

7 新学期になって、俺は、夏風邪を引きずっていた。 「熱は?」 計ってないというと、青紫が俺の額に触れる。 眉をゆがめた。 「だめじゃないか。保健室にいこう。」 平気だ。という俺を半ば強引に引っ張る。 なんか、すげぇ身体がだるくて、熱っぽかった。 今朝起きたときは、少しだるかったが、大丈夫だろうと高を括っていた。 青紫にいわれるがまま保健室に向かった。 「38.1度。凄い熱だよ。家に帰ろう。」 センコーはいなかったから、青紫が勝手に体温計で計った。 大丈夫。ともう一度いう。家に帰る体力がありそうもなかった。 青紫はその俺の様子にうなづいて、ベッドに横たわるようにいう。 「……登校の時に気づいてあげれなくてごめんね。……先生連れてくるから。寝てるんだよ。」 青紫は勝手に謝って、手際よく冷やしたタオルを俺の額に乗せた。 俺はうなずくのが精一杯だった。気持ちが悪い。 そのあと、保健のセンコーが来て何か青紫と話していたが、俺はそのまま眠りに落ちた。 教室に戻ったのは、2時間目が始まる少し前。 廊下まで響くざわめき。 扉をひらいて俺が顔を出した途端、静まった。 「?」 薪、大丈夫?と、青紫が寄ってきた。 クラスの全員が俺たち……いや、俺を見ている。 「……なに、皆。」 青紫の表情が、変わった。クラスの奴らに向いている。 もしかして。と、青紫が口にして、誰かが遮った。 「だって、1時間目いなかったの、流蓍だけだぜ。」 ……。 だよな。と、同調する周り。 ひそひそ。こそこそ。空気が淀んだ。 「……薪、いこう。」 青紫が俺の腕を引いた。 教室を出ようとする。俺らの背中に、逃げんのか。と、誰かが言った。 「何、青紫?」 俺の質問に黙する青紫。 クラスの誰かが代弁した。 「こいつの時計、盗んだのお前だろ。」 その言葉で青紫が黙してたワケ、理解した。 1時間目の体育の時間。誰かの時計がなくなった。で、俺が疑われているっつーわけか。 「どっかに落としちゃったのかもでしょ。しまったところが違うとか。ちゃんと、さがそうよ。」 青紫が必死に俺の訳がない。と、いっているが、当然誰も信じていない。 ま、当然といえば当然か。 「だって、流蓍って万引きとかすげーやってんだろ。」 誰かが言った。 その瞬間。 「……。」 その言葉を吐いたと思われる男を、青紫が、殴った。 「ふざけんな!証拠もないのに、そんなこと言ったら、俺が許さない!」 ……青紫。 何やってるんだ。と、センコーが来た。誰かが、青紫が殴ったとチクった。 「流蓍くんは、人の物をとったりしてません!!」 ……。 あの時のように顔を真っ赤にして、拳をきつく握って、青紫は、俺の為に怒った。 「バカ。だな。」 帰り。俺は青紫に言った。 結局時計は見つからなかった。俺は“犯人”のままだが、別にどってことはない。 青紫は、俺の言いたいことを理解して、許せなかったんだ。と、言った。 ……本当、バカヤローだ。俺なんかの為に。 次の日から、“俺ら”はクラスの奴らからハブられた。 「お前までハブられることねーだろ。」 「薪がハブられる筋合いないでしょ。」 こいつは、俺のことを少しも疑っていなかった。 俺のことを信じてくれた。 俺の為に人を殴った。ケンカも暴力もキライな青紫が。 「みなもわかってくれるよ。だって薪じゃないんだから。もってくるの忘れてたとかさ。早く見つかるといいね。」 俺は疑われてもしかたないことをずっとしてきたのに。 こいつは……。 「別に。見つかんなくてもどっちでもいい。」 ……お前が俺のことを信じてくれんなら。お前だけ俺のことを信じてくれれば。 「だめだ。皆にわかってもらわなきゃ。」 ハブられんなんて、全然へーきだった。いつも一人だったし、前と変わらない。 でも。 「誰だよ。」 朝、学コいったら、青紫の机にカマほられていた。 ―――イイキニナルナ 「だれだっつってんだよ!!バックレてんじゃねー!!」 無性に腹が立った。 俺は思い切り、机を蹴とばした。 「言いたいことがあんなら、口で言え。青紫はカンケ―ねぇだろ。てめーらは俺を疑ってんだろ?」 教室中が静まり返った。 なるほどね。と、誰かがいった。 「何で、天漓が流蓍を庇うかがわかったよ。」 眼鏡をかけなおしてそいつは、言った。 青紫はやっぱり俺に脅されているんだ。と。 その瞬間。 「もっかいいってみろよ。殴られたいのかよ!」 今度は青紫がそいつの胸座をつかみにいった。 教室はざわめいた。 「ごめんなさい!!」 突然の謝罪。 クラスの奴らが言葉を発した男を見た。 沈黙。 「……時計。あの時、俺、してなかったんだ!体育の後……てっきり盗まれた。っておもっちゃって……こんなことになるなんて思わなくて……流蓍くんが疑われるなんて……」 本当にごめんなさい。 頭をさげて、涙声で訴える男。 青紫がゆっくりそいつの前に行く。そいつの両肩に触れた。 「ありがとう。正直に言ってくれて。時計。なくなってなくて本当に良かった。」 にっこり、笑った。 殴ってごめん。と、青紫は殴った男に謝った。 それから、青紫は、皆からさらに信頼されるようになって、クラスの奴らに囲まれることが多くなった。宿題をみてやったり、放課後出かけたり。 当然といえば当然なんだろうけど。 俺も一緒に。と、いう青紫の誘いを俺は、断り続けていた。 2人でいる時間が少なくなっていった。 昼食も、クラスで皆で摂ろうといわれたが、俺は一人、屋上でくってた。 妙な孤独感が俺を襲った。 前と変わらないじゃねーか。自分に言った。 青紫がいなかった前と変わらない。 はずなのに……、俺の心はポッカリ穴が開いたようだった。 「薪。今日は皆と教室で食べよう。ね。皆で食べると楽しいよ。」 「るせーな。」 青紫に八つ当たりをするようになった。 何でかわかんねー。何か、腹が立った。何かに腹を立ててた。 「勝手に皆と食ってればいーだろ。俺に構うな!!」 「薪……。」 ずっと一人だったから、“群れ”に慣れてなかった。 皆とわいわいすんの。苦手だった。居心地が悪かった。 「じゃ、俺も屋上に行く。」 「……は?何で……」 「薪と一緒がいいもん。」 勝手にしろ。っといった俺に笑顔でついてくる青紫。 俺は、背中で青紫がついてくるのが分かった時、嬉しいと感じた。 腹が立っていた理由。判明した。 青紫だけでいいって思った。 青紫を独り占めしたかったんだ。きっと。 これは、ヤキモチ。だ。 男にヤキモチっておかしいか。でも、確かに俺は青紫をとられんのが、イヤだったんだ。 だから、自分から避けた。一人のほうが良かったから。皆といる青紫を見るのがイヤだったから。 俺、独りじゃダメになってた。 青紫が居ないと、ダメんなってた。 必死になって青紫が皆の輪に俺をいれようとしてくれてんのを、シカトし続けた。 別に皆にどう思われてもいい。 青紫だけいてくれたら。 ずっとそう思っていた。 きっと。罰だったんだ。 そんな俺への、最大最悪の、罰。 「流蓍 薪っている?」 12月に入った頃。 2個上の先輩が教室に来た。 「てめ、人の名前呼び捨てしてんじゃねーぞ。」 至熊 殆と喇上 史利だった。 姉貴たちがむきになって関わるな。と、いっていた“BLUES”の奴らだった。 「気に入った。なあ、BLUES、はいらねーか?」 俺は、足を踏み入れた。 底のない、真っ暗な場所へ。 抜け道なんてない、長い、長い道へ。 戻ることさえ許されない、時間の中へ。 「薪!」 青紫の言葉もシカトして。 海も風も。太陽も。星も、月さえも見守っていたのに。 俺は、自分を。 青紫を闇へ陥れたんだ―――……。 <<前へ >>後編1へ <物語のTOPへ> |