NOT ALONE
前編
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 新学期になって、俺は、夏風邪を引きずっていた。

  「熱は?」

 計ってないというと、青紫が俺の額に触れる。
 眉をゆがめた。

  「だめじゃないか。保健室にいこう。」

 平気だ。という俺を半ば強引に引っ張る。
 なんか、すげぇ身体がだるくて、熱っぽかった。
 今朝起きたときは、少しだるかったが、大丈夫だろうと高を括っていた。
 青紫にいわれるがまま保健室に向かった。

  「38.1度。凄い熱だよ。家に帰ろう。」

 センコーはいなかったから、青紫が勝手に体温計で計った。
 大丈夫。ともう一度いう。家に帰る体力がありそうもなかった。
 青紫はその俺の様子にうなづいて、ベッドに横たわるようにいう。

  「……登校の時に気づいてあげれなくてごめんね。……先生連れてくるから。寝てるんだよ。」

 青紫は勝手に謝って、手際よく冷やしたタオルを俺の額に乗せた。
 俺はうなずくのが精一杯だった。気持ちが悪い。
 そのあと、保健のセンコーが来て何か青紫と話していたが、俺はそのまま眠りに落ちた。

 教室に戻ったのは、2時間目が始まる少し前。
 廊下まで響くざわめき。
 扉をひらいて俺が顔を出した途端、静まった。

  「?」

 薪、大丈夫?と、青紫が寄ってきた。
 クラスの全員が俺たち……いや、俺を見ている。

  「……なに、皆。」

 青紫の表情が、変わった。クラスの奴らに向いている。
 もしかして。と、青紫が口にして、誰かが遮った。

  「だって、1時間目いなかったの、流蓍なしきだけだぜ。」

 ……。

 だよな。と、同調する周り。
 ひそひそ。こそこそ。空気が淀んだ。

  「……薪、いこう。」

 青紫が俺の腕を引いた。
 教室を出ようとする。俺らの背中に、逃げんのか。と、誰かが言った。

  「何、青紫?」

 俺の質問に黙する青紫。
 クラスの誰かが代弁した。

  「こいつの時計、盗んだのお前だろ。」

 その言葉で青紫が黙してたワケ、理解した。
 1時間目の体育の時間。誰かの時計がなくなった。で、俺が疑われているっつーわけか。

  「どっかに落としちゃったのかもでしょ。しまったところが違うとか。ちゃんと、さがそうよ。」

 青紫が必死に俺の訳がない。と、いっているが、当然誰も信じていない。
 ま、当然といえば当然か。

  「だって、流蓍なしきって万引きとかすげーやってんだろ。」

 誰かが言った。
 その瞬間。

  「……。」

 その言葉を吐いたと思われる男を、青紫が、殴った。

  「ふざけんな!証拠もないのに、そんなこと言ったら、俺が許さない!」

 ……青紫。
 何やってるんだ。と、センコーが来た。誰かが、青紫が殴ったとチクった。

  「流蓍なしきくんは、人の物をとったりしてません!!」

 ……。
 あの時のように顔を真っ赤にして、拳をきつく握って、青紫は、俺の為に怒った。

  「バカ。だな。」

 帰り。俺は青紫に言った。
 結局時計は見つからなかった。俺は“犯人”のままだが、別にどってことはない。

 青紫は、俺の言いたいことを理解して、許せなかったんだ。と、言った。
 ……本当、バカヤローだ。俺なんかの為に。

 次の日から、“俺ら”はクラスの奴らからハブられた。
 
  「お前までハブられることねーだろ。」

  「薪がハブられる筋合いないでしょ。」

 こいつは、俺のことを少しも疑っていなかった。
 俺のことを信じてくれた。
 俺の為に人を殴った。ケンカも暴力もキライな青紫が。

  「みなもわかってくれるよ。だって薪じゃないんだから。もってくるの忘れてたとかさ。早く見つかるといいね。」

 俺は疑われてもしかたないことをずっとしてきたのに。
 こいつは……。

  「別に。見つかんなくてもどっちでもいい。」

 ……お前が俺のことを信じてくれんなら。お前だけ俺のことを信じてくれれば。

  「だめだ。皆にわかってもらわなきゃ。」

 ハブられんなんて、全然へーきだった。いつも一人だったし、前と変わらない。
 でも。

  「誰だよ。」

 朝、学コいったら、青紫の机にカマほられていた。

―――イイキニナルナ

  「だれだっつってんだよ!!バックレてんじゃねー!!」

 無性に腹が立った。
 俺は思い切り、机を蹴とばした。

  「言いたいことがあんなら、口で言え。青紫はカンケ―ねぇだろ。てめーらは俺を疑ってんだろ?」

 教室中が静まり返った。
 なるほどね。と、誰かがいった。

  「何で、天漓が流蓍を庇うかがわかったよ。」

 眼鏡をかけなおしてそいつは、言った。
 青紫はやっぱり俺に脅されているんだ。と。
 その瞬間。

  「もっかいいってみろよ。殴られたいのかよ!」

 今度は青紫がそいつの胸座をつかみにいった。
 教室はざわめいた。

  「ごめんなさい!!」

 突然の謝罪。
 クラスの奴らが言葉を発した男を見た。
 沈黙。

  「……時計。あの時、俺、してなかったんだ!体育の後……てっきり盗まれた。っておもっちゃって……こんなことになるなんて思わなくて……流蓍くんが疑われるなんて……」

 本当にごめんなさい。
 頭をさげて、涙声で訴える男。
 青紫がゆっくりそいつの前に行く。そいつの両肩に触れた。

  「ありがとう。正直に言ってくれて。時計。なくなってなくて本当に良かった。」

 にっこり、笑った。
 殴ってごめん。と、青紫は殴った男に謝った。

 それから、青紫は、皆からさらに信頼されるようになって、クラスの奴らに囲まれることが多くなった。宿題をみてやったり、放課後出かけたり。
 当然といえば当然なんだろうけど。
 俺も一緒に。と、いう青紫の誘いを俺は、断り続けていた。
 2人でいる時間が少なくなっていった。

 昼食も、クラスで皆で摂ろうといわれたが、俺は一人、屋上でくってた。
 妙な孤独感が俺を襲った。
 前と変わらないじゃねーか。自分に言った。
 青紫がいなかった前と変わらない。
 
 はずなのに……、俺の心はポッカリ穴が開いたようだった。

  「薪。今日は皆と教室で食べよう。ね。皆で食べると楽しいよ。」

  「るせーな。」

 青紫に八つ当たりをするようになった。
 何でかわかんねー。何か、腹が立った。何かに腹を立ててた。

  「勝手に皆と食ってればいーだろ。俺に構うな!!」

  「薪……。」

 ずっと一人だったから、“群れ”に慣れてなかった。
 皆とわいわいすんの。苦手だった。居心地が悪かった。

  「じゃ、俺も屋上に行く。」

  「……は?何で……」

  「薪と一緒がいいもん。」

 勝手にしろ。っといった俺に笑顔でついてくる青紫。
 俺は、背中で青紫がついてくるのが分かった時、嬉しいと感じた。
 腹が立っていた理由。判明した。

 青紫だけでいいって思った。
 青紫を独り占めしたかったんだ。きっと。
 これは、ヤキモチ。だ。
 男にヤキモチっておかしいか。でも、確かに俺は青紫をとられんのが、イヤだったんだ。
 だから、自分から避けた。一人のほうが良かったから。皆といる青紫を見るのがイヤだったから。

 俺、独りじゃダメになってた。
 青紫が居ないと、ダメんなってた。

 必死になって青紫が皆の輪に俺をいれようとしてくれてんのを、シカトし続けた。
 別に皆にどう思われてもいい。
 青紫だけいてくれたら。
 ずっとそう思っていた。

 きっと。罰だったんだ。
 そんな俺への、最大最悪の、罰。

  「流蓍なしき 薪っている?」

 12月に入った頃。
 2個上の先輩が教室に来た。

  「てめ、人の名前呼び捨てしてんじゃねーぞ。」

 至熊しくま あやぶ喇上らがみ 史利ふひとだった。
 姉貴たちがむきになって関わるな。と、いっていた“BLUESブルース”の奴らだった。

  「気に入った。なあ、BLUES、はいらねーか?」

 俺は、足を踏み入れた。
 底のない、真っ暗な場所へ。
 抜け道なんてない、長い、長い道へ。
 戻ることさえ許されない、時間の中へ。

  「薪!」

 青紫の言葉もシカトして。
 海も風も。太陽も。星も、月さえも見守っていたのに。
 俺は、自分を。
 青紫を闇へ陥れたんだ―――……。



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