6 あざな あのポケットベル、嘲奈ちゃんの彼氏のだったのかな。 し な ほ 紫南帆は、廊下側の嘲奈の背中を見つめる。 アース 朝一番で、Earthが嘲奈にポケベルの話をする、といってポケベルをもっていったのだ。 もし、それならそうで、騒ぎ立てる気持ちは全くなかった。 嘲奈がそのポケベルを受け取って、彼氏に返せばよいのだ。 ただ、彼氏が現場から逃げたということが事実で、それを知ることになれば……。 と、ちょっと気の毒に思ったのだ。 それに、妊娠の件も……。 「紫南帆ちゃん。」 いつの間にか、授業が終わっていた。 よこみぞ さ ゆ か 隣の席の横溝 白湯花が、顔を覗き込んでいた。 「あ、何?ごめん。」 白湯花は、つぶらな瞳を細めて、長く一つに三つ編みをした髪をいじっって――、 「紫南帆ちゃんって推理の才能あるんだってね。」 満面の笑み。 「え。」 「推理小説もすぐ犯人わかっちゃうんでしょ。暗号もカンタンに解けちゃうし。去年の事件も解決しちゃうし。」 すごいねー、とはしゃいでみせる。 紫南帆は、 「せーお。」 せお 後ろの席の瀬水を軽く睨んだ。 当人は、口笛を吹く真似をして天井を仰ぐ。 あることないことを、大げさに吹聴したのは明白だった。 「だって。本当のことだもん。暗号とかもすーぐ、ね。」 ね。ではない。 紫南帆は困った顔をして、 「そんなにすごいもんじゃないよ。ただ、推理小説は好きなの。」 白湯花に言った。 「じゃあ。」 と、一気に白湯花の顔色が曇った。 そして、一枚の便箋を紫南帆に渡した。 「 41 33 24 44 83 33 92 11 31 04 51 36 40 49 50 」 「何これ。」 瀬水が覗き込む。 白湯花は、首をかしげて、拾ったの。と呟いた。 「……。」 また、暗号?紫南帆はため息をついた。 机に肘をついて額を覆う。 「ごめん。迷惑だった……よね。紫南帆ちゃんにもってくるなんて。」 そんな紫南帆に、白湯花は本当に申し訳なさそうに言った。 「あ、ううん。そうじゃなくて。大丈夫、迷惑なんかじゃないよ。」 去年の件が、ある種トラウマになっている紫南帆は、こういった事件に関連するかもしれない類のものに、自然と不安に襲われる。 その上、正義感が強いので、ほおってはおけないのだ。 去年の件というは、Constellation Love Event を参考に。 「これ、預かっても問題ない?」 「もちろん。」 白湯花は、ほっとした表情をうかべて、大きく頷く。 「また、なんかありそうだね〜!」 楽しそうな瀬水に、紫南帆は唇をとがらせて、睨んだ。 「ね、ね。白湯花ちゃんって、彼氏いるの?」 瀬水はわざと話をずらして、白湯花に向き直る。 白湯花は、その突然の言葉に、頬を染めた。 「あ、その顔はいるな〜!誰々?」 全く、瀬水の知りたがりにも困ったものだ。 白状しろ〜、と白湯花をつっついている。 「だめだから……。」 「え。」 白湯花は、表情を曇らせて、下をむいて呟いた。 唇をきつく結ぶ。 「かなわない恋をしてる顔〜。だめだよ、不倫とかは。」 そんな、白湯花をよそに、瀬水はあっけらかんといった。 こら、と紫南帆は瀬水をしかって――、 「そんなんじゃないってば。もう瀬水ちゃんはぁ。」 白湯花は、笑顔を取り戻して笑った――……。 「どうだった?」 昼休み、いの一番でEarthに駆け寄った。 Earthは金髪の長い前髪を揺らす。 「知らないって。」 「そう。じゃ。彼氏じゃないのね。」 少し、ほっとしたのもつかの間、 「どうかな。」 Earthは、厳しい目をした。 ブロンドの眉毛と眉毛の間に皺がよった。 「目が泳いでた。ウソをつく奴の典型だ。」 Earthは断定した。 つまり、嘲奈はあのポケベルに、少なくとも見覚えがあるということだ。 やはり、ホテルにいたことを隠すためにウソをついたのだろうか。 帰りのHRが始まって――、 やざき 「夜咲、あとで職員室に来なさい。」 たき さいり 瀑が心底困ったような顔をして、仏頂面の菜梨に言った。 菜梨は返事すらせずに、下を向いたままだ。 紫南帆は瀑と菜梨を交互に見る。 先生、ちょっとやつれたみたい……いつもの爽やかな笑顔が、曇っている。 両目の下に隈があるようにも見える。 本当にどうしたのだろう。 紫南帆は、瀑と菜梨をもう一度見た――……。 「そうだ、紫南帆、今度の土曜日デートしようよ。」 Earthは薄い唇をUの字に曲げた。 端整でクールな顔つきが一瞬にして幼くなる。 小さい頃の面影がのこっているのは、この唇か。 紫南帆はそんなこと思いながら、 「デート?」 復唱した。 夕食も終わって皆でくつろいでいる、リビング。 両親たちは各々のことをしていて、ここにはいない。 「そ。残り少ない日本生活、やりのこさないようにしないとね。」 Earthはウインクをしてみせた。 きさし その表現と表情に、反応したのはやはり、葵矩だ。 「お、俺もいっていい?」 「え、飛鳥ちゃん、部活は……?」 悪気なく紫南帆。 「休む。」 三度の飯よりサッカーが好きな葵矩が、意を決していった言葉にEarthは、失笑して――、 「デートに三人でいってもねぇ。」 からかう顔で葵矩を見る。 「……。」 「ってジョーク。Calm Down Kisashi. 」 Earthは葵矩の肩をたたいた。 葵矩は無言。 みたか 「わかった、わかった。紊駕を連れて行くからさ、Get It ? 」 名前を出された紊駕が、うんざりした顔つきをした。 Earthは、見張り役。と、白い歯をこぼして見せた。 葵矩ってかわいい。と含み笑い。 「?」 相変わらず天然な紫南帆は、気がつかない。 と、いうよりも。 紫南帆には、気になることがたくさんあった。 嘲奈のこと、菜梨のこと。 ポケベル。 そして、あの暗号らしきもの。 数々の事象。 パズルを組み立てる前のピースのようだ。 もっとも。 本当にそれが一つの絵になるのかは不明という点では、パズルのほうがたやすい。 紫南帆は胸騒ぎを覚えずにはいられなかった――……。 「 41 33 24 44 83 33 92 11 31 04 51 36 40 49 50 」 >>次へ <物語のTOPへ> |