26
その日の夕方。鎌倉市極楽寺駅前の一軒家。“Umi-海-”。
古民家風、和風構えのオーガニックレストラン。
俺は、GSXで向かった。
氷風に呼び出されたのだ。
駐車場には、氷風のCB400FOUR。
未来空のハーレー。
朔弥先輩のEX-4。
その他数台のバイクが並んでいた。
「お。サマになんなぁ。」
GSXの音を聞きつけて、店の外に出てきた氷風。
俺は舌打ちした。その行為に氷風は笑って、店に入れ。と、顎で示す。
「Happy Birthday!」
第一声は、とさかの甲高い声。次いで
麟大郎、
堅汰。
柊に
廉史朗 が出迎えた。
入口左手にカウンター。奥に小上がりの座敷が見えた。
朔弥先輩がカウンター席からグラスを掲げた。もう、始めてるけどね。と、苦笑。
右手にはテーブル席とその奥にも座敷があるらしい。大勢の気配がした。
顔を出す面々は、B×Bの集会にいったときに見たことのあるメンツばかり。
当然、俺の為に集まったわけじゃない。ついで。だろう。
それに、何人かは剣呑な視線を向けてきた。
「貴方がウワサの
維薪くんね。」
カウンターの中。和装の女性が声をかけてきた。
朔弥と
陽色がお世話になっています。と。
俺が朔弥先輩を見ると、伯母。と、説明された。
血縁だろうことは一目で判っていた。朔弥先輩に雰囲気が似ていたからだ。
頭を下げる。カウンターに席を設けてくれた。何でも作るわよ。と。
周りを見回すと、肉、魚。和食に中華。色々な料理が並べられてた。
皆美味しそうに頬張っている。
「おばさんの料理、何でも美味いっスよ。維薪くん。」
おばさん、じゃなく、
夕摘さん。と、訂正されたとさかをみて朔弥先輩が笑う。
おすすめはやっぱり、海の幸かな。と、穏やかに教えてくれた。
B×Bのたまり場。にしては、豪華で大人な空間だ。
どこぞの料亭のような隠れ家的雰囲気がある。
「夕摘さん、あおぞら園のお弁当とかも作ってくれるんだよ。」
麟大郎が言った。成程。SDSつながりでもあるのかもしれない。直感。
それにしても。と、氷風を見る。その様子に、未来空が動いた。
「ちょっと注目。総長から皆に話がある。」
奥の座敷からも見聞きできる、中央の位置に未来空が立った。
入口右手。手前の壁側。
カラオケ設備。だろう。そのひな壇の上に慣れた様子で氷風が飛び乗った。
氷風は、皆を見回して、まず六本木事件を労った。そして、俺を見る。
「平塚連合は、今後B×Bの傘下に下る。」
平塚連合のトップ―――柊の兄、
仗。とNO.2は引退する。と、告げた。
20人弱の平塚連合の吸収。6番隊を創設し、そこに組み込む。ようだ。
そして、その6番隊を率いるのは。と、氷風は一呼吸。また俺を見た。
「維薪にやってもらいたい。と、俺は思っている。」
予想的中。全員が俺を見た。何サプライズだこれは。
俺は氷風を睨んだ。
とさかが指笛を鳴らし、柊たちは既に了承済みの様な顔。
六本木事件の時、仗が俺に言った言葉がフラッシュバックした。
―――柊のこと、頼むわ。
つーか。勝手すぎんだろ。
俺が何も言わないでいると、奥から声があがった。
「何で
関壱會を傘下にしなかったんスか。」
何で平塚連合を
殺らなかったんスか。その男は堅汰と朔弥先輩に視線をやる。
誰かが、おい。と、牽制した。
あきらかに二分したオーラ。伝わってきた。
その男を支持する奴ら。俺に厳しい目線を送っていた奴らだ。
「堅汰と朔弥の話はあの時言ったはずだ。その結果の一つが平塚連合の吸収。関壱會に関しては、東京が地場の
東華に任せた。」
何が不満だ。氷風は尋ねた。口火を切った男の隣の男が立った。
「お前のようなカリスマがいて、賛同する仲間がいて、名を売って、そしたら金が入る。……皆、もうガキじゃねんだ。バイクサークルよりっ……!!」
その男が突然ふっとんだ。
夢到。と、未来空が男の振り上げた腕を掴んだ。
夢到。と、呼ばれたおそらく氷風より年上のその男は、悲しそうな瞳をした。
自分が殴った男を憂う目で見下ろす。
「B×Bは俺の居場所だ。いつだって、いつでも。心の拠り所。戻ってこれる、場所。……兄貴の……想い。」
どんな背景があるのか分らない。
が、B×Bを金儲けに利用するな。と、いうことだろう。
巳嵜的思想―――族から組織へ。
バイクサークル。ね。
確かに氷風は、バイクが好きだから仲間とつるんでるって感じだ。
そもそもB×Bはいわゆる暴走族とは毛色が違う。と、思っていた。
「俺は、ヤっさんに賛成です。
天下統一を目指したいっス。」
初めに口を開いた男。夢到を睨みつけて、ふてくされたように言う。
今度は、夢到の隣にいた男が、
旺亮!と声を荒げて、そいつの胸座を掴んだ。
「ヨシ、やめろ。……それは、2番隊総意か。」
氷風が胸座を掴んだ男を止めて、奥座敷のメンツを見渡した。
奥座敷の2つあるテーブル。その手前。下向く者、目線を反らす者。
2番隊のメンバーだろう。その中でも不遜なのは、旺亮と呼ばれた男だ。
ドヤンキーの身なり。腕っぷしに自信がある。と、顔に書いてある。
近くで溜息がして、俺はそちらを向いた。
カウンター席の奥の小上がり。
比較的若いメンツ。の中に同じ顔の2人。
「Early-Hの人たちは、まぁ、わからないでもないけどな。」
「Middle-Hの人たちと俺らLate-Hは、ありえないけどな。」
同じ声。俺に笑いかけて自己紹介してくれた。
得道 昂大に
悠大。一卵性の双子。
見分け方は、髪の毛の分け方。右分けが昂大、左分けが悠大だ。と。わかるかっ。
同じテーブルにいた、やはり似ている男2人。
こちらは年の差が見れた。兄弟だろう。
至熊 庵。
湧。と、挨拶してくれた。その隣の男は、
喇上 史。
皆で代わる代わる詳細を説明しだした。
別に、訊いてねぇし。まぁ、食事の間だけ聞いてやるわ。
俺は、夕摘さんが出してくれた美味い食事を摂りながら耳を傾けた。
B×Bの構成―――氷風を
3代目総長に副総長、未来空。
その下に1番隊から5番隊。それぞれの隊に約20名。計100人Over。
1番隊隊長の夢到。副隊長の
義也。2番隊隊長、
泰則。副隊長、旺亮。
1、2番隊はEarly-H―――平成の前半生まれ。の世代。30歳くらいらしい。
3番隊4番隊の隊長は、庵と史。氷風と同期のMiddle-H―――27歳。
それぞれの副隊長が湧と昂大。Late-Hの22歳。だそうだ。
5番隊隊長は、最年少の朔弥先輩。副隊長は悠大。
5番隊だけが隊長と副総長の年齢が逆だ。
だが、悠大は全く気にする素振りなく、むしろ朔弥先輩を尊敬している風だ。
「ヤっさんは、2代目の弟なんだ。」
庵が言った。ふーん。と、あいづち。相変わらずヒリついた空気の奥座敷。
2代目総長、
泰盛は、こいつら曰く暴力的。
そして、どうやら1番隊隊長、夢到の兄―――初代、2代目副総長、
歩夢。
は、泰盛といざこざがあり、死亡したらしい。
氷風が3代目総長になったのは、泰盛を伸したから。の様だ。
つまり、平和的継承ではなかった。らしい。
しかし、1番隊を始め、3番隊以下。の連中は氷風を慕っている。と、庵は言った。
「それに、俺ら―――3番隊以下の隊長、副隊長は親世代が
源流だから。」
「ああ。H3抗争。あれは、引き継いでいかなきゃダメだ。」
H3―――1991年。俺は、今朝見た墓石を思い出した。
青紫さんが亡くなった抗争の事だ。当然こいつらも生まれていない。
親世代―――庵と湧、史は、
BLUES。昂大、悠大、そして朔弥先輩は
BAD。
それぞれのルーツ。継いだ想い。もちろん、初代BAD総長の息子、氷風も。
ぽん。と、肩を叩かれた。維薪もな。と、朔弥先輩。
どうやら俺が、青紫さんの件を知り得たのを知っているらしい。
庵たちもうなづいた。
親父から氷風か。もしかしたら、今日の事も……。
「でも入隊はもちろん維薪の意志だからね。急がなくていいよ。」
朔弥先輩が微笑んだ。庵や柊たちも笑顔で一様に賛同した。
とさかと麟大郎は、絶対入って。と、強い口調で誘う。
それより今はあっちだろ。と、俺はアゴをしゃくった。
1番隊と2番隊。一触即発ムード。
「B×Bの根本は、変わらないし、揺るがない。単車が好きで、走るのが好きだ。仲間が大事だ。夢到がいう、居場所。元関壱會のようには、絶対しない。させない。」
氷風ははっきりと断言した。夢到が大きくうなづいて言った。
総長の方針に従えないなら
脱退したらどうか。と。
氷風はその意見に承諾はしなかった。
考え直してほしい。2番隊に残ってほしい。と、口にした。
2番隊の中でもざわついていた。
旺亮は相変わらず不遜な態度で、わかりました。と、言った。
隊長の泰則に合図。泰則は、どこかおずおずとした態度でスマホを操作した。
「……ヤス。旺亮の言いなりか?お前、氷風が泰盛を
殺らなきゃどうなってたかわかってんだろ?兄貴を……殺した、泰盛。弟のお前だって……兄貴が、B×Bの抗争に持ち込まないように、身体張って止めたのに。また同じコトすんのか!!」
夢到の悲痛な言い方に、泰則は、ごめん。でも、もう無理なんだ。と諦観。
どうやら仲間を呼んだらしかった。旺亮はほくそ笑んだ。
これは、ヤバい状況だな。
まぁ、俺の檀上じゃねぇし、無闇には動けねぇ。静観。とりあえず。
その時、ドアチャイムが激しく鳴った。
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あとがき
いよいよ最終章山場です!
維薪のかっこいい戦闘シーンあり(ネタばれやん)!
新キャラぞくぞく。乞うご期待!
やっぱ族の話。楽しひ。原点回帰ww。
2022.3.9 湘