ひさめ 「氷雨、大丈夫かい。」 ばあちゃん家。 しぐれ ささめ 俺はあさざを送ってから、時雨と細雨を迎えにいった。 ばあちゃん家はうちからすぐで、 「いつでも泊まっていっていんだよ。」 もちろん、事情も知ってる。 俺たちに優しくしてくれる。 何もできなくて、申し訳ないともゆう。 「僕、泊まってくぅ。」 小2の弟は、ばあちゃん子で、母親よりばあちゃんに甘えてる。 「わたし……兄ちゃんが帰るなら、帰る。」 小4の妹は、俺にいつもくっついてきて、女なのにちょっとやそっとじゃ、涙を見せない。 いつも、ぐっとこらえてる。 「俺は家に戻る。時雨は細雨と泊まっていきな。」 「……うん。」 時雨は俺のゆうことを素直にきく。 心配そうな、その小さな頭を撫でて、笑顔を見せてやる。 俺は家に戻った。 俺は、いい。 男だし、ばあちゃんもいる。 でも、あさざは支えてくれる手がない。 生まれて初めて、誰かを守りたいって思った。 俺は、あの、壊れそうに細い体のあいつ、あさざを。 守りたい。 「ごめんね。いつも、いつも……。」 母親は俺にすがるように泣いて、何度も何度も謝る。 「時雨たち、ばあちゃん家泊まるって。飯、作らぁ。」 てきとーに冷蔵庫の中のモンで夕食を作った。 二人分。 母親は、あんだけオヤジに暴力を振るわれても、別れない。 オヤジもそれは同様だけど、ワケが違う。 母親は飲み屋で働いてて、オヤジを愛してる。 オヤジはろくに仕事もしないで、母親の金を当てにしてる。 ほかに女も、いる。 「ありがとう、氷雨。」 か細い声で、礼をいって、仕事に出かける。 痩せぎすの身体。 いつ倒れても不思議じゃない。 俺は、ベッドに横たわった。 電気はつけない。 2年前。 俺はもっとガキで、両親のケンカにムシャクシャして家をでた。 かみじょう たつる そんなとき、龍条 立と会った。 タツルのオヤジは金持ちで、働かなくても遊んでいけるってゆってた。 でも、ヒトにはそれぞれ事情つーもんがあって。 ロ ー ド アタマ タツルはTHE ROADの総統をやってる。 走ってるときは、何も考えなくて良かった。 学コにはいないダチとつるんで、夜中の町で悪さもした。 俺はまだガキで、ストレス発散のはけ口にしているらしい。 でも、マジで走ってるときは最高に気分がいい。 何もかも、忘れられる。 でも、でかい族のTHE ROADは、あんま頻繁に走れなかった。 ケーサツからマークされてるから。 俺は、走れればいーって思ってたから。 ぞろぞろつるんで走んなくても、別にいーから、一人で走ってたけど。 気に入らない奴もいるらしい。 タツルが、次のアタマを俺にしたいってゆってきた。 俺はアタマなんて、どーだってよかった。 誰がなったって、どーでも良かった。 忘れさせてくれる何かがあれば……。 でも。 もしかしたら、俺。 あいつの為に、変われるかもしんねぇ。 こんな気持ち、初めてだ。 誰かの為、なんて。 くさくて腹抱えて笑いたくなるほど、恥ずかしいセリフ。 俺はマジで想った。 アイツのため、あさざの為なら、 死ねる――……。 |
「どーしたの、あさざ。」 しさき 学コにいったら、真っ先に白紫に驚かれた。 あたしのショートの髪、金色に色が抜けてた。 「や、かっこいーじゃん。すっごい似合う。」 白紫はあたしの髪をさわって、満面の笑みを見せた。 こんな、白紫だから。 あたしは好きになった。 「脱色ブタ。」 「うるせーヘタ!」 「あー?んだよ、ヘタって。」 「前髪だけ赤くて、トマトのヘタみたいじゃんか。」 悪態づいたあたしを、氷雨は身体ごと抱きかかえるようにして、軽くアタマを叩く。 あおい 「滄くん、かわったよね。」 氷雨のいないところで、白紫が口元を緩めた。 最近、氷雨はよく学校にくる。 あたしたち以外とは、あんまり話さないけど、それでも、変わった。 「あさざがいるからかなぁ?」 意味深な語尾をあげてゆった白紫に――、 「カンケーないよ、あんな奴。」 「あー照れてるぅ。」 「何ゆってんのよ。白紫こそ、どーなのよ。」 とひろ 白紫は斗尋と付き合い始めた。 ロ ー ド あれから、あたしたちは時間があれば、THE ROADに顔を出すようになった。 皆とはほとんど顔馴染みになって、気軽に声をかけてくれる。 もちろん、名前も知らないヒトたくさんいるけど、そんなのはカンケーなくて。 みんなダチ。 こーゆーのがいい。 学コじゃ、知らないヒトは他人。 話なんてしない。 よそよそしい。 みんな、外見にこだわるバカやロー共。 あたしの髪、色が変わったら、皆避けてく。 そんで、コソコソ内緒話。 くだらないセンセーにへりくだって。 暇つぶしのダチつくって。 本当は、ダチのことなんて、何一つわかんねーくせに。 外見が悪けりゃ中身も悪いと思ってる。 「白紫。」 斗尋が少し、頬を染めて白紫を手招きした。 「ほら、何してんの。」 あたしに押し出されて、白紫ははにかんで、斗尋の元に駆けていった。 白紫は違う。 他の奴らとは違う。 だから、あたしは白紫のコトが好き。 「あさざ!!滄は?」 突然。 造が血相をかえて駆け寄ってきた。 タダでさえ色白の肌が、蒼白になってた。 「多分、走りにいったと思う。どうしたの?」 あたしの言葉に答えずに、造は軽く尖った顎を下げて、すぐさまバイクに飛び乗った。 周りがどよめいていた。 白紫と斗尋も向こうからやってきて、あたしが何事かと尋ねると、 「わ、わかんない。けど、何か、ヤバイことみたい。」 白紫が怯えるような顔つきをして、自分を抱きしめた。 その言動に得たいの知れない、寒気があたしを襲った――……。 |