Over The Top
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「いっちゃん!どうしたの、その顔!!」

次の日。学校でのアホそらの第一声。想定内。
うるせぇ。と、一蹴して席に着く。
とさかが説明しようとして、黙れ。と、抑制。当然黙らない。
ボケてんが、族のケンカ。と、後ろの席からしれっと的を射る。
机に頬杖をつくボケ天。オッド・アイがメガネの上からのぞいた。

 「ちょっと待って待って、先生にバレちゃうよ!」

アホ空があからさまに大慌てする。余計なお世話だっつーの。
大丈夫。と、教室の後ろのドアからいつもの含みのある言葉が聞こえた。
クソ龍月たつきだ。
ここは、共学か。と、思うほど騒がしくなる教室。
憧憬の表情で口々に、如樹きさらぎ先輩だ。かっこいい。等の声。
クソ龍月は、その全てに応えるべく、笑顔を振りまいた後。

 「部活中のケガ。申請しといたから。」

俺が睨みつけると、真剣な顔で、そのくらいさせろよ。
と、言って、次の瞬間口角を上げた。人を嘲るときの態度だ。

 「いくらテストでオール満点とれるっつっても、受けさせてもらえなかったら、意味、ないでしょう。」

ちっ。抜け目のない奴。
アホ空が胸を撫でおろして、たっちゃんありがとう。と、笑顔。
とさかがさっすが、龍月くん!と、叫んだ。
ま、実際ケンカがバレれば、停学か退学もあり得た。
ムカつくが、救われた。

 「おつかれさん。さしずめ令和維新・・・・ってトコだね。」

クソ龍月が、誕生日おめでとう。と、付け加え、昨日のことをそう表現した。
何だソレ。年号変わんのかよ。
とさかが何スかそれ。と、尋ねて、明治維新的なものかな。と、アホ空。
さらに何それ。と、とさか。アホ空が親切丁寧に明治維新を説明。アホくさ。

 「武器。使わなかったのは、本当に聡い聡い。」

クソ龍月は俺の髪をかきまわす。当然払う。
そこら辺にたくさん鉄パイプあったのにね。と、クソ龍月は笑った。
クソが。やっぱりだ。

 「必要ねぇし。てめぇ・・・もな。」

クソ龍月は、現場にいた。または、リアルタイムで知り得ていた。
だから、あのTeddyテディのTELのタイミング。万が一、俺が泰盛たいせいれなかった時。
自分が戦うつもりだったのだ。相変わらず食えねぇ奴だ。やっぱムカつくわ。

昨夜、細雨ささめさんは礼と謝罪を俺らに言って、話してくれた。
やはり、泰盛は殺意の為に歩夢あゆむを殺した訳じゃなかった。
B×B初代総長の細雨さんが、泰盛に託した2代目。
副総長の歩夢は、初代副総長でもあった。
氷風ひかぜが3代目を継ぐことになった年。
泰盛は昨日のように止まれなくなった。
その件の詳細は知らないが、歩夢と氷風が泰盛を止めたらしい。

ただ、その夜。
頭をひどく殴られていたのだろう。歩夢は帰宅後、自宅で息を引き取った。
次の日の朝、夢到むいが発見した。そして、泰盛は傷害致死で捕まった。
氷風は、当時俺と同じ中1。泰盛を止めた立役者として、3代目を継いだ。

細雨さんは、あんな形で引継ぎをさせて申し訳なかったと言っていた。
泰盛は悪い奴じゃない。と、細雨さんは言った。
だが、衝動を止められない。
箍が外れてしまうと、自分でもコントロールができなくなるのだ。
当然知っていて、細雨さんは2代目を泰盛に任せた。
抑止力に歩夢を傍に。副総長を継続してもらったようだ。

細雨さんは、その采配と自分が止められなかった事を猛省していた。
しかし、当時、細雨さんは空自、ブルーインパルス乗り。
宮城県松島で勤務していた。激務の上、遠方。
誰も細雨さんを責めることなどできないし、するハズもない。

 「強すぎるっていうのは、意外と厄介なんだろうな。」

クソ龍月は、全てを察して言った。止めてくれる奴が、止めれる奴が、いない。と。
細雨さんは、昨夜こうも言っていた。
自分も初めて箍が外れて父親を殺しそうになったことがある。と。
オヤジが、青紫せいむさんの敵を殺す寸前まで殴ったのと同じ。
でも、オヤジには、海昊かいうさんが、細雨さんには氷雨ひさめさんが、居た。

 「俺らには、たくさんの止めてくれる仲間がいる。皆、強いからね。」

おどけた龍月。

 「てめぇが闇落ちするときは、俺が殺して止めてやるわ。」

手刀で首を切るマネをしてやると、龍月は、怖っ!と、大げさに口にした。
ちっ。んなコトねぇだろうがな。100パー。
てめぇは、そんな次元じゃねぇ。悔しいからゆってやんねぇけど。

 「うん、大丈夫。僕たちは最強のトリオ。そして最強の幼馴染だもん。」

総合格闘技部の皆も。ね。と、アホ空は、どこか大人びた顔で笑った。
とさかが、そうだな!と、本当に理解してるかわかんねぇが賛同。
ボケ天はいつものごとく窓の外。青空を見上げていた。

 「よし。じゃ、2分で。」

完全復活。
いよいよ俺は、狼先輩との戦いに臨む。
この日までに、可能な限りシラットの技を朔弥さくや先輩に教えてもらった。
孤高の黒狼。まさに狼先輩の出で立ちはそうだ。
収斂された闘気。領域に踏み込めない圧迫感オーラ。泰盛とは真逆の柔。

これまでの学内試合では、無敗。
そのどの戦いも、汗一つかかないクールでスマートな勝利。
同じ土俵ではおそらく勝てない。
だから、プリン先輩と戦い、試したケリ。
朔弥先輩に教わり、泰盛で実践した肘。フル活用。

長身のボケ天さえ、狼先輩は長い手足を駆使して投げた。
リーチ10センチ程の差とはいえ、スピードを仮に凌駕したとしてもリスクだ。

ゆらり。狼先輩が動いた。アドバンテージ、とられるわけにはいかねぇ。即反応。
勝利への道筋は、ほぼ見えていた。あとは、身体で再現。
長い右手が伸びてきた。
オモプラッタ―――ブラジリアン柔術などで使われる関節技。
左外受けで流して、狼先輩の右側面と取る。
右、鳩尾パンチ。腰の回転を使ってフックのように振り抜く。左肘打ち。

狼先輩の右頬を裂いた。狼先輩が顔をゆがめてキョリを取る。
させねぇ!俺は、瞬時にバックブローの回転肘。
上に意識を集中させ、すかさず下段。インロー蹴り。手加減なし。
狼先輩は、俺の下段に対する反応が早かった。
重心をわずかに後ろにずらした為、威力は小さくなったハズだ。

やはり、対応、反応速度ハンパねぇ。
申し分ねぇ。絶対ぇ勝ってやる。
引かない。つかませない。狼先輩のパンチ、ケリは受けれる強度だ。

 「まじか、この短期間でシラット習得かよ。」

どういう運動神経とセンスだよ。と、狼先輩は頬を拭った。
血のついた手。口に含んで、俺を睨んだ。
ギアが一段階上がった。望む所だぜ。
速っ。空気が動いたと思ったのは一瞬。目の前に狼先輩の顔。
踵を軸に、まるでダンスでも踊るかの如く、俺の背後を取る。
脚が来る。と、思った時には既に遅かった。
奇しくも俺が泰盛を落とした後ろ三角締め。しかもスタンディングからの。
長い脚が首に巻き付いて、俺は畳に尻をつかされた。

 「お前が虎視眈々と俺を狙ってる間。俺だって遊んでたわけじゃない。」

まぁ、そうっスよね。
徐々に締まる首。こっから時間との勝負。
龍月がストップウォッチを見て、口を開く。30秒。
このまま落とすつもりだろう。が、諦めねぇよ。
俺は、渾身、きめられている腕をまげた。
狼先輩の曲がっている右足膝を外側に押す。
帯。はしてねぇが、腰周辺の服を束で掴んだ。
身体を前に押す。膝を立てる。

 「おっ、え?」

狼先輩の吃驚。狼先輩の腰が浮いた。
よしっ、抜ける!逃げと同時に重いパンチをお見舞いしてやる。
そして顔に肘。と、思ったが、さすがに歯が折れたら可哀想なので、下段蹴り。
今度はまともに入った。

 「痛っ……待てっ!!ギブだわ。折れる!」

続けて攻撃をしようとした俺を、狼先輩と、龍月のタイム・アップの声が止めた。
よっしゃ!!勝利!!
例の如く、アホ空ととさかが大声をあげて、すごい、かっこいいの連呼。
龍月もおぉっ。と、感嘆の声。坊主先輩も賞賛。
ボケ天は無関心。プリン先輩は悔しそうに舌打ちした。
その隣でウエーブ先輩は閉口。
朔弥先輩は、やっぱり教えがいがあった。と、笑った。

狼先輩に手を差し出す。はたかれた。
でも、リベンジしてやる。と、見せたことのない闘争心を露わにした。
額に少し、汗もかいているようだ。
俺は、待ってます。と、言ってやる。当然舌打ちされた。
そして、俺は耳打ち。

 「維薪いしんのシラット、いいね。技の組み立て、へいちゃん対応完璧じゃん。」

龍月が批評している間。狼先輩とアイコンタクト。
平ちゃんの敗因の一つは、実戦経験かな。と、余裕で天井を見上げた龍月に奇襲。
当然寸でで避けられる。が。

 「えっ、ちょ……何?」

狼先輩が背後から後ろ三角締め。本日リベンジ。俺は、下段。
それでも避けようとする龍月はさすがだ。
本気なら容易にかわされ、それどころかイニシアティブさえもっていくだろう。

 「いつの間に仲良くなったんだよ。いや、本気の殺気が混ざってて怖っ!」

締められながら龍月。狼先輩は、貸しですよ。と、口にする。
当然。龍月は、借りた覚えはないんだけどな。と、苦笑。
俺がツケた、モールの借り。狼先輩は楽しそうに脚を締めた。

 「お、何か楽しそう。」

プリン先輩も加勢して、龍月を蹴ろうとする。
龍月は、恨みでもあるのかよ。と、眉をひそめて聞いた。
ありますよ。と、プリン先輩に即答され、大げさに嘆く。
坊主先輩がやめなさい。と、大真面目に止める。
朔弥先輩が大丈夫ですよ。と、笑った。
皆、本気じゃないですから。と。そう、ただのジャレあい。
お互いの強さを知り、認め合っているからできる、リンチ。草。

 「相変わらず騒々しいな、総合格闘技部。」

しゅうの兄、嵩原 諒たかはら りょう、生徒会長は爽やかな笑みで声をかけた。
俺に向かって、弟が世話になってる。と、礼をいう。一笑に付した。
あれから本当に毎週迎えに来る、氷風。
B×Bのメンツは、ほぼ全員覚えた。
B×Bには何のしこりも残ってないように観えた。

あきらはどうやら執行猶予がついたらしい。
が、今回の件で量刑に影響がある―――させる。かもしれない。
と、オヤジは曖昧にいっていた。
B×B令和維新・・・・は、ひとまず決着を観た。



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あとがき

暫くひっきーだった僕は、久しぶりに夜の江の島へ走りにいってきました!
さすがに空いてる。R134。飛ばし放題ww(スピード違反はダメです。)
波の音。やはり、よいですな。夜。よいですな。
維薪たちもここへきたのか。と、妄想しつつ……。

次回、最終話!ぜひぜひお楽しみに!


2022.5.6湘