第二章 Mixed Doubled 恋愛騒動

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  「学校、どう?」
 きさし                                                              アース
 葵矩は、食べ終えた夕食の食器をまとめながら、Earthに尋ねた。

  「女の子にモテて楽しいよ。日本人の女の子はかわいいよね。」

  「……。」

 言葉が見つからないらしく、乾いた笑いをしてみせた。
 何故か頬を赤く染めて。

  「Hey, Guess What ! 」
                         し な ほ
 そんな葵矩を気にせず、洗い物をする紫南帆の背中に、

  「おもしろいコトがあったよ。」

 薄い唇を跳ね上げた。
 振り返った紫南帆に、Earthは紫南帆の耳元に顔を近づける。
 唇が触れそうな距離。

  「……。」

 そんな光景に、葵矩の動向が止まった。
 コップが葵矩の手の中で、宙に浮いている。
 何かを耳打ちしながら、Earthは紫南帆の肩に手を置いた。
 綺麗な髪を撫でる。

  「……。」
           みたか
 それを見ていた紊駕が、宙に浮いているコップを奪い取った。
 
  「あ。」

 葵矩を横目で一瞥する。
 呆れた瞳。
 葵矩は唇を軽く尖らせた。
 わかりやすい奴だ。
 そこが葵矩のいいところでもあるのだが。

  「You Love Her.」
 マーズ
 Marsが的を得た発言をして、細く長い腕を組んだ。

  「え。」

 次の瞬間、Marsは不適な笑みを浮かべて――、

  「SHINAHO〜!!」

  「わっ!ちょっ、ちょっと、たんま!!」

 葵矩は、勢い良く立ち上がってMarsを制した。

  「Oh〜 ! 」

 Marsがあからさまに残念そうに呟く。

  「?」

 紫南帆は、自分が関係していることなど気づかない様子で、再びEarthに向き直り、
         あざな
  「そしたら、嘲奈ちゃんあのポケベルのこと何か知ってるかもね。」

 人差し指を口元に運んだ。

  「何?どうしたの?」

 葵矩が、話題を変えようと紫南帆に尋ねた。
                ひろさわ  あざな
  「実は、うちのクラスの広澤 嘲奈ちゃんが、あの火災に巻き込まれていて、Earthが救助したんだって。そのときにEarthが、あのポケベルを拾ったらしいから、何か知ってるかもって。」

  「へーそうなんだ。そんな偶然ってあるんだね。」

 Earthは、金曜の夜、偶然通りかかったレストランの前で、火災に出くわした。
 何人か救助の手伝いをしたらしく、その中の一人が嘲奈だったのだ。
 そして、偶然にも学校で再会したというわけだ。

  「あ、それで嘲奈ちゃん、左肘に絆創膏はってたんだ。怪我たいしたことなさそうなんだよね?」

 Earthの頷きに、良かった。安堵のため息をつく。
 
  「それにしても、食事中に火災なんて災難だったよね。」

 葵矩の言葉に、Earthの表情が変化したのを見逃さなかった紊駕は――、

  「明日、ポケベルのこときいてみるよ。」

  「やめといたほうがいいな。」

 紫南帆の言葉をさえぎった。

  「え?何で。」

 ダイニングのイスに腰掛けていた紊駕は長い脚を組みなおした。
 Earthを見上げる。

  「ラブホの前だろ。お前が広澤を助けたの。」

  「That's Right. でもいくだろ、ホテルくらい。」

 さらりとEarthは言って見せたが――、

  「え?」

 一瞬にして頬を紅くする葵矩。

  「そっか。レストランじゃなかったんだ。」

 マトの外れたことをいう紫南帆。

  「で、でも。逃げてきたのかも。」

 葵矩が嘲奈を弁護するようにいった。
 些か声がうわずっている。

  「シャツ一枚でレストランにいるとは思えないな。」

  「露出狂じゃなければな。」

 Earth言葉に紊駕。
 紊駕が二人いるみたいだ。

  「まあでも。ニンシンはまずいかもね。」

  「ニンシンって,、妊娠?」

 さすがに紫南帆も驚いて見せた。
 Earthが助けたとき、嘲奈はお腹の子供を気にしていた。

  「それにあの男が彼氏だと思うんだけな。Poket Bellの。」

 Earthがいうには、嘲奈を助けていたときに逃げ去ったという、男。
 これは嘲奈の彼氏で、ポケベルはその男のものということらしい。

  「ってことは、彼女が階段から落ちたっていうのに……。」

 逃げた。

  「しかも、医者。」

 紊駕の言葉に紫南帆と葵矩が振りかぶる。

  「ありえない。」

 Earthが、本当に憤怒した様子で、最悪だ、とはき捨てた。
 明日、俺が訊いてみる、と。

 それにしても、それが本当なら、嘲奈は深く傷つくのでは……。
 医者の彼氏が、怪我をしている自分をおいて逃げた。
 しかもお腹には子供が……。
 
  「……。」

 まだ、紫南帆の手元にある、黒の平べったい物体。
 ポケベルが不気味に笑ったように見えた――……。


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