

6 「……造。」 夏休みに入る少し前。 姉貴の男友達―――族仲間。と思われる男が家に来た。 族には見えないフツーの高校生。 「あいつら、荒れてんぞ。」 お邪魔します。と、いって男は家にあがり、姉貴はリビングに通した。 俺にもアゴを下げた。姉貴の視線で俺は自室に入る。 白紫さんも来ていた。 「紊駕……大丈夫?斗尋たちに何かされたり、してない?」 心底心配そうな白紫さんの声。 リビングっつっても、俺の部屋のすぐ隣。嫌でも内容は耳に入ってきた。 三人とも神妙な雰囲気。 「今んとこ大丈夫。ま、仮に何かあったとしても紊駕なら、問題ないけど……」 また、“紊駕”の話だ。 「それでなくともあいつらヤキモチ焼きなんだからさ、紊駕に矛先が行くことなんて、わかってたろ?2人して……全く。」 ごめん。と、姉貴と白紫さんが同時に謝る。 造って男は、俺に謝られても困るけどさ。と、言った後、紊駕は言い訳は絶対しない。むしろ自身を悪者にしてでもお前らを守るよ。と、溜息と共に吐いた。 どうやら姉貴たちが、“また”なのか、“こないだの続き”なのか、彼氏とケンカをしていて、紊駕が間に入った。で、誤解を受けたっつー感じらしい。 男女の関係。俺には、んなの興味ねーし、どうでもいい。 「斗尋も氷雨も大人げない奴ら……。だけど。それほどお前らのこと好きってことなんだから。あんま、族内にもめ事おこさないでくれよ。」 早く仲直りしてくれ。と、造は言ってすぐに出て行った。 「……私、紊駕のこと好きになろうとしてた。でも……振られちゃった。」 「あさざ……。」 自分のことを彼氏より解ってくれる。と、姉貴は言った。 「あいつ。自分に本気じゃない女しか相手にしない。だから、ほらあの時……本気で怒ってた。」 白紫さんは、うん。と、言った。 何の事か当然俺には判らないが、紊駕って奴の性格。周りからの評価。は伝わってきた。 ケンカが強い。冷たいが本当は優しい。誤解されても他人を守る。 青紫が憧れる、男。 最近、金曜には夜家を抜け出して湘南海岸へ行っていた。 運が良ければ紊駕に会えるかもしれない。と。 俺はどうでもよかったが、青紫に付き合っていた。 「たきぎ!」 「おう。今行く。」 夏休み。青紫と出かけた。姉貴たちもその後、どうやら仲直りしたらしい。 笑顔で原宿に出かけるっつった姉貴の顔から察するに。だが。 家をでて134号線を渡る。 すぐに片瀬西海岸が広がっている。左方には江ノ島。 泳ぐわけではなく、浜辺をプラプラする。 海風と太陽が気持ちいい。 浜辺は人がたくさんいる。カップル、家族連れ、うっせーガキとか。でも、皆笑顔だ。 「あー!!」 うしろしろからデカい声。 薪じゃん。と、言われて振り返る。 滄 時雨と浅我 萌。だ。 思わず舌打ち。 「呼び捨てすんじゃねー、時雨!んでこんなトコにいんだよ。」 ったくついてねー。うるせぇ女に出くわすなんて。 「居ちゃ悪いかよ。てめーだって呼び捨てすんな。」 相変わらず減らず口で俺につっかかってくる。 「あー、悪いね。どっかいけよ。」 「はぁ?てめーこそどっかいけ。」 あーいえばこういう。だいたいいつもそうだ。 青紫が俺をとめて、浅我が時雨をとめる。 「あー、のど、かわいた。」 時雨がいきなりそういって、何か買って。と、自販機をアゴで指し示した。 俺がふざけんな。と、吐き捨てる。 わかったわかった。と、青紫は言って、薪も何か要る?と聞く。 時雨が、青紫やっさしー。と、図に乗った。 「青紫。」 「いいよ、いいよ。浅我さんは?」 浅我は顔の前で両手を振っていいよ。と、いらないと示す。 これがフツーの反応だろ。 時雨はいいよ。買ってもらいなよ。などといっている。 どこまでずうずうしい女なんだよ。こいつ。 「てめー、遠慮って言葉。しらねーのかよ。」 「え、何それ。初めてきいたー。」 時雨は自分でそう答えて腹を抱えて笑う。こいつ……。 頭悪ぃんじゃねー。と悪態つくと、あんたにいわれたくないし、チビ。と返してきやがった。 「てめ。いい加減にしろよ。」 「まぁまぁ、薪。じゃ皆で買いに行こう。」 青紫が宥めると、はーい。と、時雨は幼稚園児のように手を上げて返事をした。 ……まじ、こいつ。ムカつくわ。 なぜか4人で飲物をのんで、時雨は御馳走様。と、一応いって俺たちの前から消えた。 時雨たちが去った後。 青紫が例によって吹き出した。 何か言いたげな顔。何だよ。と、いっても別に。と含み笑い。 ったく。どいつもこいつも。 「……。」 俺は、防波堤の“階段”に平行に横になった。青紫が隣に腰下す。 青紫の影が俺の頭を日陰にする。目を閉じる。海風と波の音が心地良かった。 「気持ちいいね。」 んー、と。青紫が伸びをするのが判った。 本当に気持ちがいい。 青紫とつるむようになってから、俺は少し変わった気がする。 イライラが減った。心が、落ち着く。 こいつといると、安心する。 「青紫……。」 「ん?」 何か、しゃべって。と、俺がいうと青紫は笑ってうん。と、言う。 俺の短い言葉。俺の気持ちを理解してくれて、たわいもない、話をする。 あいづち。してもしなくても、青紫は優しく問いかけるように話し続ける。 言葉にしなくても、声に出さなくても、青紫はわかってくれる。 俺は、生まれて初めて安心できる居場所を見つけた―――……。 <<前へ >>次へ <物語のTOPへ> |