5 「学校、どう?」 きさし アース 葵矩は、食べ終えた夕食の食器をまとめながら、Earthに尋ねた。 「女の子にモテて楽しいよ。日本人の女の子はかわいいよね。」 「……。」 言葉が見つからないらしく、乾いた笑いをしてみせた。 何故か頬を赤く染めて。 「Hey, Guess What ! 」 し な ほ そんな葵矩を気にせず、洗い物をする紫南帆の背中に、 「おもしろいコトがあったよ。」 薄い唇を跳ね上げた。 振り返った紫南帆に、Earthは紫南帆の耳元に顔を近づける。 唇が触れそうな距離。 「……。」 そんな光景に、葵矩の動向が止まった。 コップが葵矩の手の中で、宙に浮いている。 何かを耳打ちしながら、Earthは紫南帆の肩に手を置いた。 綺麗な髪を撫でる。 「……。」 みたか それを見ていた紊駕が、宙に浮いているコップを奪い取った。 「あ。」 葵矩を横目で一瞥する。 呆れた瞳。 葵矩は唇を軽く尖らせた。 わかりやすい奴だ。 そこが葵矩のいいところでもあるのだが。 「You Love Her.」 マーズ Marsが的を得た発言をして、細く長い腕を組んだ。 「え。」 次の瞬間、Marsは不適な笑みを浮かべて――、 「SHINAHO〜!!」 「わっ!ちょっ、ちょっと、たんま!!」 葵矩は、勢い良く立ち上がってMarsを制した。 「Oh〜 ! 」 Marsがあからさまに残念そうに呟く。 「?」 紫南帆は、自分が関係していることなど気づかない様子で、再びEarthに向き直り、 あざな 「そしたら、嘲奈ちゃんあのポケベルのこと何か知ってるかもね。」 人差し指を口元に運んだ。 「何?どうしたの?」 葵矩が、話題を変えようと紫南帆に尋ねた。 ひろさわ あざな 「実は、うちのクラスの広澤 嘲奈ちゃんが、あの火災に巻き込まれていて、Earthが救助したんだって。そのときにEarthが、あのポケベルを拾ったらしいから、何か知ってるかもって。」 「へーそうなんだ。そんな偶然ってあるんだね。」 Earthは、金曜の夜、偶然通りかかったレストランの前で、火災に出くわした。 何人か救助の手伝いをしたらしく、その中の一人が嘲奈だったのだ。 そして、偶然にも学校で再会したというわけだ。 「あ、それで嘲奈ちゃん、左肘に絆創膏はってたんだ。怪我たいしたことなさそうなんだよね?」 Earthの頷きに、良かった。安堵のため息をつく。 「それにしても、食事中に火災なんて災難だったよね。」 葵矩の言葉に、Earthの表情が変化したのを見逃さなかった紊駕は――、 「明日、ポケベルのこときいてみるよ。」 「やめといたほうがいいな。」 紫南帆の言葉をさえぎった。 「え?何で。」 ダイニングのイスに腰掛けていた紊駕は長い脚を組みなおした。 Earthを見上げる。 「ラブホの前だろ。お前が広澤を助けたの。」 「That's Right. でもいくだろ、ホテルくらい。」 さらりとEarthは言って見せたが――、 「え?」 一瞬にして頬を紅くする葵矩。 「そっか。レストランじゃなかったんだ。」 マトの外れたことをいう紫南帆。 「で、でも。逃げてきたのかも。」 葵矩が嘲奈を弁護するようにいった。 些か声がうわずっている。 「シャツ一枚でレストランにいるとは思えないな。」 「露出狂じゃなければな。」 Earth言葉に紊駕。 紊駕が二人いるみたいだ。 「まあでも。ニンシンはまずいかもね。」 「ニンシンって,、妊娠?」 さすがに紫南帆も驚いて見せた。 Earthが助けたとき、嘲奈はお腹の子供を気にしていた。 「それにあの男が彼氏だと思うんだけな。Poket Bellの。」 Earthがいうには、嘲奈を助けていたときに逃げ去ったという、男。 これは嘲奈の彼氏で、ポケベルはその男のものということらしい。 「ってことは、彼女が階段から落ちたっていうのに……。」 逃げた。 「しかも、医者。」 紊駕の言葉に紫南帆と葵矩が振りかぶる。 「ありえない。」 Earthが、本当に憤怒した様子で、最悪だ、とはき捨てた。 明日、俺が訊いてみる、と。 それにしても、それが本当なら、嘲奈は深く傷つくのでは……。 医者の彼氏が、怪我をしている自分をおいて逃げた。 しかもお腹には子供が……。 「……。」 まだ、紫南帆の手元にある、黒の平べったい物体。 ポケベルが不気味に笑ったように見えた――……。 >>次へ <物語のTOPへ> |