
5th LAP 「まじで?すげぇ〜じゃん保角!!」 「やったな。」 学校で保角は早速8耐出場報告をした。 「おう。予選5月、見に来てくれよな!これに入れたら本選。」 9組の教室は一気に騒がしくなった。 皆が保角に激励の言葉をなげかけ――、 「レースってさ、あれだろ、ハイレグ、ボディコンのキャンギャル!」 「いーよなぁ、目の保養!」 「いーだろ。レース後はさぁ。遊べんぞ。」 男ばかりのクラス。 さらに騒がしくなった。 保角も調子に乗って小指をたててにやついた笑みを見せる。 とひろ ながき こうき みやつ 斗尋と修もまざるその光景に、箜騎と造は呆れ顔。 「マジで?」 「おーマジマジ。何でもやらしてくれんよ。」 話はエスカレートし、想像の域。 思春期の男子クラスは、勝手に盛り上がる。 「何でもって何でもかよ。」 「おいしーね。」 皆で行こうと一致団結。 「ところでさ。保角、あの3組のかわいい子ちゃんとはどーなってんの?」 誰かが話を振ると――、 「そーだそーだお前、女いるんだよな。」 「どーなってんだよ、あ?もうヤった?」 保角も興奮冷めやらぬ、浮ついた気分のままで、何を?と含み笑いをしてみせた。 箜騎と造が顔を見合わせて眉をひそめる。 「またまたとぼけちゃってぇ〜!」 「さぁねぇ。」 保角の口元が緩んだ。 「お、意味深〜!」 「どーだった?どーだった?」 「どーって、そりゃ〜……ナ・イ・ショ。」 思い出すように右上に視線をもっていき、笑顔で答えた。 その動向にまわりは勝手にもりあがり――、 「こら!お前ら席につけ!!」 始業ベルはとっくに鳴っていた中、教師が教室に入ってきて、ようやく皆席に着き始めた。 ざわつく教室に教師は一瞥して、授業の教材を教卓にわざと音をたてて置いた。 教室を見渡して、授業を始める。 「おい、保角。あんまあーゆーことゆうなよ。」 「そーだよ。吹聴されたら傷つくのは彼女だよ。」 箜騎と造の憂いの言葉にも、 「だいじょーぶだって。」 楽観的な保角。 教科書すら出していない机に足を投げ出した。 「ってか、マジやったわけ?」 「そこんとこ詳しく。」 斗尋と修は、身を乗り出して興味津々な声をあげた。 教室の隅。 「え〜?」 「やったのかやってねーのかきーてんだよ!」 「ばっ、斗尋!」 ようやく授業に集中しだした教室に斗尋と箜騎の叱責が響いた。 時既に遅く――、 「何をやったって?」 教師の眼光が斗尋を捉えた。 まだ夏には遠いと言うのに、白のポロシャツから伸びた筋肉質の腕。 右手には白のチョークが握られていて、それは、今にも折れそうなくらいしなっている。 体育会系の容姿に四角い顔はもちろん顔はあきらかに怒っている。 「授業を受ける気がないらしいな。」 嫌味をたっぷり利かせて、角ばった顎をしゃくる。 チョークを後ろドアに向けた。 二の腕の筋肉が震えた。 すいき とひろ とさき ほずみ えいま ながき 「須粋 斗尋、戸崎 保角、永真 修。」 三人の名前を吐き捨ててから、 「でていっていいよ。」 ゆっくり低い声をだした。 その言葉に、保角が大きな音をたてて席を立った。 斗尋と修も続く。 「戸崎ぃ〜お前、3組の舳先 はいねと付き合ってるらしいなぁ。」 教室をでようとした保角の背中に、教師の嫌味たっぷりな声。 保角は両手をズボンのポケットに突っ込んだまま振り返る。 「だったらなんスか。」 細い一重の瞳が斜め下から教師を見上げた。 その目を睨み返す教師。 「ガキのくせにませやがって、ああ?不純異性交遊してないだろうなぁ。」 15センチ以上も上から浅黒い手が伸びてきた。 保角のムースてたたせている髪が引っ張られる。 「っにすんだよ!」 払いのけようとした保角の腕を易々と交わして、教師は保角の髪をつかんだまま自分の方へ引き寄せた。 「整髪剤を使っていいなんて、校則には書いてないぞ!このガキが!!」 その言葉に――、 「髪を引っ張ってそんな乱雑な言葉を吐いていいなんてことも。書いてありませんよ、センセ。」 造が言い放ち、箜騎も席を立った。 5人に睨まれ、造の言葉に教師は眉を潜める。 「……っさ、3人廊下に立ってろ!!私がいいというまでだ!!」 徐ろに声を荒げたその様は、明らかに勝敗が見て取れた。 ・ ・ 5人は無言で教室を後にした。 もちろん、廊下は素通り。 教室に一瞥もくれずに、学校をでた。 「あっんのクソジジィ。」 保角は引っ張られた髪を手櫛で整えて、悪態づいた。 斗尋と修も大きく頷く。 5人は校門をでて右手、港へと向かった。 横浜市立M中学は通りを挟んで、高校と向かい合っている。 その通りは中華街へと続いている。 相変わらず中華街は、大賑わいを見せていた。 ここ、横浜の中華街は、神戸、長崎とともに三大中華街とされ、連日観光客などでこの有り様だ。 人をすり抜けて、山下公園へ抜けた。 ・ ・ ・ 「でも、何故か俺らだけだと思わね?」 保角が歩みを止めた。 「あ、いえてる。」 学ランの下に灰色のフード付きの長袖Tシャツを着込んだ格好の腰を屈めて、修は箜騎と造を覗き見た。 斗尋も同じく2人を見て、人差し指を挙げる。 「この間の校門検査。俺、体まで触られたぞ。」 「俺も。胸ポケ要注意。みたいな。」 「あと、あと、カバン。じょーだんじゃねー、プライバシーの侵害だっつーの。」 斗尋、修、そして保角が次々といい――、 「で、ただ見られただけの、お2人さん。」 3人が一斉に箜騎と造を見た。 港からの風が強くなってきた。 「どーせね。デキが違いますもんね。」 「だよね。」 「将来有望株ってわけっすか。」 いつもの3人対2人に別れる。 箜騎と造は顔を見合わせた。 「で、これからどーする?」 山下公園のベンチに腰掛けて、保角はポケットからLucky Strikeを取り出し、無造作に火をつけた。 「おい、いーのかぁ。タバコなんか吸ってぇ。」 口元の端を上げて、語尾を伸ばしてからかう斗尋に――、 「カンベンしてくれよ。お前らといるときぐれーよぉ。」 「お。顔に疲れたって書いてあるなぁ、保角くん。」 斗尋と修が保角を挟むようにベンチに腰を下ろした。 両肩に手を置かれて、 「つぅかぁ〜。」 頭を前に倒した。 「バイクダメ、タバコダメ。けっこー真面目やんないとさぁ〜。」 空を見上げた。 霞がかった空と港の海の青が境界線をなくす。 船が辛うじて境界線を見つけてくれている。 最近。 本音をいえば、ときどき疲れる。 ま、しゃーねーけどさ。 保角は心の中でぼやいた。 4人はそんな気持ちに気がついているかのように、無言で埠頭に足を向けた。 保角も後を追う。 「お〜箜騎たちじゃん。サボリか、サボリ?」 「こんちは。」 「おーっす。」 山下埠頭。 昼間だというのに、バイクに車、たくさんの人。 ロ ー ド THE ROADのヤサ。 錆びれた倉庫の中に足を運んで――、 たつる 「立さん。」 ところどころ破れているレザーのソファーに腰を下ろした男は、尖った顎を下げ、微笑した。 ロ ー ド かみじょう たつる THE ROADの総統、龍条 立。 ここいら一帯の族の総まとめをしている男で、信頼も厚い。 保角たちも慕っている。 港の汽笛とオイルの匂いに囲まれたヤサ。 ほぼ毎日時を過ごすここは、保角たちの憩いの場となっていた。 夜になるとさらに多くの人でごったがえす。 雑多な話をして、あっという間に夕日が傾きかけた。 「あ。やべ。俺そろそろいくわ。」 保角が立ち上がった。 箜騎たちは、暗黙の了解。 保角は、仲間に軽く頭を下げて、立に一礼してヤサをでると、全力疾走で学校へ向かった――……。 >>次へ <物語のTOPへ> |