第三章 Ego-Ist 恋愛感情

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  「おぎゃあ、おぎゃあっ!!」

 高く澄み渡った青い空の下で、二人の赤子の声がけたたましく響いた。

  「はいはい。泣かないで。」

 よちよち、と優しい笑みで笑いかけ、彼女は困った顔をする。
 山々に囲まれたひっそりとたたずむ、孤児院。
 バスケットの中に、ブルーのタオルとピンクのタオル。
 それぞれ横たわる幼い子。
 母親の手元から離れた二人の子どもは、何かを感じたのか、一向に泣き止まない。
 彼女は、この後の二人の人生を案じて、優しくいたわるように抱きしめた。
 九月だというのに、春のような優しい陽気が二人を包み込んだ――……。


  「完璧だ。」

 薄暗い部屋の中。
 彼は笑みを浮かべた。

  「これで、皆幸せになれるよ。」

  「本当?」

 彼女は、本当に嬉しそうに笑った。
 大きめの口を緩ませる。

  「もちろん。お前もだよ。」

 彼は部屋の角で、座っている彼女に向き直る。

  「うん。」

 彼女はうつむいていた顔を上げた。
 癖のない綺麗な黒髪が揺れた。


  「みんな幸せになれたら、いいのに。」

 別の一室で、彼は呟いた。
 伏し目がちな目。
 見かねて――、

  「……なあ。俺。行くよ。お前のためだけじゃなくて、自分のためもあるから。」

  「本当か?たのむよ。」

 彼は遠くを見るように微笑した。
 春は、もう、すぐそこにきていた――……。


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