南帆ちゃん、困ってるでしょ!あと3試合残ってるんですよ!気合入れて練習、練習!!」

檜の叱責に皆がやっとのことでチラッばった。

  「ごめんね、お邪魔しちゃったね。そろそろ帰るよ。」

  「そんなことないよ、応援しにきてね。」

紫南帆と檜が挨拶を交わして――、

  「飛鳥。」

尉折の目配せ。
――送ってけ。

俺は、ありがとう。と頷いて、外へでた。

  「何か、本当ごめん。」

  「え?何で、皆いい人たちだね。」

屈託のない笑い。
そういってくれると、嬉しいけど。
やっぱ居心地悪かっただろうな。

  「国立まで、あと1つ。」

紫南帆の口元がかわいくゆるんだ。
ロングコートの前から少し覗くヒダのスカートが揺れた。

  「優勝まで――あと、3つ。」

白い手袋の指が3つ立つ。
ヴィーナスのような、満面の笑み。
長く綺麗な黒髪も揺れた。

  「がんばるんだぞ!」

  「おう。」

かわいいガッツポーズに拳をあわせた。
さっきの公園へ入って――、

  「よう、かわいいコ連れてんじゃん。」

突然、数人の男たちが俺たちの目の前に立ちふさいだ。
周りを囲まれる。

  「……。」

  「ねー、俺らと遊ぼうよ。」

俺は後ろ手で紫南帆を後ろに隠した。
その態度に、男たちが一斉に目をむく。

  「あんだよ、兄ちゃん、やんの?」

髪を真っ赤に染めて、耳にいっぱいピアスをつけた男。
ガタイもいい。

やばいな。
こんなところで乱闘なんて……。

  「よー、ムリしないほうがいんじゃね。足震えてんぞ。」

  「な、俺たちとあそぼーよ。」

数人のにやけた男たち。

  「飛鳥ちゃん、逃げよう。」

紫南帆が耳元で呟いた。
こんなところで、乱闘なんてダメだよ。
俺は頭を縦に振って、スキをみて紫南帆の腕をひいて、ダッシュ。

  「こら、てめー待て!」

予想はしていたけど、男たちは追いかけてきた。
つかまるわけにはいかない。
俺は紫南帆と気遣いながら、逃げた。

  「紫南帆、大丈夫?」

  「うん、へーき。」

やばいな、どこか、人気のあるとこ……。

  「逃げられるとでも、思ってんのか?」

  「何人いると思ってんだよ。」

前をふさがれた。
ヤバイ。
人数も増えてる。
俺たちは仕方なく立ち往生。
紫南帆も肩で息をしている。
これ以上、走って逃げるのは無理か。

  「痛っ!」

  「何すんだよ!」

一人の男が紫南帆の腕を思い切り引っ張ったので、思わず、口から出た。

  「何?やんの?」

  「飛鳥ちゃん、ダメ!」

右の拳に力を入れる。
ダメだ。
情けないけど、ケンカする自信なんてない。
でも……。

  「彼女に手、出すな!」

  「飛鳥ちゃん!」

男は侮蔑するような目を向けた。
周りの男も一様ににやけた笑み。

  「へー、なあ、こいつ。痛い目にあわなきゃわかんないみたいだぜ?」

  「へー、どーする?」

嘲笑。
くっそ。
万事休す――……。


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