
5 4月10日。 新入生歓迎会。 午後の授業を返上して、体育館に全校生徒が集まり、部活やクラブ活動の紹介をする。 「Leadies And Gentle Men!!」 きさし るも 葵矩たちサッカー部は、ミーティング通り!?流雲が進行するようだ。 体育館に甲高く間延びしたよく通る声が響く。 一応、葵矩たちも舞台裏に身を潜めている。 ふかざ るも 「Hello!!新入生の皆さん。僕がサッカー部2年、吹風 流雲でぇーっす!」 緊張する様子も全くなく、流暢な口は動く。 「こーゆーとこ、すごいなって思うよ。流雲の奴。」 葵矩はそっ、と呟いた。 「我がサッカー部は去年記録的な快挙を成し遂げました!!知っていますか、皆さん。これまで予選も勝ち進めなかった、我がサッカー部。今年の1月には、なんと、全国2位という好成績を収めたんです!!」 体育館が歓喜の声でざわめく。 知ってる、知ってる。との声も聞こえる。 「その原動力になったのは、言うまでもなく――……」 全体を見渡しながら、もったいぶらせて語尾を伸ばした。 あすか きさし 「3年、現キャプテン、飛鳥 葵矩せんぱいでしょう!!」 舞台裏で赤面する葵矩。 「我がサッカー部の主将、飛鳥せんぱいは、1年よりレギュラーとし、記憶に新しい3月、全国名選手上位20名に選ばれ、ドイツ遠征にも足を運ばせた人!!顔よし、頭よし、性格よし。もっちろん信頼は熱帯地域よりも厚い!!」 一斉に笑いが起こった。 あの、お調子者……。葵矩がさらに赤面する。 「あなたはだんだん飛鳥せんぱいが見たくなーる。見たくなーる。」 催眠術をかけるような言い方で流雲。 「よし!今日の僕は気前がいい。飛鳥せんぱいを呼んでしんぜよう!」 急に時代劇口調になる。 げ。 うそ、だろ。 葵矩の顔が今度は青くなる。 「あーすかせんぱーい。」 聞いてないよ、流雲の奴。 舞台裏で呟く。 「飛鳥、呼んでんぞ。」 「やっ、やだよ、俺。」 「え。もしかしてとは思ったけど……、流雲の奴、全部アドリブかよ。」 や し き 葵矩の動向を見て、夜司輝は大きく溜息をついた。 「あーすかせんぱーい。はい。皆さんも。」 舞台の流雲は相変わらず、皆を巻き込んで葵矩コール。 「おっかしいなぁ。きっとてれてるんですね。」 大きく頷く。 ・ ・ ・ 「そうそう、飛鳥せんぱいをお狙いの女生徒さんたち。押してだめなら引いてみよう。じゃなくて、引いちゃダメっす押しまくれ。っで攻めて下さいね!先輩はとーっても照れ屋さんですから、はい。」 って、流雲ぉ〜! 舞台裏で葵矩。 「ちなみに僕はどっちでもOK!彼女募集中です!」 またまた体育館は笑いに包まれた。 「おそいっすねぇ。あ、因みに、僕のスピーチは全てアドリブですんで。突然で驚いてんですね。先輩。照れないで来て下さいよ。飛鳥せんぱい。その、風貌を皆さんにお見せ願います!」 流雲が舞台袖を見て、ウインクした。 余計いけないわっ! 葵矩の顔がますます青くなった。 「いってこいよ、飛鳥。」 「うそだろ……」 次の瞬間、尉折に背中を押し出される。 「え、おい!」 「お。やーっとご登場!飛鳥 葵矩せんぱい!押されてでてきましたねぇ。」 またまた笑い。 流雲に腕を捕まえられる。 「このお方こそが、飛鳥 葵矩せんぱいだ。ひかえおろ〜!」 そして、マイクを向けた。 一言。と、流雲の笑顔。 「ちょ……うそだろ。何しゃべんだよ。」 「何でもいいですよ。」 「きいてないよ……」 「いってないですもん。」 体育館はさらに爆笑の渦。 「ったく。漫才やってんじゃねーっての。やっぱ俺がいかなきゃな。」 尉折が独りごちて飛び出した。 そんなアクシデントにも――、 「お。乱入者!!」 いおる 「いっ、尉折。」 てだか いおる 「ご紹介に預かりました、3年、豊違 尉折です。」 ご紹介されてないだろ。と、葵矩は心の中で突っ込んだ。 「この人こそは、現副キャプテンの豊違 尉折せんぱいです!ジョーク大好きで、明るく、我がサッカー部には欠かせない存在!!」 「因みに俺にホレちゃ、だめよ。」 「ナンパがシュミですから、手中にはまらないように。」 「違うだろ。」 尉折が流雲の頭を叩く。 笑いが起こる。 「俺には、愛する女性がいるからです。」 「でも。ナンパは好きです。」 もうひとつ、拳が飛んでくる。 「でも、どーしても俺のコトが好きで好きでたまらなくなっちゃったら――」 「大丈夫です。絶対いません。」 さらに一つ、拳骨。 「でも、やっぱあきらめてね。」 「うそです。心では、そうは思ってません。」 さらにさらに、拳骨。 尉折と流雲の掛け合いに、ひたすら笑いが起こる体育館。 そんな2人を葵矩は横目で見て――、 「……まぁ、明るく、楽しいサッカー部です。」 咳をひとつ。 「――俺たちの目標は、全国制覇です。」 堂々といった葵矩にさっきまでの皆の笑みが、真剣な表情に変わった。 「新入生には、根性と――」 葵矩は周りを見渡す。 「サッカーが好きでたまらないと言う気持ち。を、求めています。」 「是非、我がサッカー部へ入ってください。」 「お願いします!」 最後のシメに尉折と流雲が頭を下げた。 3人、もう一度頭を下げ、そんなサッカー部に心なしか、ひときわ大きな拍手が送られた――……。 「飛鳥せんぱーい!さいこうかっこよかったですぅ。」 ホレ直しました。と、流雲が葵矩に抱きついた。 「こら。」 流雲の茶色の頭を触って――、 「まいったぞ。いきなり。事前にゆってくれよ。」 「すみませーん。反省してます。この口が勝手にべらべらと、で、あーゆー展開になってしまったんですぅ。」 泣きまねをしてみせる流雲。 葵矩は溜息をついて、ま、いいけど。と練習の準備に取り掛かった。 「あ!」 尉折の言葉に、振り返る。 「マネージャー募集、いうの忘れた。」 「はぁ――。」 言葉に出して、溜息とともに吐く。 行くぞ。と、部室のドアを開け――、 「きゃあー!飛鳥せんぱい!!」 ・ ・ ・ ・ 葵矩は、突然の黄色い波に押しつぶされた。 「飛鳥、大丈夫か。」 「いってぇ、何?」 葵矩の言葉に、黄色い波は声を揃えた。 「サッカー部マネージャー希望です!!」 「……。」 一様に笑顔の女子生徒。 後ろの方まで続いている。 「やったぁ!大収穫!!はいはい、こっちに並んで!!」 流雲が満面の笑みで手を挙げて、女子生徒を整列させようと声をはった。 「ちょっと待った!!」 そんな波をかき分けて――、 「マネージャー選考は、あたしがします!!ほら、どいて!!飛鳥先輩に近づかないで!!」 舌足らずな声で啖呵を切る、少女。 いなはら つばな 2年のマネージャー、稲原 茅花。 「ちょっと、ごめんね。」 軽く、頭を下げて、茅花の後に続いたのは、樹緑。 さすが、すごい数だこと。と、納得して見せた。 「吹風!あんたのせーで、マネージャー希望がこんなになったのよ!どーしてくれんの!!」 「しーらないっと。」 茅花の言葉に小さな舌を出す、流雲。 新入生歓迎会の一件をいっている。 「大変ねぇ。」 「頑張って!」 しらき いなみ かささぎ おうな 3年の白木 伊波と、2年の鵲 殃奈の言葉に――、 コク 「そこの2人にいわれたくない!何よ、告られたからって、ちゃっかり白木先輩はお兄ちゃんとつきあっちゃうし、殃奈だって――裏切り者!」 元々、2人は葵矩に想いを寄せていた。 いなはら ちがや しかし、今、伊波は、茅花の兄で、サッカー部のOBの稲原 茅と。 えだち みま 殃奈もやはりOBの徭 神馬と付き合っているのだ。 「あら、あのまま私たちがライバルでもよかったの?」 「そうよ、茅花。ライバルが減ったのよ。喜ぶべきよ。」 伊波と殃奈の言葉に、樹緑が手を叩いて、 「はい。もう終わり!飛鳥くん。この場は任せて。仮入希望は並ばせてあるわ。」 葵矩は、樹緑の配慮に礼をいって、グラウンドに向かった。 「いーよなぁ。飛鳥はもててさぁ。」 皆も一様にグラウンドに向かう中、ユタが心底うらやましそうに口にする。 俺は、一人にだけもてればいい。 そんなユタに、葵矩は心の中で呟いた――……。 >>次へ <物語のTOPへ> |