
8 6月11日、日曜日。 みたか きさし 今日も、紊駕は葵矩と会うのをわざと避けるように、葵矩が部活へ行った後、家をでて横浜へ向かった。 「おはようござます。」 よぼる 丁寧に丁と挨拶を交わす。 私立横浜中央病院。 あさわ 「おはよう。浅我くん順調だぞ。本当に言わなくていいのか。紊駕くんが心配していること。」 「はい。」 あれから一ヶ月。 たつし 闥士は順調に回復し、もう松葉杖で歩くこともでき、リハビリも行っている。 紊駕は真っ白な壁伝いに歩いて――、 きさらぎ 「如樹さん。」 闥士の見舞いに来た、以前病院で会った3人組が紊駕に気付いた。 しみや 「ありがとうございました。……染谷のこと……」 闥士や、他の仲間にきづかれないように気を配って、一様に頭を下げた。 「……礼を言われるようなことしてない。……悪かった。」 ――如樹さんっ、助けてください!! 3人は顔を見合わせ、そんなことありません。と、口をそろえてもう一度礼をいう。 「……頼まれてくれないか。」 紊駕は3人に耳打ち。 3人は、快く引き受けてくれた。 「紊駕。」 病院を出ようとした紊駕に――、 「……闥士。」 松葉杖をついた闥士の姿。 髪は以前の肩まで垂れるストレートが、短髪になってすっきりとしていた。 ろざか つがい その隣には、ガタイのいい男――露坂 津蓋。 不意打ちを食らった。 気がついていたのだ。 紊駕が自分の怪我を知っていることを。 「……よけーなマネしやがって。」 尖った顎を跳ね上げた闥士。 そして、すぐさま翻した。 「如樹、ありがと。闥士さんの為に……。」 津蓋は、紊駕に早口で伝えた。 「闥士さん。殺られたとき、うわごとの様にいってた、如樹には絶対いうなって。……心配かけたくなかったんだ。……あの後、お前らとやりあったあとから、闥士さん変わった。俺らいい感じで。まじで、感謝してる。」 病室に足早に戻る闥士を垣間見ながら、津蓋。 紊駕は微笑して、そして津蓋にも頼みごとをした。 「わかった。」 「津蓋行くぞ!」 「あ、はい。じゃ、またな。」 闥士に促され、津蓋は右手を振った。 そして、紊駕は山下埠頭へ向かった。 「わかった、中華街だな。」 「OK、OK。暴れたくてうずうずしてた。」 こうき ヨコハマ ベイ ロード 箜騎たちYOKOHAMA BAY ROADも。 「あ、如樹さん。お久しぶりっす!」 ひりゅう 「今から、K学行くんすよ。ほら、飛龍さんたちライブやるって。」 「え?中華街ですか?」 BADの連中も。 「わかりました、もっと集合させます。」 「如樹さん、ありがとうございます!」 BLUESの連中も。 ものすごい数が集まった。 かいう 紊駕との、海昊との絆の強さを証明するように。 ――今朝、連絡があった。今日、中華街で一同が介する。 流れ行く様々バイクを見届け、紊駕はアクセルを吹かした。 あとは、海昊次第だ。 「先輩、いらっしゃい。」 紊駕は軽く会釈して家に上がった。 かすり 飛白は、満面の笑みで紊駕の腕を引っ張り、せかす。 「今日、クッキー焼いたんです。今持ってきますので、私の部屋で待っててくださいね!」 紊駕は飛白の部屋に向かった。 あれ以来、飛白は上機嫌だ。 ――ずっと側にいて。 窓から廊下へさんさんと注ぐ太陽。 真っ青な夏空。 もう夏だ。 ひさめ 明日は、あさざと氷雨の結婚式。 し な ほ そして、紫南帆の18歳の誕生日だ――……。 「おじゃまします。」 あさざと氷雨は、飛白の母親に手土産を渡し、丁寧にお辞儀をして家へ上がった。 明日の結婚式の最終打ち合わせ。 仲人である飛白の両親に挨拶に伺った。 「あ、氷雨さん、あさざさん。こんにちわ!」 飛白の元気な声に、2人は幾分ひきつった笑顔を見せ、挨拶を交わす。 「おお、来たか。今丁度娘がクッキーを焼いていてな。食べていってくれ。おいしいぞ。」 小太りした飛白の父親は、満面の笑みで飛白の肩を叩いた。 「だめよ、お父さん。一番先に先輩に食べてもらうんだから。」 飛白は、クッキーの乗ったお皿を父親から避けた。 「……。」 「……。」 2人は、顔を見合す。 ―― 一番先に先輩に食べてもらうんだから。 「これだ。全く。父親より紊駕くんか?」 「あたりまえですぅー。」 飛白は頬を膨らませて、2階へ――、 「あの。紊駕、来てるんですか?」 すかさず氷雨が尋ねた。 「ええ。飛白ったら大喜びで。」 「いやいや、氷雨くんたちが明日結婚式か。うちの娘も早くさせたいやらさせたくないやら。子供ができたらわかるぞ。うん。」 頷きながら氷雨の肩を叩く。 氷雨とあさざは無言で、もう一度顔を見合わせ、促されるままに応接間に入る。 二十畳ほどもありそうな部屋。 大理石の大きなテーブル。 動物の剥製、毛皮の敷物。 高価そうな壺。 「どうだ。準備は万端か。」 「はい。」 氷雨が頷くと、満足そうに笑って――、 「お前、飛白たちも呼んであげなさい。後学のためになる。」 その言葉に、氷雨とあさざは眉をひそめた。 飛白の父親はそんな2人の動向には全く気付かず、一人で頷いている。 「お父さん。」 「おお来たか。見てみろ。お前はドレスか?白無垢か?」 2階から降りてきた飛白は、父親の隣に腰をおろして、パンフレッドを見た。 「……。」 氷雨とあさざは、飛白と一緒に降りてきた紊駕を見る。 紊駕の瞳も2人をとらえた。 「先輩はどっちがいいですかぁ?うわーきれい!!」 飛白の腕にひかれ、紊駕が2人から瞳をはなす。 「……。」 氷雨とあさざは無言で、そんな紊駕を見た。 「あら。もうこんな時間。そろそろお昼にしますね。皆さん、食べていってくださいね。」 母親が時計を見て、氷雨たちに笑顔で言った。 「あたしも、手伝うわ。先輩待っててくださいね。」 飛白も母親の後をおって台所へ。 「あの……」 「あー、食べていきなさい。ほら、ほら。」 父親は立とうとする氷雨とあさざを制して、強引に座らせた。 自分は立ち上がり、用足しに向かう。 「……。」 3人の間に沈黙が漂った。 「あんた、まさか本気じゃないわよね。」 口火をきったのは、あさざ。 切れ長の聡明な瞳を紊駕に突きつけた。 「冗談じゃないぞ、お前。」 氷雨も紊駕を見た。 本人は無言。 どういうことだ。 何故、紊駕は飛白と付き合っている? 氷雨とあさざは声を交わさずに、目で会話した――……。 >>次へ <物語のTOPへ> |