Finale
Finale
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            / / 8 / 9 / あとがき

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  「はい。」

 目の前に淹れ立てのブルーマウンテン。

  「ども。」

 軽く顎を下げて、カップをつかんだ。
        ロ ー ド
 開店中のThe Highway。
 お客は誰も居ない。

  「どうしたの。いやに元気ないのね。」

 クラッシックなカウンターに丸イス。
 りつか    みたか
 俚束は紊駕の隣に腰掛けた。
 黒のタイトスカートから伸びた美脚を組んで、カウンターに肘を立てて紊駕の顔を覗きこむ。

  「ま、元気のある紊駕ってゆうのも、想像つかないけど。」

 微笑する。
 真っ赤なマニキュアが紊駕の前髪に触れる。
 紊駕は珈琲カップに目を落としている。

  「……。」

 俚束は逆の手を紊駕の首に巻きつけた。
 紊駕のシャープな輪郭を、なぞるように赤のマニキュアを滑らせる。
 紊駕が俚束に顔を向けた。

  「……今、彼女いるんだって?」
   ひさめ
  「氷雨、ですか。」

 氷雨から聞いたのかという紊駕の言葉に、否定も肯定もせずに、俚束は立ち上がって――、
                   ・  ・  ・
  「かわいいコなんだってね。今までとは正反対のタイプの。」

  「何が言いたいんですか?」

  「あら、気に障った?」

 からかうように口元を跳ね上げて、カウンターの中に入り、戸棚のグラスを整理する。
 紊駕に背を向けたまま――、
   こうき
  「箜騎はね。ずっと、あたしのこと好きだったんだって。」
       たがら  こうき
 箜騎――貲 箜騎。は、俚束の夫で、氷雨の友人でもある男だ。
 2人の間には、1歳になる息子もいる。
   たつる
  「立が亡くなる前から、ずっと。」

 俚束は紊駕を見た。
 
  「立が死んでから、少したって箜騎は言った。」

 ――俚束さんが好きです。

  「あたしがハタチで、箜騎が15の夏だった。」
      かみじょう たつる
 立――龍条 立。は、俚束の彼氏であり、箜騎が最も尊敬する男だった。
 しかし、18歳という若さで癌に侵され逝去した。
 昔を思い出すように、ゆっくり話す。

  「すごく苦しんだと思う。立への想いとあたしへの想いの狭間。立に申し訳ないって気持ち……でもね。」

 紊駕をもう一度真っ直ぐ見つめる。

  「箜騎はあたしに好きだ。って、言ってくれた。青い空の立に向かって、そう、言った。……それが、立に対する箜騎の誠意だったの。」

  「……。」

 尊敬する人の彼女を奪う形になってしまった箜騎の告白。
 しかし、それは、誠意だった。
 立に対しての。
 そして、俚束に対しての――……。

 その物語は、FoeverTHE ROAD-何処までも果てしなく-にて。

  「だから、紊駕も……」

 俚束の言葉はそこで途切れた。
 入り口のドアが勢い良く開いて、ドアに取り付けてある鈴が床に落ちた。
 
  「……っ。また、あんたたち?」

 俚束の柳眉が逆立った。
 
  「お。ツーショットの所悪いっ……――っっ!!!」

 悪いねぇ、と嫌味たっぷりに言おうとしたのだろうが、どう見ても悪人面のその男は、紊駕を見て、次の瞬間、
      きさらぎ     みたか
  「きっ、如樹 紊駕ぁぁぁっ――!!!??」

 絶叫した。
   ヒト
  「俺の顔見て逃げんなよ。」

 顔面蒼白になって叫び、即座に翻した男の後ろ首を捕まえて、

  「失礼だろ。」

 冷たく言い放った。
 蒼の瞳は、鋭く男を突き刺す。
 男は、肩を竦めた状態で首を少し後ろに向けて、やばい。という顔つき。
 それは、蛇に睨まれた蛙の図。
 男は怯えて――、

  「たっ、助けてくれぇ――!!」

 男が叫ぶと、

  「どしたぁ?」

  「何だ何だ。」

 ぞろぞろと数人の男たちが店の中に入ってきた。
 皆、様々なカラーの頭、至る所にピアスをしている。
 渋カジ風の服。
 音を立ててガムを噛む男。
 タバコを吹かす男。
   クレイジー  キッズ
  「Crazy Kidsか。」

 紊駕は無表情のままそう言い、つかんでいた男を仲間の方へ押し出す。
 Crazy Kids――渋谷のチームだ。

  「……知ってるの?」

 俚束は、自分の細い肩を抱いて紊駕の隣に並んだ。

  「今夜で3回目。この店は俺らの縄張りだ。って。」

 顔をゆがめる。
                                  ・  ・  ・
  「その通りだ。反抗はさせないぜ。俺らにはでっけぇバックがついてんだからよ。」
 
  「下の店は既に頂いたぜ。」

 にやり、男は口元を跳ね上げた。
        つづし
  「なっ……矜!!」

 その言葉をきいて俚束は店内から地下へ続く階段を転がるように下りていった。
 紊駕も男たちに睨みを利かし、その後を追う。
 
  「っ……りつ……か。」

 地下のライブハウス。
 店内は見るも無残な状態で、男が一人、床に腰を据えていた。

  「あんまりも素直じゃないんで、ちょっと痛い目に会わせてあげたよ。」

 やはりこっちも渋カジ風の男たちが店を埋めている。

  「矜さん。」

  「……みっ、紊駕かっ……」
      とくさ   つづし
 矜――木賊 矜。は、俚束の幼馴染で、共同経営者だ。

  「ちょーっとやりすぎじゃねーの?」

 矜の頬は赤くはれ上がり、唇も切れて、血がでている。
 その様子に上から階段を下りてきた男が嘲笑した。
   たつし
  「闥士はどーした。」
       あさわ    たつし                           ヘッド
 闥士――浅我 闥士。は、Crazy Kidsの頭だ。
 紊駕とは因縁の仲とでも言うべく男だが――、
 
  「さすが、如樹 紊駕だ。去年はおもしろいもん見せてもらったなぁ。」

 男の言葉に周りも一斉に笑った。
 ばかにする笑い。
 3年前に起こった事件を引き金に、起こった抗争。
 去年のクリスマス・イブ。
 湘南暴走族BADとBLUES VS Crazy Kidsと元BLUESの総統。
 既に族を辞めた紊駕も関わらざるを得ない抗争だった。
 詳細は、Planet Love Event 第四章 Bad Boys 恋愛事情を。

  「質問に答えろ。」

  「さぁな。今頃病院じゃねーの?」

 人をくったような言い方。
 周りの男たちも一斉に嘲笑。

 ――内乱。
                                      ヤクザ
  「今回は関わらねーほうが身の為だぜ?俺たちのバックは本業なんだからよ。」

  「そうそ。ねぇちゃん。今日からあんたは俺らの為に店やってくれよ。もちろん金はたぁっぷり払ってやるぜ。」

 俚束に向く。
 俚束は唇をかみ締めた。

  「あんたはかわいそうだけど、いらねーや。この店。出てってねぇ。」

 矜をあざ笑った。
 矜も黙ったまま、睨みつける。

  「手ぇ出したのは、誰だ?」

 紊駕が矜を見て、Crazy Kidsを睨み上げた。

  「やめろ、紊駕。」

  「紊駕。」

 矜と俚束が憂い帯びた表情で紊駕の名を呼んだ。
 乱闘にでもなって、学校にでも知られたら。と、2人は紊駕を心配していた。

  「俺だ。何か文句あっかぁ?」
                         ・  ・  ・
 やれるもんならやってみな。その代わりバックが黙ってないぞ。という態度。
 一人の男は背中を反らして、紊駕の前に仁王立ちした。

  「……紊駕っ!!」

 一瞬、店内が静寂した。
   ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・
  「もう一人のヘッドにゆっときな。ヤクザでも何でも連れて来い。ってな。」

 地の這うような凄みの利いた低い声。
 紊駕は床にはいつくばった男を見下した。
 鋭く、自信に満ちた顔。
 ヤクザなんか目じゃない。

  「……やっ、やばいよ。やっぱ如樹はっ……」

 ひそひそ、Crazy Kidsたちが小声で――、

  「だよな。……今ここで如樹と関わってる場合ヒマねーよ。」

  「だな。仕事が先決。」

  「命惜しいよ……」

 男たちは頷いた。
 そして、紊駕を見る。

  「悪かった。な、この通り謝るし、この店ももう手ぇ出さねぇって約束すっから。」

 全員が殊勝に頭を下げた。
 紊駕は男たちを睨み見る。

  「消えろ。」

  「はっはい!!」

 一斉に散り散りに逃げて言った。

  「……。」

 俚束と矜は顔を見合わせて――、

  「あんたって、かっこいー!!何で、何で?もーすっごーい強い!!」

 俚束が甲高い声を上げて、紊駕に抱きついた。
 紊駕は、それどころじゃないでしょ。と、いう顔つきをして、無残な店内を見渡す。

  「請求書はあいつらに送ってやりますから。」

  「え……いや、うん。ありがとう。」

 矜もその光景に呆然して――、

  「いや、まじビビッた。タイマンでするにしろ乱闘は避けれないって腹くくってたのに。ホント、ありがとう。」

  「本当よっ、あんたってば!」

 でも。と、矜は眉間に皺を寄せた。

  「ヤクザってゆってたろ。来たりしねーだろな……」

  「大丈夫ですよ。」

 紊駕が淡と言う。
 矜と俚束は紊駕の確信的な言葉に胸を撫で下ろす。
 紊駕がいうなら間違いない。

  「どーすっかなぁ。店は改装するとして……俺、いきなりプーかよ。」

 矜は頭を抱えた。
 店内を見回して、溜息。
 倉庫の楽器類は難を逃れたようで安心したが、営業できる状態ではない。

  「箜騎に頼もうか。ほら、お義父さん、横浜でライブ・ハウスの店長やってるから。」

  「まじ?……少し世話んなろーかな。」

 矜は散在しているイス等を片付けながら――、

  「やつら、何なんだ?」

 紊駕は無言。
 何かを考えているようだ。
 矜は溜息をついて、評判戻すの大変そうだわ。と、他人事のように呟いた――……。


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