4th LAP


  「……よく続いてるよ。」

  「ホント。マジ、お前、えらいわ。」
                         とひろ   ながき
 年が明けて、寒さが底を突き始めた頃、斗尋と修は何度も口にした言葉をしみじみと再び言った。
 はいねと付き合って半年が過ぎていた。

  「も、慣れた。いーよぉ。世界が2倍で。毎日幸せだもんよ、はいねといると。」

 いつの間にか呼び方は変わっているが、相変わらず鼻の下をのばしている。
 はい、はい。と斗尋たち。

  「でも彼女、まだ知らないなんて、結構鈍いよな。」

  「知ったってどってことないんじゃん?」

                         こうき    みやつ
 一緒に好きになってくれるかもよ。との箜騎と造の言葉に――、

  「別にゆうつもりねーし。いーよ。」

 楽観的に笑顔で答えて、鞄を脇に抱えた。
 この半年、バイクのことには一切触れず、一緒に過ごしてきた。
 それで別段困ったことはなく、保角の中では隠し事という気持ちは薄れていた。

 放課後。
 いつのものように、
   ほずみ
  「保角くん。」

 はいねが、ちょこんと廊下から顔をだして、

  「お。今行く。じゃあな。」

 保角が後ろ手を振るのと同時に箜騎たちに頭をさげる。
 お馴染みの光景になった。

  「いい感じじゃん。」

  「け。別れると思ったのによ。」

 口々にその背中に呟いたが、みな祝福していた――……。

 
  「かわい〜。」

 横浜のファッション発信地、ここ元町の一角の銀製品の専門店の前ではいねは立ち止まった。
 ショーウィンドウに飾られた煌びやかなアクセサリー。
 照明を浴びてさらに輝いている。

 まばゆいシルバー。
 イタリアやイギリスなど、ヨーロッパ製品とオリジナルが中心のこの店は、アクセサリーからインテリアまで、厳選された手作りの製品が揃っている。

 ショーウィンドウに小さな顔をくっつけんとするはいねを見て、保角は微笑んだ。
 小さな手袋の跡がつきそうだ。

 女の子だなぁ。
 すげぇ、愛しい。
 付き合って半年だけど、どんどん好きになる。
 そいえば、もうすぐはいねの誕生日だ。

  「どしたの?」

  「え、いや。」
 
 突然顔を覗かれて、思わず赤面してしまう。
 顔を反らして――、

  「あ。」

 店内の時計が目に入った。
 4時を指している。
 保角の顔が曇る。

  「はいね、ごめん。」

  「え?」

  「ちょっと、用事。」

 保角が顔の前で手を合わせる。
 その行動と言動にはいねは眉に皺を寄せ、小さな口を窄めた。
 
  「最近保角くん、そればっか。日曜日も会えないし、何の用事なの?」

 保角は、怒ったはいねもかわいいな。などと一瞬考えて、首を振った。
 もう一度の顔の前で手を合わせる。

  「ホントごめん。」

 ほっぺたをふくらませたままはいねは、

  「あと5分。」

 自分の手を保角の腕にからめた。
 思わずうなづいてしまう。
 はいねは満面の笑みをした。

 ああ。
 俺のことホント好きできてくれんだなぁ。
 俺だって本当はもっとずっと一緒にいたいんだよ。
 ごめんな。

 心の中で保角はもう一度謝った――……。


  「こら、遅刻。」
 
  「わりー。ちょっとはいねに引き止められちまって。」

                                さつひ
 はいねと別れ、一秒を惜しまんとRVFを飛ばして、紮妃の下へ急いだ。
 既に約束の時間の15分過ぎていた。

  「ぬけぬけと。おら、8耐エントリーしてやったぞ。」

 紮妃から用紙を受け取った。
 用紙の端にオイルの跡。

  「うそ、さんきゅう!」

  「お前もホント頑張ったしな。でも予選落ちすんなよ。」

  「わかってるよ、走行5月だろ。で、本選7、8月?やっほ〜!!」

 釘をさされたことなど意に介さず――、

 やった、ようやく夢の第一歩!!
 8耐デビュー!!!
 
 保角は有頂天で、その喜びを大きく飛び跳ね体で表現した。
 自分の夢。
 もう、すぐそこにある。

 無邪気に笑顔を振りまく保角。
 共に闘うRVFに、頑張ろうな、と話しかけた。

 どれほどこの時を待っていたか。
 一生懸命働いて、お金もつぎ込んだ。
 節約にもつとめた。
 はいねとの時間も割いた。
 寝る間も惜しんだ。

 よ〜し、ぜってぇ本選でるぞ。
 優勝するぞ〜!!!

 保角は、大きくガッツポーズをして、何度もうなづく。

 しかし、この後、予想もつかない事態が待ち受けているとは、保角はまだ知らない――……。


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