U -THE BOND-
1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/あとがき

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時間になり、担当が本日の流れを説明した。
まず、メディカルチェックを含む、体力審査。
そして、サッカー学院志望はグラウンドで、ダンス学院志望はトレーニング室での実技試験。
昼食の後、面接試験。
その後は流れ解散。
きさし       たりき
葵矩は、托力たちと体力審査を済ませた後、グラウンドへ出た。

 「指定された五人がチームを組んで、ゲームを行います。」

拡声器を使って担当者が指示をした。
サッカーコートの脇には、審査員らしき人たちが簡易イスに腰を据えている。
ミニゲーム。

 「見たことあると思ったら、神奈川のエースストライカー……?」

 「俺も思った。周りがうわさしてたから。もしかしたらって……。」

すごい、よろしく。と一緒のチームになった二人が言った。
葵矩と一緒にゲームできるなんて嬉しいといい、足を引っ張らないようにします。と、謙虚な姿勢を見せる。
            せつた
ちゃっかり、托力と雪駄も同じチームだ。
葵矩はその二人の言葉に照れてから、

 「そんな……俺なんか。彼は、静岡のS高なんですよ。」

托力を示す。

 「え、静岡の?どうしよう……。」

その言葉に、托力は乾いた笑いで、ベンチだから。と、あっさり言った。
葵矩は首を横に振る。
静岡S高のベンチと他校のベンチとの格が違うことを知っている。
サッカー王国静岡。
特に静岡が誇るS高。  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・
サッカーの部員だけでも三桁単位ではない。
二年生でベンチに入れる、イコール相当なレベルに達してるということだ。
雪駄も理解しているようだった。

 「でも、俄仕立てのチームでゲームなんて。」

 「ですよね。巧い人もヘタな人に足ひっぱられちゃうかもしれないですよね。」

上目遣いで葵矩と托力を交互に見る。
自分が引っ張る側だ。と、主張していた。
葵矩はにっこり笑って――、

 「それは違うよ。どんな試合をするときも、いつも同じメンバーで戦えるわけじゃないだろ?相手、あるいはコンディションによって入れ替えは必須。」

でも、メンバーが変るたびにチームプレーの練習をするわけにはいかないし、時間がないときもあるかもしれない。
だから。と、葵矩は顔を上げる。

 「どんなメンバーでも、お互いを信頼することが大切なんだと思うよ。」

仲間の顔が浮かんだ。
いおる
尉折、カフス。
るも       や し き
流雲、夜司輝、皆。

 「そして、全員が最高のパス、走り、シュートをする。それが最高のチームプレーにつながるんだと俺は思う。」

――どんな十一人でも、イレブンを組んだら信頼関係が大事。
どんなメンバーでもやっていきける。

カフスの言葉。
葵矩もそう信じていた。

 「だから、楽しく思い切りやろうよ!」

太陽のような笑顔に皆もつられて微笑んだ。

 「すげーよなぁ、やっぱぁ。よ、ゲームメーカー兼キャプテン、エースストライカー!」

托力は褒めて、真顔に戻した。
         あすか
 「願わくば、飛鳥とは敵として戦いたかったな。」

 「……。」

托力は口元を緩めた。

 「もう少し、ガマンすれば俺の願いは叶うのか。」

――全国大会で。


そして、五人の順番が回ってきた。
軽くアップをして、真っ青な空を見上げた。

俄かチームでも、自分の最高の力を出せばいい。
チームの最高のパスをとれないのは、自分の責任。
そうだろ、カフス。

神奈川の空を見る。
大丈夫。
きっと、勝つ。

十四時ジャスト。
神奈川では決勝戦が始まる。

頑張ろうな。
葵矩は皆にいうように胸に手を置いた。
そして、試験に臨む。

 「飛鳥!」

 「オーライ。」

ミニゲーム。
通常は十一人でやる試合を、三から五人で行う。
時間は十分間程度。

想像以上に托力は、基礎が確立され、消化されている。
葵矩は風をきりながら思った。
まるで、練習を一緒に積んできた仲間のように、葵矩をサポートしてくれる。
パスワークも抜群だった。
とてもやりやすい。

――行け。

托力のアイコンタクトがあった。
まるで、葵矩の癖を知っているかのような、アシスト。
せり上がったボールの落下点を即座に読んで、ゴールキーパーのまつゴールへシュート。

綺麗に弧を描いてネットにおさまった。
短い笛の音。

 「ナイスシュート!」

 「ありがとう。ナイスセンタリング。」

葵矩と托力は肩を抱き合った。
皆も歓声を上げる。

すごくやりやすい。
グラウンドも空気も景色も。
何もかも、自分に合っている気がした。

 「飛鳥くん。」

雪駄が小さい体からは想像できないほどの力で、相手のチャージを交わし、パスを送った。
きちんと体力トレーニングを積んでいる。
葵矩は相手を交わしながら、托力の動向を見る。
ちゃんとついてくる。
いつでも最高のパスがもらえるように――、
 くるわ
 「郭!」

最高のセンタリング。

 「ナイスシュー!」

托力はきっちり決めた。
そして、タイム・アップ。

 「すげー気持ちいい!!」

 「本当、最高!」

二対0。
完勝。

 「十分で二点てすげー。」

 「ありがとう。俺本当に感動しちゃった。飛鳥くんの言葉に、プレーに。」

試験のことなど忘れていた。
ただ、サッカーを楽しんだ。
合否などにこだわらず。
皆、さわやかな笑顔をこぼしていた――……。


シャワーを浴び、再び制服に着替え教室に腰下ろした。
                         ・  ・  ・
 「でも、二点目の飛鳥のセンタリング。普通人のシュート並みだったぜぇ?」

托力は語尾をのばして、葵矩の顔を覗きこむ。

 「まじかよ、チームの最高のセンタリングを逃したら、俺の責任か?上等じゃん決めてやらーって。思った。」

笑顔を見せた。
少年のようなイタズラな笑み。
葵矩も笑った。

そこには、もう見えない絆があった。
サッカーという深い絆で、結ばれていた。

 「どーだった、どーだった?」
                 み り な
自分の実技試験を終えた、美李那が興奮した様子で尋ねてきた。

 「もう、最高。」

雪駄が笑顔で説明する。
美李那はいーな。見たかった。と、しきりにはしゃいで、

 「でも、全国大会でみれるね。」

心底嬉しそうに口にする。
皆も笑った。

昼食を済ませ――、
                       ・  ・  ・
 「面接試験。流れ解散だからこれでしばしお別れだな。」

 「うん。次会う時は、東京国立。」

 「そして四月からは一緒に通えるといいね。」

 「あたしも、あたしも。」

四人は円陣を組むようにして手を合わせ、約束を確かめ合った。

  あすか    きさし
 「飛鳥 葵矩くん。」

試験官は、葵矩が受験番号と学校名、名前を言った後、反復して、調査書や推薦書類を一切見ずに口を開いた。

 「第七十三回、全国高校サッカー選手権大会、拝見しましたよ。」

にっこり笑みを漏らした。
嫌味の無い、優しい笑顔だ。

葵矩が礼をいうと、惜しかったですね。と、労った。

 「皆、精一杯やりましたから、悔いはないです。」

負けても、とても内容のいい試合ができたといえるから。
はっきり口にした。
結果ではなく、過程が大事だと、胸を張っていえる。
一試合中、自分がどのくらい満足のいくプレーができたか。
それを評価したい。

 「良い瞳をしています。飛鳥くん。あなたは何故この学園を志望したのですか。すぐにでもプロになれる道が開けているにも関わらず、この学園を選んだ。その理由とは?」

会話口調の質問に、葵矩はリラックスして、

 「はい。自分自身を磨くためです。」

答えた。

プロに入るには、プロの生活をするだけには、まだまだ未熟。
技術的、精神的、総合的に。

 「もっと自分を磨くことが先決だと考えました。貴学の魅力は、何よりサッカーをしながら内外面を育成できる所にあると思います。」

大好きなサッカーを続けながら、自分を磨く。
自分を向上させる。

 「そして、プロのサッカー選手になろう、と思っています。」

試験官は満足そうに頷いた。
そして、最後に、と言葉を切った。

 「サッカーに必要なことは、何だと考えていますか?」

午後一時。
もうすぐ、始まる。

 「はい。……サッカーが大好きだという気持ち。そして、仲間との信頼関係だと考えます。」

サッカーが好きだから、楽しくて仕方がないから。
最高のパス、走り、シュート。
巧くなりたい、と努力する。
辛い練習にも耐えられる。
そして、仲間。
皆の笑顔が浮かんだ。
サッカーで結ばれている強い信頼関係、絆。

そう、俺は、サッカーが好きなんだ――……。


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