| 1 彼は、満天の星空の下でつぶやいた。 「いつか、僕の彗星が見つかったら――……。」 そこまで言うと、微笑を浮かべて望遠鏡を撫でる。 さも、いとおしそうに。 まだ肌寒い風と定期的な波の音が、彼を優しく包み込む。 月の光と星の光に照らされるベンチ。 彼は腰をおろして、用意していたペンとメモ用紙をとりだした。 メモ帳から破った一枚の紙。 十分くらい経っただろうか。 月明かりに影が落ちた。 彼は顔を上げる。 そこには、少し幼い顔立ちをした一人の少女が立っていた。 ストレートの肩まで伸びる黒髪を夜風にさらしている。 逆光ではっきり顔は確認できない。 「何してるの?カゼひいちゃうよ。」 「星の観測さ。君こそこんな時間にどうしたの?」 時計の針は、夜中の一時をさしていた。 女の子が外出するには、遅い時間だ。 この辺りは人気も少ない。 「私も星の観測。」 少女は、はにかんで、彼の隣に腰掛けた。 「何書いてるの?」 興味津々の声をあげて、身を乗り出す。 「別に。何でもないよ。」 彼は、少し照れたような顔つきをして、さりげなくメモ用紙をジーンズのポケットに忍ばせた。 乾いた音が彼のポケットの中で、鳴った。 二人は何やら話し始めた。 「じゃあ、明日ね。あ、今日か。」 少女はかわいく舌を出して、彼に手を振ると小走りで駆けていった。 その後を彼はずっと見届けていた――……。 >>次へ <物語のTOPへ> |