U -THE BOND-
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                    10

きさし
葵矩は、鎌倉市梶原にたたずむアパートを見上げ、一階の右端の玄関チャイムを鳴らした。
応答なし。

 「まだ、寝てるのかな。」

独り言を呟いて、もう一度鳴らしてみる。
ドアには住居者を示す表札。
てだか
豊違。
                                いおる
今日、全国大会の抽選会に、主将の葵矩と副将の尉折が行くことになっている。
トーナメントを決める抽選会。
三度目の呼び鈴に――、

 「……ごめん。今、起こすから。」
         じゅみ
出てきたのは樹緑だった。
急いで髪を手くしで整えたような、手つき。
少し頬を赤らめて、玄関のドアを開けた。
そして葵矩を中へ促して、奥の部屋へと翻す。

樹緑の家は隣である。
ほほえましく思って笑い、葵矩は待った。
やがて、奥からの声。

 「尉折、起きてってば。」

ここから姿は見えないが、玄関を入ってすぐ右側の部屋かららしいことが想像できる。
尉折の眠たそうな声が聞こえる。

 「じゅみぃ〜」
            あすか
 「ちょ、やだ。……飛鳥くん、来てるんだから。」

些か焦って、かすれたアルトヴォイス。
そして、困ったようなくすぐったそうな声。
何故か葵矩が真っ赤になった。

 「もう。だからバイト早く切り上げてきなさいって言ったのに。」

しかたないな。という声。

 「……。」

学業にサッカー。
そして生活の為のバイト。
いつも笑顔で冗談を飛ばすの尉折だが、とてもハードな毎日を送っている。

 「くあぁ〜ねみぃ〜。」

数十分後、尉折は支度を済ませ、玄関で大きなあくびをした。
樹緑はまるで、妻のように尉折の制服のネクタイを正し、待たせたことを謝った。

 「ううん。いこう。」

そんな光景に葵矩は笑顔。
幸せそうだ。
本当にお互いを必要としている。

 「たぁく。何でいちいちいかなきゃなんねーの。」

電車に乗りながらぶつくさ文句。

 「だいたい、俺らシードなんだからよー。」

トーナメントは十六シードがあって、そのうち四つは前回大会ベスト四高校と決まっている。
なので、前回優勝の静岡S高はブロックAのトーナメント番号一。
準優勝の葵矩たちは、ブロックHのトーナメント四十八番。
ベスト四のうち、成績のよかったほうがブロックDの二十四番。
残りがブロックEの二十五番。
その他、十二シードがくじ引きというわけだ。

 「でもさ、相手チームを見ときたいし。どんなトーナメントかわかっておかないとさ。」

 「んなの、新聞見ればわかる。」

一蹴。
葵矩は小さく溜息をついて、歩みを進めた。

今日までで、全て、各代表高校、四十八校(東京は二校)が出揃った。
会場で――、
  わしは    れつか
 「鷲派 烈火ぁ――!」
  てだか   いおる
 「豊違 尉折――!」

二人が同時に叫んだ。
そして、久しぶり、と笑顔を見せ合う。

鷲派 烈火。
鹿児島県代表、K高校。
前回の大会で知り合った男だ。

 「お前、主将なのかぁ。よく務まるな。」

 「お前こそ、先が見えたな。」

 「何だと――!」

 「何を――?」

始まった。
葵矩は額を手で覆った。
ひょうんな事から知り合い、以来、会えばこの調子。
しかし、当人たちはお互いを認め合っている。
詳しくは、Tomorrowにて。

 「勝ち進んできたか。」

 「ったぼうよ。何てったって、この俺様がいるからなぁ。ハーッ、八ッハッハ――!!優勝はもらったぜ。」

大きく胸を反らして声高々とでかい態度の烈火。
その様子に、変わってないな。と、尉折は目を細めた。
一年ぶりの再会。
前回、共に九日間を過ごした戦友。
葵矩もとても嬉しかった。

 「飛鳥。」

後ろからの声に振り返る。
ごく最近に聞いた声。

 「あ。」
くるわ   たりき
郭 托力だった。

 「いい忘れてた。今日会えることを。」

さわやかな笑みをこぼす。
尉折に紹介すると――、
                      ・  ・
 「あー、ほう。この人が葵矩くんのよその愛人さんかぁ。よろしく、よろしく。葵矩がいつもお世話になってます。」

 「いっ、尉折!」

托力は驚いて、差し出された手を握って、小さくよろしく。と、呟く。
葵矩はごめん、気にしないで。と、首をふった。
ったく、何が、いつもお世話になってます。っだ!
尉折を睨みつける。
        かたぬぐ
 「ところで、袒もいるかな。」

葵矩の言葉に、どうかな。と、托力は辺りを見回すのに、葵矩も倣うが見当たらないようだ。


やがて、抽選会が始まった。
上段に上がって、各代表が一票一票くじを引いていく。
そのたびにステージの大トーナメント表に高校の名前がかかれたカードが掛けられていく。

 「鹿児島県代表K高校、四十番。」

担当者がどんどん読み上げる。
烈火が舞台から降りてくる。

 「大阪代表S高校、シード二十六番。」

南から北へ、次々と呼ばれる。
そして、関東。

 「群馬県代表S高校、三十七番。」
                せつた
はっとして顔を上げるが、雪駄の姿ではなかった。
少し、がっかりしたが、またスグ会えるだろう。と思い直す。

 「東京A代表T高校、四十三番。」

再び顔をあげた。

違う。
葵矩は首を振った。
郵便局で声をかけられた男ではなかった。

 「北海道代表U高校、シード二十四番。」
くりま
栗馬にもまた会えるんだ。と、戦友を思い出す。
そして――、

 「四十八番、神奈川県代表S高校。以上で全ての抽選を終わります。」

続きまして、とアナウンスはゆっくり流れた。

 「選手宣誓の抽選を行います。」

男の人がステージに上がった。
くじを高々とあげ――、

 「四十八番。」

え……。

 「抽選の結果、トーナメント番号四十八番、神奈川県代表S高校主将、飛鳥 葵矩くんに決定しました。」

え、え。
俺――?

葵矩は呆然としたが、尉折は笑顔で――、

 「すっげーじゃん。目立つぜ〜選手宣誓!」

どうしよう。
俺、できるかな。
一抹の不安を残しつつ、本日の抽選会は終了した。
あとは、本番を待つのみ。


そしてそれから十日後。
葵矩の家に合格通知が届いた。

 「おめでとう!やったね。」

 「ありがとう!」

これで、心置きなくサッカーができる。
葵矩は紫南帆の言葉に礼をいって、胸の近くでガッツポーズをした。
さあ、全国だ。
今度こそ、全国制覇!!

葵矩は国立を想った。
これから出会う、たくさんの戦友たちを。
これから生まれるたくさんの、ドラマを。
そして、何よりも強い絆を――……。


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