6























































































































































































































































































































































>>次へ                           <物語のTOPへ>

   ひさめ
  「氷雨、氷雨。」

 ったま響く、うっせー誰だよ。

  「っ……。」

  「気がついたか。」
             
 目ぇ開けると、真上にタツルの顔。
 眉間に皺を寄せた、憂う表情。

  「タツル……痛っ!」

 起き上がろうとしたら、激痛。
 どこってもんじゃない、全て。
 身体に電気が走った。

  「アバラ折れてる。あと足の打撲も……動くな。おとなしくしてろ。」

 片目を細めて、見回す。
 真っ白な天井、ベッド。

  「心配すんな、オヤジの病院だ。」

 俺が一息ついたのを見計らって、タツルはいきなりアタマを下げた。

  「悪かった。」

 敬礼。

  「軽率だった。俺が、お前に次の頭やらせるなんていって……。」

 あー、そのことか。
 何か、もう、何が何だかわかんねぇ。
 どれくらい時間がたったのか。
 どこで、どんだけヤラれて、どーやってここまできたのか。
 何も覚えてねぇ。
 頭いてぇ。

  「頭も検査してもらったけど、大丈夫だったから。」

 頭を押さえる俺に、タツル。
 ありがとう、礼をゆうともっかい謝る。

  「あいつらに、口出しはさせない。もっと早くそうするべきだった。」

 また、頭を下げた。

  「タツル……なんで、そんなに急ぐんだよ。」

 俺の言葉に口を閉ざした。

  「んで、そんな急いでアタマおりよーとすんだよ。」

  「……。」

 んだよ。
 俺にはいいたかねーのかよ。

  「この場所。誰にも教えてねーから。安心して休んどけ。家に連絡もいれといた。」

 露骨に話をそらして、背を向けた。

 くそっ。
 俺は、上下カンケーなんていらねんだよ。
 皆が楽しく走れりゃ、それでいんだよ。
 ……んな、でかい族、しょってく自信なんて、ねーんだよ。

 あいつに会いてぇ。
 あさざ。
 お前の顔が見てーよ。

 俺は次の日、学コに行った。
 奴らに殴られた足を引きずって、腹に包帯をまいたまま。
 あいつに会いたくて。
 あいつの笑顔が見たくて。

 でも――、
   あおい
  「滄?」

  「ひ、氷雨。」

 あさざの笑顔が注がれている奴は、俺じゃなかった。
 放課後の教室。
 あさざは、担任のセンコーと、抱き合ってた。
 誰もいない、空間。

 足元には粉々に砕け散ったガラスが散乱した。

  「氷雨……。」

 俺は踵を返した。
 その場から、逃げたかった。
 でも、引きずられた足が、そうはさせてくれない。

  「氷雨!!」

 あさざに腕をとられる。
 その反動で、俺はあさざを自分の胸に引き込んだ。
 強引に唇を奪う。
 腕に力が入る。

  「痛っ……や、氷雨……。」

 あさざのYシャツをまくる。
 無理やり腕を突っ込んで――、

  「やだっ!」

 頬に平手が炸裂した。
 強かに怒った顔。

  「あいつとはヤッたんだろ!」

 睨む。
 抑えられない衝動。
 俺は、ここを学コだと忘れていた。

  「あの先公とはヤッたくせに、ナメんじゃねー!!」

 俺はそのまま、学コを飛び出した。
 
 くそっ!!!
 痛てぇよ、あいつらにヤられたアバラが。
 足が。
 痛てぇんだよ!!!


 ――軽率だった。俺がお前に次のアタマやらせる、なんていって……。

 ――でも、マジで、俺は、お前以外にアタマやらせる気は、ない。

 ――お前以外にアタマやらせる気は、ない。

                                   ヨン フォア
 病院をこそっり抜け出して、タツルにバレねーよーに、400FOURで学コにきた。
 BODYに傷をたくさん負った400FOUR。
 俺と同じ。
 タツルからもらった、400FOUR。


 ――俺は、マジで信用して、信頼してる奴じゃねーと、400FOURはやらねぇ。

 ――氷雨。お前だから、くれてやる。

 ――お前だから、くれてやる。


  「お兄ちゃん!」

 家のドアを蹴り上げた。
 俺がいない間。
 家の状況も変わってた。
      しぐれ
  「……時雨。」

 妹は小さな身体をよけー小さくして、家具が倒れて、散乱してる居間にちょこんと座ってた。
 食器が粉々に砕け散って、ヒトが住める状態なんかじゃない。

  「悪い……。」

 罪悪感。
 オヤジの残した傷跡を目の前に、言葉がなかった。
 ただ、すがり寄ってくる妹弟を抱きしめた。


  「氷雨。帰ってきたのか。」

 嘲笑するオヤジ。
 赤ら顔で、あきらかに酔っ払っている。
 おもいっきり睨む。
 
  「おい、起きろ!」

 そんな、俺をシカトして、オヤジは母親をたたき起こした。
 足で蹴飛ばす。

  「に、すんだよテメェ!!」

  「どけ、氷雨。」

 俺が母親をかばうと、蔑んだ目を向けた。

  「オメー、腹痛めてんのか。」

 言い終わる前に激痛が襲った。
 容赦なくオヤジの足が俺のアバラに入る。
 崩れ落ちた俺をシカトして――、

  「ほら、もってきてやったぞ。」

 ひらひらとかざす、薄っぺらい紙。

 ――離婚届。

  「氷雨、この家でてくから早くしたくしろ!」

 ぬけぬけと……命令してんじゃ、ねぇ。
 ガン飛ばす。
       ささめ
  「ほら、細雨も、早くしろ!」

  「お願い……子供は、子供たちは、あたしが……。」

 蚊の鳴くような声で訴える母親に――、

  「残念だったな。氷雨と細雨は俺が連れて行く。文句はいわせねぇ。」

  「お兄ちゃん!」

 時雨が泣き出しそうな瞳で訴えた。
 このやろう……。
 魂胆は解ってた。
 俺らを引き取って、稼がせるつもりだ。
 テメェが食ってく為に。

  「オヤジ。俺だけ、オヤジについていく。」

  「氷雨!」

 俺の言葉に口元を跳ね上げるオヤジと、心配する母親。
 そして、妹弟。

  「解った。2、3日で出るから荷物まとめとけ。」

 そういって、オヤジは家を出た。
 満足そうな、にやついた笑顔。
 テメェのいいようにさせるか。
 
 ブッ殺してやる。
 テメェなんか、ブッ殺してやる。
 腹の中で俺は、呪文のように唱えた。
 母親たちに二度と近づけねーよーにしてやる。
 絶対に――……。


 


  「ひどいよ、あさざ。」
 しさき
 白紫にゆったら、怒鳴られた。
 あさわ
 浅我センセーと抱き合ってたトコ、氷雨に見られたコト。

  「氷雨、大変だったんだよ。族の上のヒトとかにヤキ入れられて、いっぱい殴られて。それでも病院抜け出してあさざに会いに来たのに!!」
         ハマ
 もう、ずっと、横浜には行ってなかった。
 入れてもらえなかったから。
 そんなの、言い訳にならない。
 あたしは、氷雨に後ろめたい気持ちがあったから、だから会いにいけなかったんだ。

         なしき
 ――ごめん、流蓍。

 優しく、いたわるような抱擁。
 誰もいない教室。
 浅我センセーはあたしのこと想ってくれてた。
 言葉には出さなかったけど、行動でそうゆってくれた。

  「今日会いに行くよ!謝んなよ、あさざ!」

 白紫の叱責。

  「でも、許してくれない……きっと。」

 うつむいたあたしに、少しトーンをおとして――、

  「ねぇ。本当に先生のこと、好きなの?」

 あたしは頷いた。

  「氷雨のことは?嫌いなの?」

 あたしは首を横に振った。
 
 嫌いなんかじゃない。
 あたし、氷雨のこと、好き。
 でも……センセーのことも、好きなの。

 そんな、あたしを見て、白紫は何も言わなかった。
 
 あたしは、横浜へ久しぶりに足を踏み入れた――……。


  「あさざ。」

 何だか、居心地が悪い。
 皆に会うたび、罪悪感が増す。
 とひろ    みやつ
 斗尋と造。


  「あいつー、あれから会ってないよ。俺らも。」

  「でも、こねーほーがいいよ。まだ、センパイたち、熱いし。」
 たつる
 立さんが、次のアタマを氷雨にするって、ゆって、大勢いる本部や支部の氷雨より年上のヒトたちが憤怒したらしい。
 ボコボコにやられたって、きいた。
 あたし。
 側にいてあげれなかった。
 それ以上にアイツを傷つけた。

  「仲間内でモメゴトなんて、よくねーよ。」

 しみじみと造。
      かみじょう
  「でも、龍条さん、意志まげねーしな……。」

  「あいつは、走るのが好きなんだ。誰に尊敬されたいとか、誰かの上に立ちたいとか、そうゆんじゃないんだよ。」

  「……。」

  「あいつ、本当は淋しいだよ。頼るもんなくて。いつも、遠い目、してた。」

 胸が痛い。
 苦しい。
 わかってたのに、そんな、氷雨の気持ち。
 あたし。
 あたしが拍車をかけた。

  「あさざ。あいつ救えるの、お前しかいないよ。」

 あたし……。
 斗尋の言葉に、涙腺がゆるんだ――……。


/ / / / /
        6 / / / / 10 /
あとがき