
♪6小節♪
「おかえりなさい。」
ゆづみ
夕摘はいつものように夫を迎えた。
つづし
矜に久しぶりに会ってから、一ヶ月が経っていた。
ス 無言でスーツを脱ぐ夫の背中に回る。
上着をハンガーにかけながら、夕食と風呂の準備ができていることを告げる。
芯 いつもと同じ日常。
だが。
夕摘が上着のかかったハンガーをクローゼットにしまい、振り向く瞬間。
夫が背後から覆いかぶさってきた。
「どうした……」
で 言葉を言い終える前に、思い切り肩をつかまれ、振り向かされる。
俚 そのままベッドに押し倒された。
「んっ……!」
体を押さえつけられて、唇を吸われた。
「痛っ。いやっ……!」
執拗な愛撫は夕摘を全く無視して行われた。
や 両腕を締め付けられ、足をも押さえつけられた。
乱暴なまでの求愛。
両足を無理やり広げされられて、体をねじ込もうとする夫。
「痛いっ!」
「だまれっ!」
上からの怒鳴り声と夫の形相。
いつもの夫ではない。
「……。」
思わず口をつぐむ。
夫を見る。
瞳がナイフのようにとがっている。
眉間の皺。
矜 どすの利いた関西弁。
夕摘は人形のように硬くなった。
怖い。
夫は構わず強引に夕摘の下着を脱がせた。
反 「お願い……やめっ……。」
「黙れゆうとんのやっ!!」
左手の大きな手の平が夕摘の口をふさいだ。
そ ものすごい力。
夕摘が体をひねって抵抗しようとすると、右手が首元をとらえた。
首を締め付ける手。徐々に力が増す。
声がでない。
覆いかぶさって、無理やり夕摘の中にはいってくる夫。
恐怖の何者でもなかった。
殺されるっ――……
隣 自分勝手に欲求を満たす夫。
数十分が永遠にも思えた。
意識が遠のく中で、夕摘の脳裏に映ったのは、矜の優しい笑顔だった。
――大丈夫。ゆづは、大丈夫だ。
心のスキマに温かいモノが流れるのを感じた。
今まで埋められなかったスキマ。
矜の優しい手。
何度も、何度も撫でてくれる、優しいその手。
矜――……。
「 どのくらいの時間が経ったのか。
夕 目が覚めたときには、夫の姿はなかった。
夕摘は自分の肩を抱いて震えた。
裸の自分。至るところに痕跡が残っている。
夕摘は嗚咽を漏らした。
まだ苦しさの余韻がある、細い首をさする。
「……っ。」
ここには、もう、いられない。
夕摘は荷物をまとめた。
殺意。
明らかに、夫の目には殺意が見て取れた。
怖い。
怖い。
6年間、こんなこと一度もなかった。
人が変わったような夫。
恐怖で押しつぶされそうになった――……。
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