「あおいー!」 とひろ みやつ 斗尋と造が俺の家の前でエンジンをふかす。 この2人には、新しい俺の家を教えた。 「海、行こうぜ。」 学コさぼって、ほぼ毎日俺のトコにくる。 横浜からここ、鎌倉まで。 何も言わねーけど、2人とも俺のことをすげー考えてくれて、側にいてくれる。 一緒に走りにでて――、 「やっぱ波の音はいーなぁ。」 湘南海岸、片瀬江ノ島。 真っ青な海、空。 白く、大きな雲。 色とりどりのサーフボードが波に揺れてる。 夏だ。 あおい 「滄。このままでいいのか?」 単車を停めて、浜に下りる防波堤の階段に腰を下ろした俺に造。 憂う瞳。 「どーゆーイミ?」 「あさざのことだよ。」 俺の言葉にかぶせて、斗尋。 しさき 「白紫、ゆってた。元気ねーってよ、あさざ。」 カンケーねぇよ、ムリして笑った。 「ヘーキなのか。」 「何だソレ。俺、モテんだぜ。」 ヘーキなワケなかった。 誰にモテても、イミがなかった。 忘れさせてくれない。 俺の心の中。 いつもあいつが住みついてる。 どーしょーもない、事実。 「ムリ、すんな。」 厳しい口調で造。 「ムリなんか、してないって。何マジメな顔でゆうと思ったらぁー。」 「滄!!」 造の叱責に――、 「んだよ!」 そっとしておいて欲しかった。 わかってる、こいつらが、どんだけ俺のことを考えてくれてるか。 心配してくれてるか。 でも――、 「うっせーな!!いちいち、てめーらにカンケーねぇだろ!!」 「滄!!」 立ち上がって、単車に向かった。 苛つく。 腹が立つ。 こいつらが悪いわけじゃねー、解ってる。 「どけよ。」 ヨン フォア 400FOURの前に一人の男。 俺の言葉に、何も言わずに背を向けて歩こうとした。 「おい!」 無性に腹が立った。 俺の声に振りかえる男。 何だこいつ、とでもゆうような冷めた表情で長い前髪をかきあげた。 赤い髪。 鋭い目だった。 「てめー何ガンくれてんだぁ?」 ワケもなく、俺はそいつにからんだ。 「やめろ!滄!」 「っせーな!おいてめぇ、口きけねーのかよ!!」 うしろからの造の声を抑えて、男に怒鳴る。 男は俺を見た。 そして、やっぱり何も言わずに一瞥して振り返って歩き出そうとした。 「おい!!」 肩をつかんで振り向かせる。 「何?」 冷めた、短い言葉。 何だ。 いやに、貫禄がある。 威圧感さえ、生じた。 すげぇ、蒼い瞳。 深い、蒼。 吸い込まれそうになる……。 オレ 「フラストレーションの怒り、他人にぶつけないでくれる?」 なっ……。 俺が掴んだ手を振り払って、言い放った。 「てめ!このやろ!!」 こいつ、ヒトの話、きいてやがったな。 胸座を思いっきり掴んだ。 強かに睨みを利かす。 でも、怖気づいた様子なんて、これっぽちもなく、こいつは黙って俺を見た。 その、蒼く澄んだ、力強い瞳で。 くそっ。 「おめー、名前なんつんだよ。」 腕を下ろす。 「ヒトの名前聞く前に、自分の名前ゆったら?」 端整な顔が嘲笑する。 とことん見下げられたもんだぜ。 自嘲。 「悪かったよ。」 手を離した。 何か、こいつ、不思議と憎めねぇ。 何でかわかんねぇ。 でも俺は、身体で感じていた。 波長、つーのか。 こいつとは、気が合いそうな気が、した。 「滄 氷雨、15。」 きさらぎ みたか 「如樹 紊駕、11。」 じゅ……。 「じゅういち――???」 斗尋と造がすっとんきょうな声を揃えた。 ……11歳だと。 俺より4つも下? 思わず、こいつの全身を眺め見た。 背は俺より低いけど、雰囲気が、大人っぽい。 「何だよ、見てんなよ。」 気持ち悪い、と吐き捨てるようにこいつはゆって、唖然としてた俺らを見た。 物怖じしない態度。 「これ、CB400FOUR。氷雨の?」 そして、少しだけ少年さを覗かせて、こいつは400FOURを指した。 俺の頷きに満足そうに口元を緩めて、そして、 ヤ 「傷ついてる。殺られた?」 全てを見透かすような瞳をする。 「さわってもいい?」 さりげなく、気遣う。 俺らみたいに単車好きな奴は、単車を勝手に触られたり乗られたりすんのが嫌な奴がいる。 俺らが、どっかの族だってことわかってんのか? 「……いいぜ。」 俺の了承にこいつはポーカーフェイスを崩した。 「乗ってみ。」 「おい。」 俺の言葉に造が焦った声を出す。 大丈夫だろ。 タッパもリーチもあるし。 ムメン 俺らだって、無免許だ。 白昼の江ノ島。 俺らはこいつ、紊駕に単車の乗り方を教えた。 「ギア、ローに落として。で、クラッチまだにぎっとけよ。そうそう。」 基本的な運転の仕方は知ってるらしい。 紊駕は、俺の言葉よりも時には先に、的確に操作。 頭の回転も早い。 キレる。 紊駕はスマートに400FOURを乗りこなして見せた。 運動神経もいい。 「マジで初めてなのか?頭いーな、あいつ。」 弁天橋を真っ直ぐ突っ走って、Uターン。 ソツがない。 「すげ。切れ味。」 戻ってきた紊駕の顔は、爽快。 すいき とひろ 「すげーな、お前。俺、斗尋。須粋 斗尋。」 みなき みやつ 「皆城 造。俺らも15。」 それから、俺らツルむようになった。 俺ら、紊駕のこと、ガキだなんて思ってない。 むしろ、その辺のタメより、こいつのほうが、いろんなイミで大人だった。 俺よりもずっと。 如樹 紊駕。 ヒトを射抜くような、澄んだ深い蒼の瞳。 クールで冷静沈着。 そんな中に、温かい何かを感じさせる。 俺は紊駕に出会って、何か変わる気がしてた――……。 |