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あすか
「飛鳥ぁ!!」
しばらくして、廊下からの声。
えだち
「あ。徭さん。」
えだち みま
元サッカー部部長の徭 神馬だ。
きさし
葵矩は頭を下げて、その場を抜け出した。
いおる
尉折も続く。
「ありがとうございます。来てくれたんですか。」
「よう。元気そうだなぁ!」
そこには、元サッカー部の先輩たちが勢ぞろい。
「お久しぶりです。」
高校を卒業して、一様に大人びた顔つきを見せる私服の先輩たち。
つばな いなはら ちがや
展示も見たよ。と、茅花の兄でもある稲原 茅が言った。
「あ。すみません。全員に断りもなく……。」
元部長の神馬には報告したのだが、全員の許可は取らなかったのだ。
とっているヒマもなかったのも事実。
そんな葵矩に、
「何いってんの、いいって。俺ら有名人じゃーん。」
ねむら ほせ
お茶目に言って、根群 輔世が豪快に頭をかいた。
「結構評判いいみたいだよ。」
ちたか よみす
知鷹 嘉がクールに笑った。
礼を言ってから、皆にも集合させます。と、葵矩が言うのに、尉折も了承した様子で頷いて――、
「おー、すげーもてなしだなぁ。」
いっきに部室が宴会場となった。
去年卒業した先輩の殆どが来てくれて、現サッカー部員もクラス仕事がない者は集まった。
マネージャーも例外じゃない。
ま あ ほ
「あ、茉亜歩さんいらっしゃーい!」
ゆはず ま あ ほ や し き
去年の卒業生で唯一のマネジャー、由蓮 茉亜歩が夜司輝と部室に入ってきた。
その様子に、
「お。カップルご登場!」
るも
流雲が満面の笑みで口にした。
一年生が早速反応する。
ほしな
「えー、星等先輩の彼女?」
「いーなー。」
皆が騒ぎ出したので、二人は赤面して、夜司輝は軽く流雲を睨んだ。
いろいろな食べ物に飲み物。
部室のテーブルに並べられて、先輩たちたちと久しぶりの会話を楽しんだ。
「ごめんね、カフス。せっかくの再会だったのに。」
ジュースを注いで、葵矩はカフスに謝った。
五年来の再会。
つもる話もあっただろう。
「ええて。また会えるし。せやかてワイサッカー部やもん。」
笑顔で言って、おでんに手を伸ばした。
しばはた
「あ。えっと……ついこの間転入してきた柴端 カフスくんです。」
葵矩は先輩たちにカフスを紹介した。
「柴端 カフスです。去年の全国大会、テレビや雑誌でよう見ました。ものすご感激しはりました。せやから皆とプレーできるのうれしゅうて。せに、あのときの選手の方に会えるなんて、感激です。」
丁寧な普段よりゆっくり口調で、カフスはよろしゅう。と、頭を下げた。
「や。なんか、照れるな。ありがとう。……がんばれよ。」
先輩たちを代表して神馬が礼をいい、握手を求めた。
「はいはーい。全国制覇ですから、ね!」
元気良く手を挙げていったのは流雲。
すかさず、
・ ・
「頑張って応援せぇよ。」
カフスがにっこり、不敵な笑みを浮かべて、応援にアクセントをつけた。
「あー、そういうことゆーかっ。ブラジルにいたかなんだか知らないですけどねー!ちょーっと態度でかいんじゃないですかぁ!」
「そのまま返したるでぇー。」
二人が言い合っているのをみて、先輩たちは、もう馴染んでる。と、少し驚きながら呆れ顔。
葵矩も呆れ顔をしつつも、笑顔ではい。と、答えた。
「皆のいい刺激になってます。チームプレーも全く問題ありません。」
「ま、飛鳥がキャプテンじゃ、心配ないよ。」
神馬の言葉に少し赤らめる。
でも嬉しい。
「ま。俺が副部だっしー。」
尉折がしゃしゃりでてくると――、
「なーんかゆってますよ、尉折せんぱい。」
「なー、ほんまや。」
流雲とカフスが肩を抱き合って、尉折を冗談ぽく冷ややかな目でみた。
「あーんだよ、お前らぁ。」
「だってねー、カフスせんぱい。」
頭をカフスに傾け、同意を得る。
「尉折せんぱいは迷惑をかけることこそあれ、ねー。」
「なぁー。」
二人、顔を見合わせる。
「てっめーらなぁー!!」
「うわー、怒った!」
追いかけっこが始まった。
全く、子供じゃないんだから。と、葵矩は額に手をあてがう。
「なんか。大変みたいだな。」
たしな もりあ
窘 壮鴉は眉をひそめて、葵矩に同情。
その言葉に、
「そうそう、大変といえば監督!」
のりと
祝が声を上げる。
「そうそう。もーすっごいんですよ。」
そのう いつく
弁も慈も声を揃えた。
・ ・ ・
「あー、しごきだって。茅花からきいたよ。」
茅が言って、皆も監督の話で盛り上がった。
「コンディションは上々か。」
神馬が葵矩の隣に腰下ろした。
「はい。予選に向けて頑張っています。」
その言葉に笑顔を返して、絶対全国行けよ。と、激励。
そして、優勝。
先輩たちが成し得なかった全国大会優勝。
あと一歩だった。
準優勝。
あの苦渋は二度と味わいたくない。
「勝てよ。全国制覇。」
「応援行くからな!」
先輩たち皆、後輩たちに熱い思いを託した――……。
「レギュラー発表をする。」
文化祭も終わり、本格的な練習が始まった。
全国大会予選まで、あと一ヶ月。
「名前を呼ばれたものから、ユニフォームを取りに来い。」
皆、整列。
監督が仁王立ちして、マネージャーがユニフォームの準備。
緊張が走る。
固唾を呑む。
静寂。
ゴールキーパー
「GK――、」
監督の声だけが響く。
「柴端 カフス。」
「はい。」
カフスは葵矩にウインクをしてユニフォームを取りにいった。
背番号一番。
葵矩も笑みを零した。
次々と呼ばれる。
ディフェンスセンター さわら
DF C、 三年、沙稿 ユタ。
ライト かがり いらつ
DF R、三年、芳刈 苛。
レフト みやむろ わかつ
「DF L、一年、都室 和葛。」
「は、はい。」
一年の和葛だ。
「やったな!」
あつむ
厚夢が和葛を押し出した。
よかった。
葵矩は心から思う。
ちゃんと実力を計って、判断をしてくれた監督に安堵したのだ。
通常、部活動なるものは先輩が優先という風潮がある。
一年生はいくら実力があっても選ばれないこともあるのだ。
ミッドフィルダーライトリンク ほしな や し き
「MF RL、二年、星等 夜司輝。」
「はい。」
「よっしゃ!」
流雲が、自分のことのように呟いて小さくガッツポーズ。
レフトリンク ふかざ るも
「MF LL、二年、吹風 流雲。」
「はい、はーい。」
元気良く、且つ、当然という顔つきの流雲。
あと五人。
葵矩は空を仰いだ。
ライト すみの たづ
MF R、三年、主蓑 鶴。
レフト えやみ うか
MF L、三年、江闇 窺。
あと、三人。
葵矩の鼓動が早くなる。
フォワードライト ちぎり あつむ
「FW R、一年、契 厚夢。」
「はい!」
一年の厚夢が葵矩に頭を下げる。
葵矩も笑顔を返した。
レフト てだか いおる
「FW L、三年、豊違 尉折。」
「はい。よし!」
そして――、
センターフォワード
「C FW――、」
監督と目が合った。
あすか きさし
「飛鳥 葵矩――!」
「はいっ!」
全国の希望を胸に、今、その扉が開いた――……。
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