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  「何を根拠にそいことゆーかなぁ。」
 るも
 流雲がBIG WAVEは絶対に来る。と、断言した言葉に、呆れてクロス。
 今日も穏やかな波が、流雲たちのサーフボードの下を通り過ぎる。
 限りなく、青い空の下。
 今日も5人、海に身を任せている。

  「こんきょ?そんなのないってぇ。」

 俺が来るといったら、来るのさ。と、自分が根拠だと言わんばかりの流雲にクロスたちは溜息。
   や し き
  「夜司輝はどう思うわけ?」

  「ん……周期はあるかもしれないけど、確実じゃない。」

 でも。と、言葉をきって――、

  「流雲の根拠にかけてみたいな。」

 軽く笑った夜司輝。

  「来るって願ってるってこと?そりゃ、俺らだって一緒だけどさぁー。……ってアレ。流雲は??」

 竦が辺りを見回す。
 さっきまで、一緒に波に揺られていた流雲の姿がない。

  「はぁ――っ。」

 クロスが大きな溜息をついた。
 3人がクロスの視線を追う。

  「おねぇさん!なまえなんてゆーの?」

  「流雲!!」

 いつの間にか、浜辺で女の子と戯れている流雲。
 4人が呆れ顔で近づく。
 女の子たちもまんざらではなく、流雲のことをかわいー、などといいながら、笑顔。
 女の子たちが姿を消して――、

  「ったく、流雲はぁ。何やってんだよ。」

 クロスの声に、何が?と飄々とした顔つきの流雲。
                           ・  ・  ・  ・  ・
  「流雲ってさぁ。何か愛嬌あってつーか。女の子うけいいよね。」

 隼弓が半ばうらやましそうに、呟いて、

  「そうそ、いっつも勝手やってるくせに。先輩とかからもかわいがられてんしよぉ。」

 竦も倣った。

  「いっやぁ、そんなにホメてもらっちゃ困るなぁ。」

 ……3人が、ものずごい呆れ顔をしたのは、言うまでもない。

  「あれ、夜司輝どーしたの。」

 今まで沈黙を守っていた夜司輝。
 何でもない。と、いって視線をずらした。

  「例のコですねぇ。」

 にぃーっこり。不気味な笑いを見せた流雲は、夜司輝の耳元でささやいた。
 夜司輝が見ていた視線。

 ワンレンの肩までのボブヘア。
 あの時、泣いていた女の子だった。
 最近、この浜辺で良く見かける。
 センチメンタル風を漂わせ、いつも独りで海を見ていた。

  「今度こそ、名前きいてこよー!」

  「え。あ、流雲!!」

 言葉を言い終えるかいい終えないかのタイミングで、流雲は駆け出した。
 浜辺に足跡が残る。
 その後を慌てて、夜司輝が追った。

  「おねぇーさん!」

 女の子が振り返るのを見かねて――、

  「いつも海、見てますよね。好きなんですか?」

 不意をつかれたような顔を見せたが、優しく大人っぽい笑みではにかんだ。

  「うん。あなたたちもでしょ。」

  「はい。大好きですよぉ〜!愛してます!」

 流雲のキャラクターに親しみを覚えたのか、女の子はさらに笑顔を作った。

  「なまえ、なんてゆーんですかぁ?僕は、流れる雲ってかいて、流雲ってゆーんです。」
   ま あ ほ      ゆはず   ま あ ほ
  「茉亜歩。由蓮 茉亜歩。」

 流雲は満足そうに笑った。
                        ほしな    や し き
  「あ、こいつ。夜司輝ってゆいます。星等 夜司輝。」

 あわてて追いかけてきた夜司輝の肩を叩く。
 夜司輝は、頬を赤く染めて、どうも。と、小声で挨拶をした。

  「よろしく。」

 茉亜歩は、笑顔を崩さず夜司輝と挨拶を交わした。
 そんな様子を、流雲は微笑んで見て――、

  「茉亜歩さん。こーこーせーですよね。S高の。」

 制服で判断して尋ねた流雲に、茉亜歩は、S高校の2年だと頷いた。

  「流雲くんたちは?」

  「K中の3年です。」

  「じゃ、家も腰越?」

 茉亜歩は、海を背に右手を見る。

  「私は、藤沢市なんだけど、鎌倉市との境だから。近いね。」

  「へぇーそうなんですか。」

 終始、流雲が話しを盛り上げて、茉亜歩の笑顔が絶えることはなかった。
 そして、茉亜歩が家路へ戻る様を見届けて――、

  「や・し・きくん。ホレたね?」

  「えっ?」

 唐突な言葉に、夜司輝の顔が真っ赤になった。
 流雲の得意げな表情。

  「ったく。お前らぁ、ナンパしてんなよ。」

 3人が駆け寄って来たので、なおさら夜司輝の顔に赤みが増した。
 耳まで赤い。

  「きーてきーて!!夜司輝がねぇー!!」

 瞬間。

  「うぐっ。」

 流雲の唸り声。
 夜司輝が流雲の口をおもいきりふさいだのだ。

  「そんなんじゃないんだからな。わかった?」

  「ぐう。」

 口をふさがれたまま、夜司輝の顔を見て、声にならない声をだして頭を縦に振った。
 それを見て、夜司輝は、ごめん。と、手を離した。

  「ぷはーっ。死ぬかと思った。ねー!!みんなぁー!!」

  「流雲!!!」

 流雲は、夜司輝の隙をついて――、

  「夜司輝が、今のコにホレたんだってぇー!!」

 油断も隙もないやつである……。

 
  「へぇー。」

 3人はじぃーっと夜司輝を見つめた。
 マスターの店。

  「そんなんじゃないの。本当にっ。」

 顔の前で大きく手を振る夜司輝。
 まだ頬は赤い。

  「ほぉ。夜司輝がねぇ。」

 マスターはほほえましい。と、優しい笑みをした。

  「でも、年上だろ?」

  「高2っしょ?」

  「別に年なんか、いんじゃね?」

 竦に隼弓にクロス。
 3人の言葉に、本当にそうゆんじゃないんだから。と、静かにストローでオレンジジュースを吸った。

  「なぁに。恋をするのは、悪いことじゃないんだぞ。夜司輝。」

 頭を叩かれて、口をすぼます夜司輝。
 自分でもわからないが、気になる。
 あの少女が、気になってしまう。

  「この店、客いないよねぇ〜。」

 流雲が、店内を見回した。
 流雲たちの他の客はいない。

  「それをいうなよぉ〜夏休みに入ったら賑わうんだ。」

 マスターはうなだれてから、語尾を強めた。
 あともう少しで夏休みである。
 
  「そっかぁ〜夏休みだぁ。」

 流雲はイスの背もたれによりかかって、のけぞった。
 満面の笑み。

  「でもさ、その前に期末テストだよ。」

  「げぇ。そいことゆーなよ。隼弓のアホー。忘れてたのにぃ〜!」

  「ばか。忘れてどーすんだ。」

 流雲を叩く竦。
 この学期末テストの結果が、高校を決める指標になる。
 受験生。
 そろそろその重みが肩にのしかかってくる時期でもあるのだ。

  「あ。やばい!塾!!」

  「マジ?マスターごっそさん!」

 夜司輝が腕時計を見て、声を上げた。
 その声に皆もあわただしく立って、店を後にした――……。


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