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                                           ふかざ   るも
  <Hello,Everybody!!楽しい楽しいお昼の時間。エンターテイナー吹風 流雲で〜す!!>

 昼食の時間。
 放送委員の流雲の陽気な声が、スピーカーから流れ出る。

  <皆さん、今日のこの日を待ち望んでいてくれたことでしょう!今日も元気いっぱいでいきましょう!HERE WE GO!!>

 週に2回、流雲の順番が回ってくる。
 緊張する様子はさらさらなく、達者に動く口。

  <明日から、期末テストが始まります!もー、僕どーしようって感じ。でも、そーゆー皆さん!めげちゃいけません。愛があれば何だって乗り切れます!!>

 スピーカーからの声に、クロスが、なんだそりゃ。と眉をひそめた。
 夜司輝たちも、一様に呆れた顔。

  <実は僕。志望校受かんないってゆわれてるんです!>

 泣くマネをして――、

  <でも、志望校には、僕の愛しの人がいるんで、絶対合格します!>

  「放送でゆーかフツー……。」
                      すくむ
 灰色の四角い物体を仰ぎ睨んで、竦。
   つばき
  「椿がいたら、ショックだろうな。」

  <皆さんも色んなこと頑張ってくださいね!好きなことがあるって、人間強いですから!!>

 何だか、フリートークである。
 これでなかなか学校ウケが良く、人気者の流雲。

  <そうそう、ここで一つ。ニュースです!>

  「何でもありだね……」

 隼弓もお弁当片手に、カラ笑い。

  <来る8月10日、片瀬江ノ島西海岸にて、僕のジュニアユースサーフィン大会優勝打ち上げやるから、皆来てくれ!!よろしく〜!ほんじゃ、曲いっきま〜す!>

 4人全員が一斉に大きな溜息をついた。

  「おーい流雲!マジで優勝できなかったら、どーすんだよ!!」

 教室に戻ってきた流雲に、机に肩肘をついてクロス。

  「えー?んなコト、天と地がひっくりかえってもないってぇ。」

 にっこり笑顔。
 相変わらずの自信である。
 クロスは、あっそ。とだけいって軽く受け流す。
 隼弓は、本当に余裕なんだねぇ。と感心。

 そして――、

  「うわーい!終わったぁ――!!」

 甲高いチャイムとともに、大きく伸びをして席を立ったのは、流雲。
 教師の叱責もよそに、頭の中は夏休み。
 期末試験、全日程終了。
 結果はどうあれ、あとは夏休みを待つばかりである。

  「んー!気持ちいい、最高!」

 放課後、5人はいつものように波乗りを楽しむ。
 暑い日差し。
 大きく、真っ白な雲がゆっくりと移動している。

 片瀬江ノ島西海岸。
 紺碧の空に、紺青の海。
 純白の雲に、素白の波。
 
  「なーんか。こんな穏やかな波じゃ大会心配だわな。」

 腹の下を揺る緩やかな波が通る。
 
  「ほーんと。高い波、ほしいよね。ちょっと怖い気もするけどさ。」

 隼弓はかわいく笑って――、

  「ほら、映画であったじゃん。でっかい波!パトリック・スウェイジとキアヌ・リーブス。あの。チューブすごかったよなぁ。」

 ハート・ブルー。
 1991年、K・ビゲロー監督、指導者ジェームズ・キャメロン作の映画。
 チューブとは、勢い余った波が前方に崩れ、そこにできる空洞のことだ。

  「オーストラリアの伝説のBIG WAVEだよな。」

  「そうそう。BIG WAVEっていやー、稲村ジェーン!」

 稲村ジェーン。
 ミュージシャン、Southern All Stars、桑田圭祐作の映画。
 若者たちに大好評で、上映延長された作品である。
 稲村ガ崎や江ノ島。
 逗子マリーナなどを撮影地としていて、地元の流雲たちには馴染み深い。

  「でも。やっぱBIG WAVEは伝説だよなぁ。」

  「マスター見たってゆってたじゃん。」

  「たまたまだろ。20年に一度なんてありえないって。」

 クロスは長い黒髪をかきあげた。
 太陽がボードに当たり、輝く。

  「来るって、絶対!」

 満悦の笑みを漏らす流雲に、これだよ。と、呆れ顔。

  「せめて、オフショアの風だったらいんだけどね。」

 優しく笑って夜司輝。
 オフショアの風とは、陸から海に向かって吹く風のことで、それによって立った波は、簡単には崩れずに先端が白く飛ばされる。
 サーファーには絶好の風だ。

  「チューブ入ってみたいなぁ。」

 流雲は青空を振り仰ぐ。
 すばやく方向転換して沖にでた。
 そして、パドリング。

 波の崩れないところまで出て、ボードの上に座る。
 沖を向き、いい波を待った。
 自分の波を決め、サーフボードに腹ばいになり、もう一度パドリング。
 ゆっくり、流雲の体が波に持ち上げられる。

 一番高くなったところで、流雲は膝をつき、両腕でバランスをとりながら、立ち上がった。
 テイク・オフ。
 流雲のサーフボードが水の青の壁をいっきに下り始めた。
 白く、綺麗な航跡が一直線に伸びる。
 流雲は波の斜面を下りきったところで、右手を海面につくようにして、ターン。

  「おーお。でっけぇスプレー飛ばしやがって。」

 スプレーとは、波上でターンをする時に飛ぶ水飛沫のことである。
 あとは、そのまま波に体を委ね、ボードに乗っていればいい。
 楽々海岸へ向かって、流雲はすべっていった。

  「でもさぁ。俺、流雲のライディング好きなんだよねぇー。」

 流雲意外は、まだ沖で揺られている4人。
 隼弓は口を開く。

  「何か、海が好きだぁー!って感じ?流雲らしくてさ。」

  「俺も、好きだよ。でも、悔しーからゆってやんない。」

 クロスの言葉に、竦も同意して言う。

  「あいつなら、マジで優勝できっかもな。」

 何だかんだ言っても、流雲のサーフィンテクニックには、一目置いているのだ。

  「おーい!かわいいこいるぞー!早くこいよー!!」

 浜で、大きく両手を振る流雲。
 4人は苦笑して――、

  「ばーか!ナンパばっかしてんじゃねー!!」

 皆、テイク・オフをして流雲を追いかけ、波を駆け下った――……。


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