
♪7小節♪
つづし
「矜さん、この間彼女見ちゃいましたよ。」
こうき
箜騎がイタズラな笑みを見せた。
短髪のさわやかなスポーツマン。
ス りつか
妻 妻の俚束より5つも年が下だが、しっかりとした青年だ。
「今までのコとは、全く違うタイプよね。」
芯 いんじゃない。と、俚束は微笑した。
箜騎も穏やかな笑みを見せ、息子を抱き上げた。
……前に進もうと思った。
矜は2人に笑みを返して、心の中で自分に言い聞かせた。
いい加減、卒業しないと。
で 胸の奥の痛み。
俚 忘れることはできないが、デクレッシェンドさせないと――……。
「これ、矜くん?」
鎌倉市のアパート。2階の一室。
音楽関係の雑誌やポスターで埋め尽くされた、1Rの自宅。
彼女は机の上の写真とにらめっこしている。
や 「ああ、そう。」
小さくてふっくらとした手で、写真立てを持ち上げた。
写真の中の矜と、目の前の矜とを見比べる。
「何か……意外。」
大きくて垂れた瞳が、愛らしい小型犬を思わせる。
「こんな、やんちゃしてた頃あったんだぁ。」
矜はコーヒーメーカーにスイッチを入れて、ソファーに腰掛けた。
彼女に、隣に座れ。と、促して――、
ゾク ロ ー ド
「横浜一大きな族、THE ROAD。特隊だったんだ。」
THE ROADの数少ない、集合写真。
あたま たつる
中央には総統の立がにこやかに笑っている。
今は亡き、親友。
矜 その隣。B.・RJOY丸グラサンを頭に乗せた、満面の笑み。
昔の自分。
箜騎や俚束もいる。
「もっと……知りたいな。」
反 彼女が写真立てをテーブルに伏せて置いた。
潤んだ瞳でじっ、と見つめる。
矜は、彼女の頬に優しく触れた。
そ やわらかく、温かい。
彼女の瞳が閉じるのを待って、小さくふっくらした唇を吸う。
小さなソファーと小さなテーブル。
猫の額ほどのスペースも残らない部屋で、二人は体を重ねた。
覆いかぶさると、見えなくなるくらい小柄で柔らかな彼女。
漏れる吐息が耳をくすぐった。
豊満で形の良い乳房をすくい上げるように愛撫した。
隣 彼女の気持ちの昂まりを察して、徐々に服を剥いでいく。
「矜くんっ……あっ……ん。」
彼女の熱っぽい声。
背中に回る柔らかな両腕に力がはいる。
優しさと労わりを込めて、自分を彼女の中に挿れた――……。
「 「……雨、降りそうだね。」
夕 心地よい脱力感の中、彼女は窓の外を見上げた。
矜は裸のままの上半身を起こして、タバコに火をつける。
「本当だ。」
白い煙を吐くのが合図だったかのように、雨音が鳴り出した。
彼女は、これでもか、と矜にくっつき、微笑んだ。
優しく髪を撫でた。
ストレートで少し硬く、しっかりとした髪。
穏やかで安らかなそんな空間に――、
「……ちょっと待ってて。」
古びたチャイムの音に、矜はジーパンを履いた。
彼女の頭を労わるように軽くたたいて、玄関にでた。
「……ゆづ。」
年季の入ったドアが軋んで、細く開いたスキマ。
ゆづみ
ずぶぬれの夕摘の姿。
矜は思わず目をうたぐった――……。
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