第二章 Mixed Doubled 恋愛騒動
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   くが           さいり
  「久賀くん。菜梨ちゃん。」
 し な ほ                   たみん
 紫南帆は放課後、北明と菜梨を呼び出した。
 そう。
 パズルの絵は、もう一つあったのだ。


  「 41 33 24 44 83 33 92 11 31 04 51 36 40 49 50 」


  「助けて 強請り 嘲奈 T.K  S.Y 」

      さ ゆ か      たき
 そこに、白湯花と瀑もいる。
             そうみ
  「ど、どうしたんだ蒼海。」

 瀑が些かうろたえて、紫南帆の名前を呼んだ。
 その言葉に、紫南帆は――、

  「久賀くん、菜梨ちゃん。先生たちを困らせるのは、もうやめて。」

 居心地悪そうにうつむいていた白湯花が、顔を上げた。
 紫南帆は暗号を出す。

  「これ、作ったのは、白湯花ちゃんだよね。」

  「……。」

 目を泳がした。
 肯定。
                                              あざな
  「この、T.K S.Yっていうのは、Tamin Kuga と Sairi Yazaki ってことよね。嘲奈ちゃんはいってた。久賀くんに弱みを握られて、強請られたって。」

 北明は下をうつむいた。
 菜梨も。
 嘲奈はある現場を見てしまって弱みを握られて、強請られた。と、いっていた。
 ある現場。

  「私も見てたの。久賀くん。」

 北明が唇を噛んだ。
 南棟で見た人影。
 短い髪の毛の二人。
 初めは、二人とも男だと思っていたが、白湯花は一本で三つ編みにしている髪を前にたらしていることが多かった。
 ひょっとしたら、と思っていたのだ。
 北明の様子をみると、どうやら合っているらしい。
                         よこみぞ
  「……金がいるんだ。金……。だから、横溝を強請った。」

 唇に血が滲むほど、さらに噛んだ。
 拳を震わせている。
 嘲奈はお金をだした、と嘘でもついたのだろう。
 嘲奈も強請られていることを、白湯花は知った。
 
  「どうして……。」

 菜梨が北明の動向に――、

  「私のせいなの。私……。」

 小さな体を震わせて、一言一言、か細い声で菜梨は話した。
 菜梨は両親が離婚をして、父親に連れられたが、再婚相手に子供ができて、自分の居場所がなくなったと感じていた。
 家を出たい。
 でもお金ががない。
 そんな状況を彼氏の北明に相談していた。

  「そして、久賀くんたちは知った。……瀑先生と白湯花ちゃんが付き合っていることを。」

 紫南帆の言葉に、瀑と白湯花が顔を見合わせた。
 その様子に、自分の推理が当たっていることを認識した。

  「白湯花ちゃんは、自分がゆすられているのではなく、嘲奈ちゃんがゆすられているということを伝えて、私に久賀くんたちのことを知らせてくれたんだよね。何で、自分だといわなかったのか。」

 紫南帆が北明に問い詰めたら、自分と瀑との関係が知られてしまう。
 その数字の羅列が暗号だと断定した言い方。
 暗号がまだ解けていないといったときの、残念そうな表情。
 紫南帆は、そう結論付けていた。
 
  「菜梨ちゃんは、わざと瀑先生に反抗してみせた。授業をボイコットしたり、宿題をしなかったり。脅迫をしたんだよね。」

  「……瀑先生と白湯花が休みの日にデートしてるとこを見てしまった。それで、邪まな考えが浮かんだの。北明と一緒に暮らしたい。それには、お金と保証人がいる……。」

 瀑の名前で家を借りようと目論んでいた。
 
  「俺が、軽率だったんだ。白湯花が卒業したら、結婚するつもりでいる。でも今は教師と生徒の関係だ。軽々しく会ったりするべきではなかった。本当に申し訳ない。」

 瀑は、精一杯の誠意をみせて頭を下げた。
 白湯花への愛情が十分に込められている。
 白湯花は瞳を潤ませた。

  「やるじゃん、センセ。」
 アース
 Earthが教室の角で腕を組んでいた。
 マーズ    みたか
 Marsも紊駕もいる。
          きさし
 部活のはずの葵矩も。
 紫南帆を心配して来たのだった。
 その様子に、ありがとうと呟いて――、

  「菜梨ちゃん、久賀くん。こんなに二人好きあっているんだから、この力をほかの事で活かしていけばいんじゃないの?二人ならきっとできると思うな。」

 紫南帆の言葉に北明が菜梨の肩を抱いて、謝罪をした。
 今回、二つの事件が微妙に繋がっていて、騒動をおこしてしまった。
 心の闇。
 悪いことだとわかっていながら、自分にブレーキをかけられない。
 お金が欲しいあまりに強請りを犯す。
 自分の非を認めたくないあまりに、ウソをつく。
 そのウソを取り繕うため、さらなる犠牲をだす。
 出さざるを得なくなる。
 そうして、止まらなくなる。
 坂道を転がり落ちるボールのように。
 何かに当たらなければ、止まれないー―……。


  「Earth、Mars、日本をキライにならないでね。」

 新東京国際空港。
 紫南帆たちは、EarthとMarsを見送りにきた。
 お盆にさしかかり、空港はとても混雑していた。
 出国ゲートの前で、最後の挨拶を交わす。
 せっかく日本にきたというのに、事件に巻き込まれて、Marsは、特に、恐い思いをしただろう。
 そんな紫南帆に、

  「NewYorkはもっと危険だよ。」

 Earthは紫南帆の頭を優しく叩いた。
 英語に直して、Marsの同意も得る。
 
  「いつか、New Yorkにおいで。次会う時――、」

 紫南帆がFreeだったら、俺がもらうからな。
 Earthは、手を銃の形にして、紊駕と葵矩に差し向けた――……。


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