1 「おぎゃあ、おぎゃあっ!!」 高く澄み渡った青い空の下で、二人の赤子の声がけたたましく響いた。 「はいはい。泣かないで。」 よちよち、と優しい笑みで笑いかけ、彼女は困った顔をする。 山々に囲まれたひっそりとたたずむ、孤児院。 バスケットの中に、ブルーのタオルとピンクのタオル。 それぞれ横たわる幼い子。 母親の手元から離れた二人の子どもは、何かを感じたのか、一向に泣き止まない。 彼女は、この後の二人の人生を案じて、優しくいたわるように抱きしめた。 九月だというのに、春のような優しい陽気が二人を包み込んだ――……。 「完璧だ。」 薄暗い部屋の中。 彼は笑みを浮かべた。 「これで、皆幸せになれるよ。」 「本当?」 彼女は、本当に嬉しそうに笑った。 大きめの口を緩ませる。 「もちろん。お前もだよ。」 彼は部屋の角で、座っている彼女に向き直る。 「うん。」 彼女はうつむいていた顔を上げた。 癖のない綺麗な黒髪が揺れた。 「みんな幸せになれたら、いいのに。」 別の一室で、彼は呟いた。 伏し目がちな目。 見かねて――、 「……なあ。俺。行くよ。お前のためだけじゃなくて、自分のためもあるから。」 「本当か?たのむよ。」 彼は遠くを見るように微笑した。 春は、もう、すぐそこにきていた――……。 >>次へ <物語のTOPへ> |