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 俺は今、鎌倉にいる。
 オヤジが借りた、鎌倉駅に程近いアパート。
     ハマ
 学コも横浜も行ってねぇ。
 昼夜働いて、家と仕事の往復。
 オヤジは相変わらず、遊びまくってる。
 頭を冷やすには丁度良かった。
        しぐれ
 この場所、時雨たちには教えてない。
 教えないつもりだ。
 時雨たちには、引越しをさせた。
 オヤジには知らせてない。
 ときどき会いに行くけど、最近は行ってない。
 オヤジがいなければ、フツーに暮らせるんだ。
 ぜってぇ、近づけさせねぇ。

 アバラと足がやっと治りかけた頃、俺は横浜に出かけた。
 俺らしくないと思った。
 ケジメつけねーと。
 このままじゃ、終われない。
 
 殺られんのは、承知で。
 テープでアバラ固定して。
 上着をかぶった。
 もう、周囲は夏の風でいっぱいだった。

 ――死んでもいいいと思った。

 もう、誰も守ってやる必要はない。
 
      あおい
  「……滄?」

  「うそ、マジで?」
 とひろ   みやつ
 斗尋と造が港の入り口まで走ってきた。
  ヨン フォア
 400FOURの音を聞きつけて。

  「滄!何で、来たんだよ!」

 制する斗尋と造を振り切る。
    ロ ー ド
 THE ROADの皆が注目。
 思いっきり息を吸った。
 アバラが少し痛んだけど、シカト。
                                             ひさめ
  「おらぁぁぁ!!!文句ある奴ぁでてこい!!!俺は逃げねぇ!!滄 氷雨は逃げも隠れもしね――!!!」

 別に。
 アタマがやりたいワケじゃなかった。
 別に。
 こいつらの上に立ちたいワケじゃなかった。

 ただ、ムカついた。
 上下カンケーのあるこのTHE ROADに。
 
 俺は、強制されて誰かを慕いたいなんて思わねー。
 単車が好きだから走る。
 走るのが好きだから、単車を転がす。
 誰のためでもねー。
 好きだからやる。
 ただ、そんだけだ――!!!




  「やだ。氷雨死んじゃう。あさざ、あさざ!!」

 氷雨……。
 目の前で氷雨がTHE ROADにラチられてる。
 一対数十人。
 敵うわけがない。

 でも、あたしは、動けない。
 腰砕けになって、後ろめたい気持ちで。
 動けない。

 飛び交う血。
 暴言。
 肉と肉がぶつかり合う音。
 鉄パイプが出す金属音。

 あたしには……あたしは、氷雨を救うことはできない。


  「てめぇら、やめろやぁぁ――!!!」
 たつる
 立さん。
 ものすごい形相で現れた。
 その低く、凄みのある声に、THE ROADが静止。

  「散れ!!!」

 有無をゆわせない叱責に、ほとんどの単車が港の外へ出て行った。
 そして、氷雨に近づく。

  「……ばかやろう。」

 優しく、やりきれない声。
 氷雨の前に膝をついて――、

  「何で。お前……。」

  「……ねんだよ。」

 氷雨が小さく呟いた。
 立さんの膝に頭を乗せて、抱えられた。
 浅く、深い、息。
 強かに殴られ、蹴られ、あちこち傷だらけだ。
            しょ
  「アタマなんか、背負いたくねんだよ。」

  「……。」

  「尊敬とか……慕うつーのは……」

 強制させるもんじゃねー。

 氷雨の鋭い瞳が立さんを貫いた。

  「楽しいから走ってる。俺は、単車転がしてる。誰のためでもねー。」

 薄い唇を噛んだ。
 
 立さんが、尊敬されたいから、本部や支部を仕切っているとは思わない。
 でも、アタマが誰になるかくらいで、いざこざなんて。

 途切れ途切れだが、力強い声。
 静まった港に響く。
        しさき
 斗尋と造、白紫にあたし。
 数人のヒト。

  「……束縛されなきゃ走れねー族なんて、いらねぇ。外ばっかでかくて、中身がねー族なんて……」

 いらねぇ。

 立さんは、何も言わずに立ち去った。
 氷雨を斗尋と造に託して。
 その背中は、淋しそうで、やりきれない想いが張り裂けそうだった。

  「滄!大丈夫か。」

  「氷雨。」

 斗尋と造、そして白紫が氷雨に近づいて、介抱。
 あたしは、少し離れて、立ち尽くした。

  「……いらねぇ。」

 氷雨があたしを見た。
 蒼く、鋭い、射抜く、瞳。

  「お前なんか、いらねぇ。」

 氷雨は翻してバイクに飛び乗った。

  「滄!!!」

  「滄!!!」

 斗尋と造が同時に叫ぶ。

  「……。」

 あたし……。
 頬を熱いものが伝った。
 アスファルトに溶ける。

 涙。
 あたし、涙流してる。
 
 ――お前なんか、いらねぇ。

 冷たい様で優しい言葉。
 あたしを貫いた。

  「氷雨、あさざのことすごく、大切に想ってる。」

 白紫。

  「あいつ……あさざの為を想ってあんなこと……。」

 造。

  「バカが。やせガマンしやがって。」

 斗尋。

 
 その日以来。  ・  ・  ・  ・   ・
 あたしと氷雨のあわない日が続いた。
 学コにアイツは来ない。

 このままでいいの?
 あたしは何度も自分に問いかけた。

  「あいつは、あいつなりに答えを出したんだから、あさざはマジで好きな奴のことだけ考えろよ。」

 造が優しくあたしの肩を叩いた。

 マジで好きな奴のことだけ……。

 いつもその言葉があたしの胸を締め付けた。
 答えがでないまま。
 氷雨と会わないまま。
 夏休みを迎えようとしてた――……。


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あとがき