ひさめ 「こら、氷雨。きいてんのか。」 タツルの言葉、シカトしたら、こづかれた。 山下埠頭。 使ってない倉庫。 ロード 俺らTHE ROADの、ヤサ。 「マジで考えてくれ。」 アタマ ――次の総統、やらないか。 タツルのマジな目。 「流してくらぁ。」 俺は振り切った。 今はまだ、何も考えたくねーんだ。 頭しょっちまったら、流せなくなるかもしんねぇ。 俺は走ってたい。 ずっと――……。 真夜中のROAD。 無心になれる、唯一の場所。 数百メートル先に、異様な光。 検問? マッポもごくろーさんだぜ。 かまわず突っ走ろーとしたら、甲高い金属音が一斉に鳴り響いた。 何? 族の検問? 数十台の単車。 俺は、ブレーキをかけざるを得なかった。 目の前に鉄パイプがごろごろ転がってる。 んだ、こいつら。 THE ROADのカンバンしょってんじゃねーか。 仲間か。 THE ROADはでかい。 だから、もちろん知らない奴は大勢いる。 「痛っ。」 そんな、スキを狙われた。 油断してた俺がマヌケだった。 間髪射れずに、そいつらは、殴りかかってきた。 「っに、すんだよ!!」 あおい ひさめ 「滄 氷雨だろ。」 何?……俺のこと知ってて、殴りかかっただと? 「きにくわねーんだよ。ガキのくせに。特隊なんかやりやがってよ。」 数人の男がガン飛ばす。 いずれもガタイがいい。 「何がいいてーんだ。」 俺の声に――、 「粋がってんじゃねーの。ガキは、おねんねの時間でしょ。」 一斉に笑いがおこった。 俺の拳に力が入った。 「っざけんなよ!!」 キレた。 久々に、俺は理性を失った。 全てのうっぷんを晴らすかのように、俺は、名前も知らないこいつらに拳を向けた。 殴った。 殴りまくった。 これでもかってくらい、蹴り飛ばした。 一息つく。 ごろごろと鉄パイプと転がる男たちを、見下ろす。 右腕に痺れが遅れて来た。 拳を開くのを忘れるくらい、殴ってた。 「滄!!」 みやつ 猛スピードでここまできた様子の造。 急停車して、この有り様に目を丸くした。 「大丈夫、か?」 仲 間 「ああ。……こいつら。THE ROADだろ?」 造の口がへの字になった。 頷いて、そのままうつむいた。 たつる 「立さんが、THE ROAD辞めるそうなんだ。」 ゆっくり話し出した。 ――マジで考えてくれ。次のアタマ、やらないか。 タツルの言葉、フラッシュバック。 「で、次のアタマを滄にって。」 「知ってる。」 造の上目遣い。 「で、なんつーか。良く思ってない奴がいて、さ。」 ――きにくわねーんだよ。ガキのくせに。 「滄、しばらく集会とか来ないほうがいい。さっき、先輩とかにきいて、ビビった。」 けっこう大勢、同盟とか組んで、お前をつぶそうとしてる。 造の憂う言葉。 鼻をならして、一笑に付す。 「カンケーねぇよ。」 「甘く見ないほうがいいよ。いつまた襲われっか……。」 俺の知ったことか。 来るならきやがれ。 じょーとーじゃねーか。 つぶせるなら、つぶしてみろ。 それより、何でタツルが、急にそんなこと言い出したんだ。 辞める……なんて。 そりゃ、自分より年下がアタマじゃ、やってけねーもしれねーけど。 でも、俺がやりてーっつったワケじゃねーし。 やるともゆってねーよ。 タツルのやつ。 かって抜かしやがって。 でも。 造のゆうとおりだったかもしれねー。 甘く見すぎてたかも――……。 「おら、滄、でけーツラできねーよーにしてやんぜ。」 「覚悟しろよ。」 「逃げんなよ。」 毎日、毎日。 大人数が俺を追い掛け回した。 息つく間もなく、殴られ続けた。 ケンカには自信のあった俺だけど、さすが、この人数にはかなわねぇ。 あとからあとから蛆虫のようにやってきて、しつこい。 毎日、リンチをくらってる感覚。 数日後には、俺は口すら利けなくなってた――……。 |
ひさめ 「……氷雨。学コ、こないね。」 最近。 氷雨に会ってない。 ハマ とひろ 横浜に行くことを、斗尋や造にとめられてて、ワケも教えてくれない。 しさき 男の事情、そんな言葉で片付けられて、白紫も斗尋と会ってない。 横浜に行っても、港には入れてもらえなくて、門前払い。 そんな日が、数日続いた。 何があったんだろう。 不安。 学コなんて、くだらない。 皆と会いたいよ。 氷雨と会いたい。 なしき 「……しき。流蓍。」 「んだよ。」 放課後の教室。 あさわ 担任の浅我センセーとの二者面談。 向かい合わせに腰下ろしてる。 「彼氏のことでも考えてた?」 「なっ……カンケーねーだろ!」 このセンセー、調子狂うんだよね。 ずっとスレてるあたしは、センコーにも敬語なんて使わない。 だもんだから、生徒指導のセンコー、他のセンコーには煙たい存在。 ナリももちろん校則にのっとてない。 皆、外見で判断してあたしを不良呼ばわり。 髪の色が変わってから、余計にセンコーはあたしのことを目の敵にしてる。 でも。 「髪、綺麗なのに、色抜くと質悪くならないか。」 「……。」 優しい瞳。 言葉遣いも態度も指摘せず、あたしが口を開くことを待つ。 「……進路はまだ決めてない。」 あたしの言葉にうなづいて――、 「ゆっくり考えていんだよ。自分が本当にやりたいことを見つけられるまで。」 焦る必要はない。 腕の時計を垣間見た。 陽も、もう傾いている。 「流蓍で最後だから、家まで送っていくよ。」 「……。」 見上げる。 あたしより15センチ以上高い背。 見た目よりもしっかりしてる体つき。 皺一つない紺のスーツがはまっている。 大人の男。 「流蓍は族に入っているのか?」 「わりーかよ。」 成り行きで、送ってもらった帰り道。 少し先を歩くあたしに、うしろからついてくるセンコー。 「僕も昔、入ってたんだ。……と、これは内緒な。」 独り言のように最後の言葉は言った。 思わず、吹き出す。 「うそ。ありえない。」 こんな、マジメ一筋のような奴が、族? 「本気にしてないなぁ?」 センコーがあたしに並んだ。 顔を覗き込むように腰を屈める。 「だって、どうみてもウソだろ。」 口元の筋肉が緩む。 「……流蓍。そうやって、笑ってたほうがいいよ。」 センコーの真剣な瞳があたしにぶつかった。 思わず歩みを止める。 端整とは言えないけど、優しさのある瞳。 「クラスのコたち、本当に流蓍が嫌いでああいう態度をとってるわけじゃないんだから。なんていうか流蓍、予防線を張ってる気がするから……笑えば打ち解けられるんじゃないかな。」 「……。」 誰も気にも留めてないと思ってた。 こいつは、あたしのことを見ててくれた。 教室の中、あたしは白紫以外のヒトとはあんまり喋らない。 話すのも面倒だし、向こうだって話されても嫌だろう。 別に、白紫だけいればいいと思ってた。 予防線……そうだったかも。 誰もあたしのことなんてわからない。 そうな風に思って、あたしからわかろうとしたことも、ない。 「よ、よけーなお世話だよ。さようなら!」 不覚にも、センコーの瞳に引き込まれた。 あたしは踵を返す。 そして、ちらり、振り返ると笑顔でセンコーが手を振ってた。 変な奴。 でも。 自分でも気がつかないほど、心の時間は経っていた。 浅我センセーは、他の奴らと違った。 あたしは、浅我センセーに惹かれ始めてた――……。 「センセーおはよ!」 スカート、もう少し短いほうがいんじゃないか。 そういった浅我センセーの言葉に、あたしは踝まであったスカートを膝まで切った。 「おはよう。流蓍。」 いつもの笑顔。 スカートに目を移して満足そうにうなづいた。 押し付けがましいことや命令口調は一切しない。 そんな浅我センセーの笑顔に、あたしは思わず頬がほころんだ。 自分でもわからない。 ほめられて喜ぶ子供のようだ。 自分でもおかしいと思う。 あんなに素直じゃなかったあたしなのに。 浅我センセーのお陰で、クラスのコとも話をするようになった。 少しずつ、打ち解けていった。 「あさざ、浅我センセーのこと好きなの?」 昼休み。 白紫が核心に触れた。 胸が高鳴った。 「な、何で?」 思わず上ずる声。 白紫にはお見通しだったみたいで――、 「氷雨はどうなるの?」 あたしの胸がまた高鳴った。 でもさっきのとは違う高鳴り。 氷雨には、もうずっと会ってない。 学校も来ないし、横浜にもいってない。 でも。 あたし……浅我センセーに恋してるかも。 浅我センセーに会うとどきどきする。 笑顔を見ると嬉しくなる。 これって、やっぱり恋なのかもしれない――……。 |