T -NEW FACE-
1/2/3/4/5/6/7/8/あとがき

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九月九日、土曜日。
第十九回S高祭。
朝九時からの一般公開、現在十一時。
なかなかの繁盛振りだ。

 「かわいーこいねーかな。」
                  いおる
 「そーゆーことゆー.。全く、尉折はぁ。」

語尾にアクセントをつけて尉折をにらむ。
きさし
葵矩の言葉に、

 「だいたいこんな奴に彼女がおんの、おかしいわ。」

カフス。

 「こんな奴とは何だよ。」

 「こんな奴やん。」

 「あー、もうやめろって。」

クラスでの仕事がない三人は、適当に歩き回っている。

 「ええな、祭り事は。けっこー盛り上がるんね。」

きょろきょろと大きな目を動かす。

 「そろそろ教室戻る?」

 「戻っても暇じゃん。」

尉折の言葉に、そうだけど。と、語尾長めにいって踵を返す。

 「あ、待てって。」

二人も後に続く。

 「ほーら、暇してる。」

三年一組は、クイズ選手権を行っている。
が、すでに教室は雑談の場となっていた。
時間をもてあましている生徒たちやその友人たちが、話に花を咲かせている。
そんな中で、際立ってるのが――、

みたか
紊駕、疲れてるなら休めばいいのに。
葵矩は紊駕の側に寄って、そっと溜息をついた。
机に突っ伏している紊駕。

勉強に三つのアルバイト。
そして病院。
ハードな日々を送っている紊駕だが、学校は休まない。
最近では授業も寝なくなった。
ま、もともと頭はキレるのだが。

文化祭の仕事に、真剣に時間を費やしている人々に悪いが、こんなときくらいゆっくり休ませてあげたい。
葵矩はそう思う。

 「んなトコにいたら寝れねーよ。」

顔は伏したまま紊駕がぼそっと呟いた。
ようするに、心配するな。と、いいたいのだ。

 「あ、……ごめん。」

紊駕は顔を上げ、長く赤い前髪をかきあげると、背もたれに寄りかかった。

 「今、何時。」

着崩した制服。
長い足を組む。

 「えっと。十一時半くらい。」

あくびをしたせいで、よく通った鼻筋に皺が寄った。
紊駕は、葵矩の言葉に立ち上がって、教室の後ろのドアに向かった。

 「クールな奴やんな。」

カフスがそう呟いたのと、ほぼ同時――、
  きさらぎ
 「如樹さん。お久しぶりっす。」

教室の後ろのドア。
数人の男が紊駕に頭を下げた。
皆黒の制服を着ている。
上はTシャツ、Yシャツ、タンクトップ、と様々だが、同じ学校だとわかる。

 「偶然、下で会ってね。」

紫南帆が顔をだした。

 「お久しぶりですー!紊駕さん。」

長い髪を高く一つに結ったセーラー服姿の少女。

 「久しゅう。」

衣替え前だというのに、既に黒の短ランを着ている男。
紊駕はその一行に、ヒマなやつら。と一笑に付した。
葵矩たちは窓際でその様子を見ていたが――、

 「うそ、やろ。」

カフスが隣で呟いて、近寄った。
     かいう
 「……海昊っ?」

 「……。」

学ランを着た男が視線を向ける。
                   ひりゅう    かいう
 「もしかせんでも、海昊やろ。飛龍 海昊!ワイやワイ!忘れたとは言わせへんど。カフスや、カフス!!」

嬉しさを隠し切れずにカフスは、男の手をとった。

 「……カフス。……なんで、ホンマに?」

関西弁で、海昊と呼ばれた男は呟いた。

 「そりゃこっちが聞きたいわ!何年振りや……五年?そないかな。」

元気してるみたいやな。と、笑顔を交わす。
周りは状況を飲み込めずに、ただ黙っていた。

 「久しぶり、カフスくん。」

そんな中、海昊の隣からの柔らかく優しいソフトヴォイスに――、
            しぶき
 「……まさか……飛沫ちゃん?」

カフスは一瞬息を飲んで、今度は弱く呟いた。
にっこり、私服のその少女は微笑んだ。

 「ほんまに?いつ日本に戻ってきたん?」

 「ほんの数ヶ月前。」

さらり、黒髪をかきあげる。
その様子に、長く後ろに垂れる髪を一本に結わいている男。

 「きーてくださいよ、如樹さぁん。彼女ですよ。か・の・じょ。」

紊駕の耳元で強調するように言った。
左頬に微かな傷跡がある。
     つづみ
 「こら、坡。」

怒鳴る風ではなく、照れた様子で海昊。
ややってから、
  かみじょう しぶき
 「龍条 飛沫さん、や。」

少女を紊駕に紹介した。
少女は笑顔で、よろしく。と、言うのに、紊駕は軽く顎を下げた。
その様子に、

 「え。かみ、じょう?」

カフスが大きな瞳を数回瞬きしてみせる。

 「あ。……えっと。」

飛沫が言葉を選んでいるタイミングを見計らって、

 「入れば。」

紊駕が教室の中へと促した。
入り口で大勢がたまっていたことに気づく。
窓際のスペースを確保して――、

 「葵矩。小学校のときのクラスメートやったんや。で、」

カフスは、葵矩に海昊と飛沫のことをそう紹介して、飛沫を見た。
  ののしら
 「野々白は親戚の苗字なの。本当は龍条。龍条 飛沫です。」

頭をさげた飛沫に、そうやったんか。と、納得してカフス。
海昊のことは知っていたが、葵矩は飛沫につられて頭を下げた。

 「……せやけど、何でおるん。」

カフスは、ここでの再会をまだ信じられない、という表情で尋ねた。
自分は父親の転勤だと付け加えて。

 「いろいろありまして、ね。」

それに答えたのは、セーラー服姿の少女。
ポニーテールの先を弄んだ。
          みら
 「ひょっとして、冥旻ちゃん?」

 「今頃気づいたんですかぁ?」

カフスの言葉に、冥旻は甲高い声を上げた。

 「いやぁ。べっぴんにのうたやんか。言葉遣いも違とるし、あんときはこーんな小さかってん。わからんわ。」

再び驚いて、冥旻をまじまじと見た。

 「あんま変ってへんよ。」

海昊の言葉に、頬を膨らませて――、

 「お兄ちゃんだって!カフスさんにすぐ気づかれるなんて、変ってない証拠ですぅーだ。」

海昊は妹の言葉にはい、はい。と一笑に付す。
左のエクボがへこんだ。

カフスに海昊に飛沫。
大阪で小学校生活を共にした友人だった。
五年来の再会が、なんと神奈川県で、しかもS高とは。
なんとも偶然であった。

詳細は、以下の物語にも記載されていますのでご参考下さい!
<NEPTUNE>BOY's LIFET-School Festival-Dark to Light

そこに集まった、紊駕の他の友人たちも、その偶然に目を見張っていた。
海昊を始め、先ほどの頬に傷のある男、坡。
そして五人の男たち。         バッド    ブルース
いずれも紊駕の友人で、湘南暴走族BADとBLUESの一員であり、私立K学園の生徒たちだ。

葵矩も面識がある人たちばかりだった。
飛沫を除いては。

それにしても、本当に顔が広いよな。と、紊駕を改めて思う。
一見人付き合いが苦手に見える紊駕なのだが、紊駕を慕う友人は多い。
          ・  ・  ・   ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・
そのお陰でか、普通に生活していたらできないだろう部類の友人たちも、葵矩の知り合いとなりえた。

再会の喜び。
雑多な話。
そんな、穏やかな雰囲気が三年一組の教室に広がった――……。


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