V -FEELING-
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 <第七十四回、全国高校サッカー選手権大会。厳しい予選を勝ち抜いた代表四十八校が一同に集い、ここ東京国立競技場で開会式を迎えました。>

一九九五年、十二月三十日。
澄晴の空の下、開会式が開催された。

 <前年度優勝の静岡県代表S高等学校に一年間保管された優勝旗が国立に戻ってきました。今年、この大優勝旗に名前を刻むのは果たしてどの学校か。これから、連覇を狙う静岡S高校を先頭に北海道から沖縄まで四十八校の入場行進です。>

放送アナウンスが促すと同時に、

 <全国高校サッカー選手権大会、開会式。前年度優勝校、静岡県代表S高校。>

グラウンドアナウンスが国立の競技場に響き渡り、満員の観客の盛大な拍手と歓喜の声に、選手たちが入場してきた。

静岡県代表S高校。

 <前年度、そしてその前回も優勝旗を手にしました。今年も連覇を狙っています>

大優勝旗、小優勝旗、そして校旗を風になびかせ列を成す。
青と白のユニフォーム。
はくあ     きずつ するが   すみなり  かつおぎ  えにし
穿和 創、駿牙 速晴、喝荻 縁。
この三人を要として過去三年間大会史上初の高得点をマーク。
高校サッカー界はもちろん、プロサッカー界にまで注目を浴びた。
その三人は、去年卒業。
きさし                                          くるわ たりき
葵矩が大学入試、抽選会で会った郭 托力を用する静岡新生S高ということだ。
サッカー王国静岡。
特にS高校は、技術、設備、そして部員数においても他を凌ぐ。

北海道代表U高校。

 <全校生徒約三百人の小さな学校が、選手権の常連となりました。前回ベスト四の北海道U高校。昨年度の雪辱を果たしにきました。>

去年、葵矩たちが準決勝で戦った相手だ。
                       くりま     う き や
スイーパー、リベロ、特異ポジションの栗馬 羽喜夜は二年生。
黒と白のユニフォーム。
今年もエースナンバーを背負っている。

日本列島を北から順に紹介され、グラウンドに整列。

群馬県代表S高校。

 <今大会初出場。大会の常連校で強豪のM高校を破り、国立の芝を踏みました。>
                 かたぬぐ せつた
葵矩が大学入試で会った、袒 雪駄がいる学校だ。
深い緑色のユニフォーム。

東京A代表T高校。

 <去年は一試合目から悪カード、静岡S高校に破れ、初戦敗退。苦戦を強いられました。しかし、そんな逆境にめげず、再び舞い戻ってきました。>

そして、葵矩たちS高が呼ばれた。

 <神奈川県代表S高校。前大会、初出場にもかかわらず、準優勝。静岡県代表S高校とすばらしい戦いをしました。今年は優勝を狙っています。>

葵矩は高々と校旗を掲げた。
また来れた、国立。
今年こそ――、

一歩踏み出す。
皆も倣った。

小優勝旗を掲げるカフス。
いおる    るも      や し き
尉折、流雲、夜司輝。
皆。
皆、同じ気持ちでこの国立の芝を踏みしめた。
水色と白のユニフォームに身を包んだときから。
心は、一つ。

――全国優勝。

大阪府代表S高校。
山口県代表T高校。

そして――、

鹿児島県代表K高校。

 <去年初出場でベスト八。今年はその上を狙っています。>
       わしは     れつか
去年戦った鷲派 烈火のいる学校だ。

北は北海道、南は沖縄まで。
代表四十八校が、青空の下に揃った。

 <それぞれの目標を抱き、集まった四十八校、九百六十人の選手たち。大きな期待を胸に、憧れの国立、緑の芝を踏みしめ整列です。>

全国高校体育連盟サッカー部部長の開会宣言。
厳かな態度で、白髪頭の五十代後半の男が前に立ち――、

 「平成七年度、第七十四回、全国高校サッカー選手権大会の開会を宣言します。」

青、白、黒、水色、緑、黄、桃、橙、様々なカラーのユニフォーム。
各々の校旗を持つ主将を先頭に集う。

 <優勝旗返還。>

去年度優勝校S高校の主将と副将が大優勝旗を持ち、前へ進む。
優勝カップを返還する、托力。
静岡の副将らしい。

日本サッカー協会会長の挨拶。
背広姿の四十代後半の男が前に立つ。

 「ここに集まっていただいた諸君の中から、必ず、日本を代表して闘ってくれる選手がでるということを、確信しています。」

軽く微笑んだ。

 「キックオフからタイムアップまで、全力で戦ってくれることを強く念願します。」

丁寧に締めくくった。

日本代表か。
葵矩は世界を見た。
果てしなく広がる大空。
いつか、きっと――……。

 <続きまして、選手宣誓――……>

来た。
葵矩の心臓が音をたてた。

 <先日行われた抽選会でひかれたカードは、トーナメント番号四十八番。>

 「飛鳥せんぱい、ふぁいと!!」

後ろから流雲の声。
                   あすか    きさし
 <神奈川県代表S高等学校、飛鳥 葵矩キャプテンによる、選手宣誓です。>

葵矩は一息吸って、前へでた。
その後を四十八の様々な色の校旗が追い、中央に寄る。
S高の旗は、副将である尉折が掲げている。

 「ファイト。」

背中からの尉折の声に――、

 「宣誓――!!」

葵矩が右手を挙げると、四十八の校旗が中心に傾く。

 「ここに集う我々は、日本代表、大舞台のピッチに立つことを夢見て。」

切れの良い、よく通る葵矩の声が、グラウンドに響き渡る。

 「純心に且つ紳士に、そして、誇り高く、タイムアップまでプレーすることを誓います。」

歯切れ良く切る。

 「平成七年、十二月三十日、神奈川県代表S高等学校、サッカー部主将。飛鳥 葵矩。」

一斉に花火が打ち上げられた。
クラッカーがはじけ、大空を舞うカラーテープ。

 <これまで数々の名選手、名勝負、スーパーゴールを生んできた全国高校サッカー選手権大会。いよいよその頂点を決める熱戦がスタートします。>

観客の拍手。
歓喜の声、声、声。

 <ベスト八が出揃うのは一月三日。一月七日、国立の舞台に立てるのはわずか四校。一月八日決勝戦は、午後十四時キックオフです。果たして、今年はどんなドラマが待っているのでしょうか。無限の可能性を秘めた選手たちが、今、輝く時を迎えました――!!!>


 「飛鳥せんぱい、最高かっこよかったですぅ――!!」
        ・  ・
宿舎に着くと再び流雲に抱きつかれた。

 「くっ、苦しいって流雲。」

洋風の四人部屋。
昨年は和室の宿舎であったが、今年はホテルだ。

 「ホンマ、惚れ惚れしたわ、ワイ。」

カフスも、

 「本当かっこよかったです。」

夜司輝も。
           ・  ・
 「あーあ。これでまた有名になっちゃうなぁ、お前ぇー。」

冗談ぽく悔しそうな顔の尉折も。
先程の選手宣誓の話で盛り上がっている。

 「有名って……大げさな。」

葵矩は四人を見回す。
四人部屋を五人で使用しているが、それほど狭くは感じない。

 「ほーんとですよ。ますますせんぱいが遠くなっちゃうようで、僕さみしいです。」

流雲は、葵矩の座っているベッドに腰下ろして肩を落とした。

 「……あのねぇ。」

 「いつまでも、僕の側にいてくれますよね。」

上目遣いで人恋しい瞳。

 「はい、はい。」

とりあえず返事をしておく。
その返事にあからさまに大喜びをして抱きつく流雲。
首にじゃれついた猫……犬……いや、猿?は、さておき。

 「そろそろミーティングの時間だ。」

時計をみて立ち上がった。
大広間に向かい――、

相変わらずの仏頂面で、監督は今度のスケジュール、必要事項などを簡潔に言うと、皮肉を交えて最後にいった。

 「後はお前ら責任をもって行動しろ。ま、せいぜい三が日はここで迎えられるように祈っててやろう。」

三が日。
シードの葵矩たちは、年明けの二日に初戦を迎えるのだ。
そんな皮肉を前向きに解釈して、

 「はい。」

葵矩たちは監督に頭をさげた――……。


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