第三章 Ego-Ist 恋愛感情

                          3  葵矩の章


  「同窓会か。」
 きさし
 葵矩は、自室で再度ハガキを手に取った。
 整頓はされているが、スポーツ雑誌やポスター、サッカー関連のものばかりで埋め尽くされた部屋。
 サッカーが大好きなのだ。
 幼い頃から夢中になっているサッカー。
 シュートを入れる瞬間、決まった瞬間はもちろんだが、仲間との気持ちが一つになる時が、葵矩にとってはたまらない。
 サッカーをやっていて、よかったと心から思える。

 そして、本棚の上に飾られた数々のトロフィーが葵矩の実力を証明している。
 十番、エースストライカー。
 高校に入学してからも、一年生からずっと背負っている。
 葵矩の通うS高は、サッカーでの名声はない。
 でも、名声のない高校で全国大会を目指したい。
 昨年卒業した、憧れの先輩の口癖だった。
 葵矩もその気持ちに賛同していた。

 中学時代から群を抜いていた葵矩は、いろいろな高校から推薦が来ていたが、全て断ってS高に入ることに決めていた。
 そして理由のもう一つに、
                        し な ほ
  「三人で出かけるの久しぶりだよな。紫南帆もよろこんでたし。」
       みたか
 紫南帆も紊駕も同じS高校だからだ。
 幼い頃からずっと一緒にいた三人。

  「紫南帆はかわってないよなぁ。」

 独りごちた。
 容貌はどんどん女性らしく綺麗になっていくが、性格は変わらない。
 正義感が強くて、優しくて、他人を第一に考える。
 ヴィーナスのような彼女。
 読書好きで推理が得意なわりには、どこか天然でかわいい。
 葵矩は、そんな紫南帆が大好きだった。
 そんな幼少時代を思い返しながら、葵矩は床についた――……。

   いぶき じゅみ
  「檜 樹緑さんだ。」

 新学期が始まった教室で、担任が転入生を紹介した。
 すらっとした背にストレートな黒髪が肩まで伸びている。
 切れ長で、少しあがった目尻が、知的さを表しているようだ。
 自分の名前と、挨拶を淡々とこなして、席についた。
 大人し目の印象。
 葵矩はふと隣を見た。
            いおる
  「……どうした?尉折。」
 てだか   いおる
 豊違 尉折、同じサッカー部でとりわけ仲がいい友人だ。
 いつもなら、女の子をみると、かわいいとか彼女にしたい。とかいっているのに。と葵矩は思う。

  「何でも、ないよ。」

 妙にしおらしい尉折。
 短髪をかきむしるように腕を動かした。
 尉折は、今年の四月に引っ越してきて、サッカー部に中途入部した。
 中途入部にもかかわらず、サッカーセンスは抜群で、すぐにレギュラーに抜擢。
 以来、葵矩の右腕となっている。
 いつも陽気で、冗談ばかり言っているが、葵矩にとって気の置けない友人である。

 授業と授業の合間。
 葵矩は次の移動教室のため、教室を出ると、廊下で尉折の姿を発見。

   「ふぅ。」

 思わずため息をつく。
 尉折がいつの間にか、先ほどの転入生と話をしていたからだ。
 まったく、尉折の女の子好きにも困ったもんだ。と些か呆れる。
 でも。
 正直なところ、葵矩は少しうらやましくも思っていた。
 どうも、女の子は苦手だ。
 何度か告白をされたが、どう断っていいのかいつも迷ってしまう。
 どう断るか。
 そう、結果はいつも決まっていた。
 付き合うことを選択することはないだろう。
 なぜなら、もうずっと、一人の女の子だけをみているのだから――……。


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