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あすか
「ねーね。飛鳥せんぱい。遊びいきましょうよ〜!」
るも
各自の部屋に戻って、さっそく流雲が口火を切った。
今日一日はフリータイムなんですから。と、ここぞとばかりに誘う。
きさし
愛嬌のある顔が葵矩を覗き込む。
「ええな。ワイ、東京見物したいわ。いこうで、葵矩。」
カフスの声に――、
「なあーにいってんですか。飛鳥せんぱいは僕といくんです。僕と!」
「ワレこそ遠慮せぇや。先輩をたてること知らんのか。」
「何ですかぁそれ、知りませんねぇ。」
また始まった。
いおる や し き
葵矩と尉折、夜司輝は同時に溜息をつく。
「ほっんま、でかい態度やなぁ。」
「だいたい先輩なら、少しは後輩に優しくしたらどーです?」
「優しいやない。こんなに。ワレ以外の後輩に。」
相変わらずの言い争いを横目に、
「だいたいお前が争いのネタなんだよな、いつも。」
ベッドに寝そべって葵矩に視線を移す尉折。
「……何だよ。俺が悪いみたいじゃないか。」
頬を膨らます葵矩。
そんな中、部屋の外からこちらに向かってくる足音――、
「あっそびいきましょ――!!」
あつむ わかつ のりと そのう
厚夢、和喝、祝に弁。
ノックなしにドアを開いたと思ったら、元気良く声を揃えた。
結局。
皆で出かけることになり――、
去年は初めての全国を前に緊張したんだけど、な。
と、葵矩は肝が据わっている厚夢と和喝を見た。
そして、
「そうだ。」
大勢で外に出ようとして、足をとめる。
「マネージャーも連れて行こうよ。」
「え?」
葵矩からの珍しい提案に、皆も動きを止めた。
いぶき
っていうか、檜。と、付け加える。
・ ・ ・ ・ ・
ナンパ防止だ。
てだか
「せやなぁ。豊違はおいていくべきかもなぁ。」
「そーですねぇ。やっぱ彼女がいる人連れていけないですもんねぇ。」
「こーゆー時だけ意気投合すんな!」
やっぱ、ナンパ目的かよ。
葵矩は眉をひそめる。
と同時に昨年を思い出す。
明治神宮でのナンパ。
それがきっかけで、一悶着あったのだ。
詳しくは
Tomorrowで。
最終的に、
「ありがとう、飛鳥くん。」
「あたしも……。」
じゅみ つばな
樹緑と茅花と一緒に行動することになった。
樹緑は、私がいてもナンパするかもしれないけどね。と、尉折を睨む。
「誤解だよ、じゅみちゃん。別にナンパしに行こうとしたんじゃないんだからぁ。」
「信じない。」
十一人。
ぞろぞろと代々木公園に向かっている。
代々木公園。
戦後のワシントンハイツが、東京オリンピック選手村となり、そして公園として整備された、都内ではめずらしい、広々とした公園だ。
明治天皇、昭憲皇太后を祀る、明治神宮もある。
「やっぱすいてますね〜。一日はめちゃくちゃこんでましたもんねぇ。」
もう散り落ちた枯葉も冬の風にとばされ、裸の木々が肩を並べている。
時折、乾いた音を奏でる。
「去年、初詣いったんですか?」
・ ・
「正確には、今年だけどな。そりゃ、大勢いたよ。」
和葛と尉折の会話に、
その大勢いた中で、十五分以内にナンパして落ち合おうなんて、いったのは何処の誰だっけ。と、心の中で呟いて尉折を睨んだ。
落ち合う場所さえ決めてなかったんだから。
今年は私服だし、心配だ。
葵矩は、溜息をひとつつく。
「ふーん。だから女の子選り取りみどりだったのね。」
「そーさっ……あ。いえ。」
樹緑の言葉に尉折。
「げ。だぁかぁら。誤解だって。じゅみちゃん今のナシ!」
時既に遅し。
樹緑は軽蔑のまなざしを尉折に向けて――、
「私もウワキしよっかな。」
「待ってました!じゅみせんぱい。しちゃえしちゃえ!」
嬉しそうに流雲。
「てめぇ!」
「あ!」
先頭を歩いていた祝が突然歩みを止める。
「……クロスじゃね?」
祝の言葉に夜司輝が少し前に足を踏み出した。
前方を歩く、男女。
つばき ひはる
「ね。ひょっとして、隣……椿 姫春?」
と弁。
男は肩まで垂れるストレートの髪。
女は腰まで伸びた、ウエーブかかった茶色の髪。
「椿 姫春って前、先輩たちがいってた?」
ふかざ
「吹風先輩のこと好きだったっていう?」
和葛と厚夢が言って、
「見たい!」
同時に声を揃えた。
以前祝たちが、姫春を美人だといったかららしい。
確かに、後ろ姿から見ても、スタイルもよく、美人そうだ。
「クロス!」
祝が皆から離れ、声をかけて駆け寄った。
二人とも振り返る。
「やっぱ、クロスじゃん。久しぶり。」
弁も祝に並んで挨拶を交わす。
クロスは、こころなしか冷たいまなざしのまま、尖った顎で挨拶をした。
きつく鋭い瞳。
姫春は細い眉に大きな二重の瞳。
ピンクのルージュにグロス。
化粧を施している。
この寒空の下、細い脚を大胆に太股から見せている。
いわゆるコギャル系と呼ばれるコだ。
少しの沈黙。
祝が、流雲と夜司輝の名前を呼んだ。
瞬間。
「いくぞ、姫春。」
二人は逃げるようにその場を去った。
「何だよ。お前ら。ケンカでもしたわけ?」
祝がその様子を見て、流雲と夜司輝に向き直る。
中学時代の仲のよさを知っている弁も祝の言葉に頷いた。
「そんなこと、ないよ……。」
夜司輝がそう答えた。
流雲は無言。
「やっぱマジなのかな。」
弁が言いにくそうに口にした。
「ほら。あいつ中学卒業して、渋谷の高校いっただろ。で、チーム入ったってウワサ。」
クレイジーキッズ
「チームって、あれだろ。渋谷のCrazy Kids。」
そうそうと弁が頷いた。
渋谷のCrazy Kids。
葵矩も知っていた。
渋谷でかなり有名なチーム。
ヘッド みたか
そして、そこの頭は紊駕の知り合いだ。
「げ。マジですか。」
「チーマー?」
和喝と厚夢。
・ ・ ・ ・
「何か、雰囲気すげーかわったよな。中学んとき、あんなとがってなかったもんよ、あいつ。」
流雲と夜司輝に同意を求めるが、二人は相変わらず無言だ。
そんな様子に、
「ま、いーじゃんか。いこうぜ。」
尉折が踵を返した。
「そーですね。羽のばしましょう〜!」
「行こう行こう。」
皆、歩き出した。
「……飛鳥?」
尉折が突っ立ていたままの葵矩を怪訝に見て、どうしたのか。と尋ねる。
「え。……ううん。何かさっきから誰かに見られているような気がして……。」
葵矩は周りをきょろきょろとうかがった。
気のせいか、な。
そして皆と同じ方向に向き直る。
「誰や、ワイの葵矩に色目つかうんわ。お前か!」
「ぐえ。なぁーにすんですかぁ。色目つかってんのは、カフスせんぱいでしょ。やめてくださいよね、全く。僕の飛鳥せんぱいに!」
いつもの流雲が、首を絞めたカフスに向かっていった。
周りは相変わらずの失笑と呆れ顔。
「気のせいですよ。先輩。」
和葛のフォローに、
「いや。案外そうかも。」
厚夢が顎に手をあてて神妙な顔つきで言った。
「きっと飛鳥先輩の隠れファンですよ。絶対たくさんいますって。」
「ゆるせん。」
当時にカフスと流雲。
そんなことないって……。と、葵矩。
「案外俺かもな。」
一斉に皆の顔が尉折に向く。
ない、ない。
首を振るもの、手を振るもの。
樹緑が極めつけに溜息をついた。
「このやろう。」
そんなこんなで、この後、原宿などにも出かけ、有意義なひとときを過ごす十一人であった――……。
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